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名曲111 「微笑がえし」【キャンディーズ】

ーーキャンディーズの誇る名歌詞の傑作ソング。引っ越しを控えたあなたに贈りたいーー

【微笑がえし】

昭和の名曲の特徴は、脱帽するかのような歌詞の秀逸さである。今回はキャンディーズを紹介。曲も素晴らしいが、ぜひとも歌詞を推したい。

{春一番が掃除したてのサッシの窓に ほこりの渦を踊らせてます}

作詞は阿木燿子。この歌詞をすべて目を通したあと、思わずこの方をWikipediaで調べてしまったのを覚えている。日本語使いもそうだが、曲に合わせた語のチョイスもうまい。ぴったりとした完成度であり、作曲が別人とは思えない。

{机 本箱 運び出された荷物のあとは 畳の色がそこだけ若いわ お引っ越しのお祝い返しも 済まないうちに またですね}

前半は引っ越しあるあるというやつだ。おそらくこの方はお祝い返しも済まないうちにまたもさっと引っ越してしまったのだろう。

{罠にかかったうさぎみたい いやだわ あなた すすだらけ おかしくって涙が出そう}

サビはウキウキする曲調である。後半の「おかしくって涙が出そう」の歌い方も素晴らしい。キーンと声質が高くなって本当にそんな感じなのだ。指で目元を拭うさまが目に浮かぶ。

{1(ワン)2(ツー)3(スリー)あの三叉路で 1(ワン)2(ツー)3(スリー)軽く手を振り 私達 お別れなんですよ}

引っ越しというのでピンとした方も多いだろう。この曲は明るい曲のようで実は別れの歌なのだ。私の好みにどんぴしゃりである。

{タンスの陰で心細げに 迷い子になった ハートのエースが 出てきましたよ おかしなものね 忘れた頃に見つかるなんて まるで青春の想い出そのもの}

この2番が意味深である。ハートのエースが出てこないとは同じくキャンディーズの曲なのだ。しかもアルバムは冒頭に出てきた「春一番」である。この微笑がえしの曲は1978年にリリースされた。「ハートのエースが出てこない」のリリースは1976年。……ダブルミーニングであるとしか思えぬ組み合わせだ。青春の想い出そのもの、というのも2年前だったのだろうか。

となると、この主人公は2年で引っ越したのだとも想像できる。

{何年たっても 年下の人 いやだわ シャツで顔拭いて おかしくって涙が出そう}

んんん、2番のサビでまたも意味深なフレーズが出てきた。年下の人、つまり「年下の男の子」もまたキャンディーズの曲である。こちらは1975年にリリース。そりゃ年齢は逆転することはないのだから当然と言えば当然だが、味のあるフレーズである。いかにもいいお姉さんという感じがにじみ出る。

そうやって意識すると、{やさしい悪魔と 住みなれた部屋}のやさしい悪魔もキャンディーズの曲、{1(アン)2(ドゥ)3(トロワ)}もキャンディーズの曲だ。なるほどである。でもそういうのに意識を向けさせなくても違和感なく物語が進むのだから素晴らしい。

長くなってしまったがもう少し。

{1(ワン)2(ツー)3(スリー)あの三叉路で 1(ワン)2(ツー)3(スリー)軽く手を振り}

ちょっと戻って、なぜそれぞれ数字の数え方が違うのか問題だ。1番がワンツースリーなのはアメリカンなウキウキしたリズムであるということ、2番がイチニサンなのかはオリエンタルなじっとした様子、3番のアンドゥトロワはフランスの静寂さを思わせる雰囲気を醸し出しているのではないだろうか。文字で表すのが難しいのだが、なんとなくそんな感じがする。

{1(アン)2(ドゥ)3(トロワ)三歩目からは 1(アン)2(ドゥ)3(トロワ)それぞれの道 私達 歩いて行くんですね 歩いて行くんですね}

締め方も最高だ。諸々を含めて阿木燿子のすごさがわかったと思う。キャンディーズの傑作、総集編の名曲を放っておくわけにはいかない。令和に残したい傑作であった。

【今日の名歌詞】

お引っ越しのお祝い返しは 微笑にして届けます


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