(音楽話)20: George Harrison “Between the Devil and the Deep Blue Sea” (2002)
【狭間】
George Harrison “Between the Devil and the Deep Blue Sea” (2002)
11月29日は、George Harrisonの命日でした(1943-2001)。
物静か、皮肉屋、隠遁生活、寡作…彼を形容した言葉の数々は、彼を神秘的な人間に仕立てました。確かにそうだったかもしれませんし、実際気難しい人だったのかもしれない。しかし案外ヤンチャというか活発でもあったようで、モータースポーツ大好き(車大好き)でよくF1観戦してましたし、映画作りに興味を持って一時期は制作会社を立ち上げて打ち込んだこともありました。広大な自宅の庭いじりが趣味になったり、ウクレレにハマってみたり、いろんなことに興味関心を持つ、好奇心旺盛な人だったことは確かです。
1991年。すっかり人前で演奏することがなくなっていたGeorgeをライヴに引っ張り出したのは、盟友Eric Claptonでした。Ericの全面サポートで実現した来日公演。Georgeの超久々ライヴの開催地が日本だったという奇跡。「Georgeにとっては久々のライヴだから、演奏も声もあまり褒められたものではないだろう。もし英国や米国でライヴをやったらそれこそ落ち目だとか金目当てだとか言われて酷評されるかもしれない。だったら、日本あたりでやれば、きっと大歓迎されるだろうし、払いも太っ腹だろうし笑」などという裏事情が実際のところだとは思うのですが、それでもいい、日本が選ばれたことに今は感謝したい。
私はそのライヴを観に行きました。東京ドーム。確かスタンド席。ステージまで結構遠かったけど、”I Want To Tell You”から始まり、”Taxman””Give Me Love””If I Needed Someone””Something””What Is Life”などを歌うGeorgeがそこにいました。そして彼が休憩タイムになると今度はEric。”Old Love”、”Wonderful Tonight”、さらには”Badge”(Ericが60年代に組んでいたバンドにGeorgeが作った曲)まで演るというサービス精神。Georgeが戻ってきて”Here Comes the Sun”“Cheer Down””While My Guitar Gently Weeps”…George Harrisonのオールタイム・ベストなセトリでした。
緊張というより声の出し方がまだ掴めていない感じのGeorgeの声(声が伸びない)も、一生懸命弾いてたギター(Cheer Downのスライドの辿々しさは今も忘れない)も、彼の佇まい自体が神々しくて、まさに「歴史の目撃者」になった気分でした。結局彼名義のツアーはこれが最期。ライヴ・パフォーマンスは翌92年10月のBob Dylanデビュー30周年記念コンサートが最期。体調不良や様々なプロジェクトで多忙だったこともあるでしょうが、彼はやはりライヴがあまり好きではなかったのかもしれません。
“Between the Devil and the Deep Blue Sea”は、彼の遺作となったアルバム「Brainwashed」(2002)収録の小曲です。邦題「絶体絶命」。文字の世界では慣用句として時たま見かける表現です。元々は1931年発表の米国ポピュラー・ソング。最初にレコーディングしたのはCab Callowayというシンガーで、その後ジャズの世界で主にカヴァーされてきたこの曲を、Georgeはウクレレ片手にとてもかわいいアレンジで歌っています。あまりにかわいいのでちょっと意外なんですが、この意外性もまた彼ならでは。アコギ、ベース、ドラムス、ピアノ、チューバ、全てアコースティック。なんて温かいんだろう。そして驚くべきは、Georgeのヴォーカリゼーション。節回しの巧みな使い分け、声の震え、力み方、強弱、譜割の無視の仕方…めちゃめちゃカッコいいのです。そんな笑っちゃうくらいの雰囲気で歌う「なんだかんだ言って結局僕は君に振り回されてる」な歌詞は、君のことをとても愛していることの証左。
Yes, George, I’m still between the devil and the deep blue sea because of you.
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君がほしいわけじゃない
でも君を失うなんて ごめんだね
悪魔と深い海のあいだで 僕はもがいてるのさ
君を許してあげる
だって君のことを 忘れられないからさ
悪魔と深い海のあいだで 僕はもがいてるのさ
君のことは 考えたくはないんだけど
僕のドアをノックしに 君はやって来ると
運命ってヤツが 僕のハートを捻ってしまうみたい
結局は 元の木阿弥になっちゃうってことさ
君を恨むべきなんだろうね
でもこれって 君を愛してるってことなんだ
悪魔と深い海のあいだで 僕はもがいてるのさ
君のことは 考えたくはないんだけど
僕のドアをノックしに 君はやって来ると
運命ってヤツが 僕のハートを捻ってしまうみたい
結局は 元の木阿弥になっちゃうってことさ
君を恨むべきなんだろうね
でもこれって 君を愛してるってことなんだ
悪魔と深い海のあいだで 僕はもがいてるのさ
君はいつだってこうして…
悪魔と深い海に
悪魔と深い海のあいだに 僕を放り込むんだ
(George Harrison “Between the Devil and the Deep Blue Sea” 意訳)
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