名曲626 「カンナ8号線」【松任谷由実】
ーー想い出にひかれて、思わず来てしまう切なさーー
【松任谷由実 - カンナ8号線 (Live 1990)】
カンナは夏に咲く花ということで、一応この曲は夏曲ということになりそうである。ただ、暖かい地方によく見られるらしく、原産地は熱帯アメリカとのこと。
カンナというと鉋を思い浮かべてしまう人も多いのではないだろうか。そもそも花だと認識している人すら少ないかもしれない。あえて、日本になじみの薄い花を取り上げたのではないかとチラッと推測。そうしたほうが各々のイメージが広がり、曲に厚みがもたらされる。季節感も薄れ、オールシーズン聴ける可能性も。そういえばカンナは人の名前にも使われる。もしかしたらダブルミーニングなのかもしれない。
{チェックのシャツが風にふくらむ うしろ姿を 波をバックに焼きつけたかった まぶたの奥に}
{それははかない日光写真 せつないかげろう 胸のアルバム閉じる日が来るの こわかったずっと}
{雲の影があなたを横切り}
ここの意味深具合が素晴らしい。ぐっとためる。
{想い出にひかれて ああここまで来たけれども あのころの二人は もうどこにもいない}
穏やかに流れていくサビが心境と重なる。もう怒りや悲しみの感情は薄れていそうだ。でもそれでもたまに来てしまうこの光景。きっと何時間もかけて来たのだろう。
この曲はアルバム曲に収録され、比較的マイナーなほうではあるが、ユーミンのベストアルバム(2012年に発売されたやつだったかな)に入っているので耳にした方も多いだろう。私もそこで初めて知った。
心を落ち着けるのに非常にいい。個人的には電車で外の景色(海辺だとより雰囲気が出る)を見ながら聴くのをオススメしたい。電車から流れる景色が、自身の思い出の反芻に思えてなかなかエモい気分になる。
松任谷由実の天才ぶりはこのnoteでは書ききれない。この曲も、個人的に相当気合を入れて書いたようには見えないのだ。さらっと感情の赴くままに作り上げたような気がするのである。制作期間が2時間だとしても全然驚かない。
ちなみに上記のライブバージョンは激しめにアレンジされている。それもかなりの完成度なのでぜひ。どっちも甲乙つけがたい。いやはや、天才なのである。
【今日の名歌詞】
想い出にひかれて ああここまで来たけれども あのころの二人は もうどこにもいない