名曲294 「少年時代」【井上陽水】
ーー日本歌謡史最高峰の夏曲。無心で心に刻みたいーー
【井上陽水「少年時代」】
早いもので明日でもう九月。夏真っ盛りだったのに。もうだいぶ暑さも慣れてきたし、今年の夏を振りかえってみたい。
{夏が過ぎ 風あざみ 誰のあこがれに さまよう 青空に残された 私の心は夏模様}
{夢が覚め 夜の中 永い冬が 窓を閉じて 呼びかけたままで 夢はつまり 想い出のあとさき}
{夏まつり 宵かがり 胸のたかなりに あわせて 八月は夢花火 私の心は夏模様}
{目が覚めて 夢のあと 長い影が 夜にのびて 星屑の空へ 夢はつまり 想い出のあとさき}
{夏が過ぎ 風あざみ 誰のあこがれに さまよう 八月は夢花火 私の心は夏模様}
究極の抽象詞と思う。具体的なことは書かず、聞く者の想像内に任せるスタイルだ。思い思いの夏を過ごせるという意味で、万人受けする最強の夏曲に君臨できたのである。
この歌詞の秀逸なところは「風あざみ」だろう。このあざみが深い。アザミという花のことを指しており、その花言葉は「独立」などを表す孤独を意味するのだ。
つまりは夏の終わりにある虚しさをこの4文字に込めた。多くの人はそれを調べずに、なんとなく夏を想像するだろう。それが浅いというのは間違い。人それぞれの夏を思い浮かべることができるそのフレーズが最強なのだ。
過去に多くの名歌詞を取り上げたが、このフレーズが最強といってもいいのかもしれない。こういった造語を作れるセンスが欲しいものである。
作詞は井上陽水。作曲は平井夏美。作詞者はもちろんのことだが、作曲の平井さんは相当な能力の持ち主だ。いままで実は存じなかった。ああ、さよなら夏休み。
【今日の名歌詞】
夏が過ぎ 風あざみ 誰のあこがれに さまよう 八月は夢花火 私の心は夏模様