ルーシー・ホルシュ『Origins』|#今日の1枚
リコーダー奏者のルーシー・ホルシュのアルバム。つい最近来日していたそう。仕事やらプライベートやらでバタついていて、行けなかったのが心底悔やまれる……。
リコーダーと言えば、学校の授業で習うもの……というのは日本人であればもちろんのこと、クラシックの人間としてはそもそも17〜18世紀あたりのバロック音楽のイメージが強い。実際ホルシュも、2016年にヴィヴァルディの協奏曲集、2019年にバッハのほかバロック時代の作品を集めたアルバムを残して、その才を放っている。
そこから角度をガラリと変えて、ホルシュはこの一枚で「リコーダってこういう楽器だよね」みたいなリスナーの先入観をサラリと覆させる。なんてったって、ジャズ・ミュージシャンのチャーリー・パーカーで始まり、チャーリー・パーカーで締めるアルバムなのだ。
タイトルは「Origins」。「Origin」は日本語訳すると「起源」「元」「発端」あたりになる。ホルシュが「コンサートホールで耳にする音楽は、どれも民俗音楽のエッセンスがしみこんでいます。それがどこから来たものなのか、私たちは忘れてしまっているだけなのです」と語る言葉そのものが、このアルバムのテーマである。
やはりリコーダーは、フルート(バロック後期ならフラウト・トラヴェルソ)に役を代わられた過去があるように、他の木管楽器に比べて響きも表現の幅も「小ぶり」になりがちだ。しかしそれをデメリットと捉えるのはいささか性急であって、そこに原始的な素朴さを感じられることはもちろん、音色の純度の高さや、歌うこともできれば小回りの良さで技巧的なパッセージを披露できる器用さを保つのも、リコーダー特有の魅力なのである。
その側面をフルに活かし、民族的エッセンスの強い作品を並べて、原始的なサウンドで原始的なメロディの魅力を強く打ち出したのが、このコンセプトアルバムだ。
特にバルトークの民俗舞曲のように、もろに民謡を素材に作られた音楽だと、そのテーマがより強く伝わってくる。旋法による独特な節回しから感じる土着的な香りは、響きの良いピアノ(オリジナルはピアノで書かれている)よりも、リコーダーの方がよりよく表現できるのではないかと思わせられるほど。
ちなみに私がこのアルバムを知ったのは以下のTwitterの投稿だったのだが、純粋に「リコーダー、かっけ〜〜」と思った。ただでさえ華やかな弦楽器に囲まれているのに、ここまで正確に吹けて、そして圧倒的な存在感を発揮させられるなんて、すごすぎる! と感動したのだ。私ももっと、大学時代の授業で真剣にリコーダーをやっておけばよかった。