名曲896 「時には昔の話を」【加藤登紀子】[紅の豚]
ーーコーヒーを傍に置いて、50年後を思い浮かべるーー
【時には昔の話を 加藤登紀子 紅の豚】
ジブリは久しぶりに取り上げるようで、とんと忘れてしまうのが悲しい。この曲を忘れてしまっていた。しっとりと、落ち着いたところで聴きたい名曲である。
どこか懐かしい気分になる、と書けば嘘になる。私はそこまでまだ人生経験を積んでいない。むしろ現在進行形で苦労、我慢を続けている。この曲の価値が高まるのは、きっと50年後だろう。それまで私は真の価値に気づかずに、浅く取り上げることになりそうだ。
実際、この曲が名曲と感じるようになってきたのは最近になってからだ。小学生のころなんて微塵も、それどころか曲として認識していなかったすらある。地味で苦手だった。だが徐々にピアノの持つ力、加藤登紀子の歌唱力、表現力のよさに気づいてきた。品のいい喫茶店の、1杯のコーヒーのような。
私はまだ20数年しか生きていない。「昔」の時間軸はまだまだ浅い。これから歳を重ねるのが悲しくなる20代、きっと楽しみがあると信じて老いてゆく。しかしこのままでは懐かしむのが最大の楽しみになりそうで、なぜだろう、いまこの曲を耳にしても泣きそうになるのである。
自分の明日はどうなっているのか。そういう想像をしてしまいそうなだけに、いまはまだ苦手でもある。まだ子どものままなのだろう。余裕を楽しめるような大人になりたいものである。