名曲643 「ゆずれない願い」【田村直美】[魔法騎士レイアース]
ーーレジェンドの歌う「元祖アニソン」が世間に認められた曲ーー
【田村直美 PV ~ゆずれない願い~】
今回の曲は、私の中でいうと賛否両論枠なのである。というのも、この曲がアニメに起用されたことが要因なのだ。いわば、アニソンらしくないアニソンの代表枠みたいなもので、私の中での定義からいえば邪道に属する。
本来、アニソンとはアニメの主題歌なわけで、作品の背景や世界観を投影させなければならないと思っている。昭和はほとんどそうだった。アトムならアトムがもちろん出てくるし、必殺技やキャラの特性などもびっしり盛り込む。
ところがこの曲はどうだろう。まったく『魔法騎士レイアース』を紹介するどころか、知らないとアニソンであることすらわからないレベルなのだ。普通にJ-POPのミリオンセラーという感じである。
90年代からこの傾向がどんどん強くなった。恐らく、この曲が拍車をかけたといっていい。1994年に120万枚の売上を記録し、田村直美の知名度を一気に高めることになった。それで我も続けとJ-POPの曲をアニメに盛り込んだのではないか。
そういうわけで昔は私はこの曲が嫌いだった。嫌いになったらクオリティにもケチをつけてしまうもので、ミリオンほどの出来ではないとも。事務所やら大人の圧力があったのではないかとも。ぶつぶつぶつ。
だがだんだんと丸くなっていった私。長い歴史を知ったうえで、この曲の存在意義がじわじわと理解できてきたのだ。それは音楽史という狭い範囲で語ってはいけないカルチャーの部分である。当時はもう『宇宙戦艦ヤマト』のように単体のアニソンが爆発的に売れる時代ではなかったのだ。ちょうどバブルが崩壊し、日本全体が気落ちしていたのも関係していそうである。娯楽が進み、年号も平成へと新しくなり、人々は前を向き始めた。いつしかあの頃の昭和アニソンがダサいという風潮になっていく。曲のテンポも時代と同様に速くなっていった。
そしてアニソン自体がオワコンになりつつあった。そう書くのは私がひと通りアニソンを聞いてきた中で、ちょうど80年代後半から90年代前半が谷間の時期(低レベル)だったと理解したのもある。対照的にJ-POPは伸びてきていた。
そして、ひとつの決断が下されたのがアニソンとJ-POPの融合である。こうしてアニソンの文化、地位を守ろうとしたのだ。その結果、アニメもじわじわと復権してきた。そういう意味では崇めるべき存在なのである。
申し訳ないが「魔法騎士レイアース」なんて私はまったく知らなかった。この曲によって救われた存在といえよう。ヒットしていなかったらこのままマイナーなアニメが続々と生まれていたのではないかと思ってしまう。いまはこの曲、私も好き。歌いやすいし爽快感抜群なのだ。
【今日の名歌詞】
いつも跳べないハードルを 負けない気持ちで クリアしてきたけど 出し切れない実力は 誰のせい