(音楽話)58: ゲスの極み乙女。 ”綺麗になってシティーポップを歌おう” (2020)
【確信犯】
ゲスの極み乙女。 ”綺麗になってシティーポップを歌おう” (2020)
皆さんがどういうイメージを持っているかわかりませんが、断言します、川谷絵音は現代音楽界で、国内外関係なく、頭ひとつ抜けた天才のひとりです。
彼の作り出す音楽はクセもアクも強く、良く言えば「一発で彼の曲だとわかる」、悪く言えば「何を聴いても一緒」。歌詞も捻くれた、歪んだ、ジェンダーレスな響きを纏っていて、一度聴いただけではなんだかわからないものが大多数。創作欲が溢れ過ぎ、このバンド以外にも複数のバンドやユニットが同時並行で進められていて、そのどれもが微妙に異なる世界観を持っています。意地悪な言い方をすると、難解にすればいいやって感じのメロディ、どうとでも取れそうな言葉を置けばいいやって感じの歌詞、に見えなくもない。不遜な態度にすら見える彼のスタンスに、そういった見解は当てはめやすいし。
しかし。
印象深いサビのメロディ、曲のコンパクト加減、どこかで引っ掛かるリズムの違和感は聴く者にフックされ、気になる曲として脳内を浮遊し続ける。何回か味わってみると徐々に見えてくるその深淵の闇の深さ。底が見えない。意味のないように思える歌詞の断片が妙に心に残り、時に抉ってくる。時に包み込んでくる。それを彼は確信犯的に作り上げている。そして気づいたら沼に落ちているーーーまるで中毒性の高い麻薬のような、非常に恐ろしい才能の持ち主だと思うのです。明らかに、それまでの日本の音楽界には居なかったタイプ。極端な話、「絵音以前」「絵音以降」に分けられると思えるくらい、日本音楽界の売れ筋や傾向が、彼をキッカケに変わったと言っても過言ではない。
「絵音以降」特に顕著なのが、定番な曲構成を嫌う傾向。Aメロ-Bメロ-サビが基本路線でも、Bメロの節回しを1番と2番で変えたりリズムを変えることで、ちょっと難解に聞こえてくる→個性的と認識される→カッコいい・イケてる、と。とても短絡的で表層的な音楽性だと思えますが、それがトレンドです。
その一方で、具体的な事象や心境をハッキリ言葉にして、言葉数も異様に多い歌が近年は売れる。直接的な表現で詳細な具体性を提示し、直接的に共感を促して聴く者に「それ分かるぅ!」とか言わせる歌世界。その先にある想像や妄想や鑑賞の余地はあまり必要としないし、求められてもいない。
そんな音楽トレンドは、川谷絵音的な音楽アプローチに見えてその実、彼の表面的な音楽性をなぞっているに過ぎない。
当の川谷の音楽は、メロディやリフの巧みさで、抽象的で意味もあるのかないのか分からない歌詞への優先順位を下げさせ、まず聴く者を音の中に埋もれさせる。そして、聴く者が歌を咀嚼し出すと歌詞が突然降りてきて意味を迫ってくる、「おい、意味わかってんのかよ?」と。軽くて重い。手軽で厄介。能天気で意味深。二律背反を常に突きつけてニヤついているイヤなヤツーーーそれが川谷絵音だと思います笑 こんな確信犯な音楽家、今ほとんどいません。
この曲は2020年のアルバム「ストリーミング、CD、レコード」収録曲。「シティーポップ」の取り入れ方、「たまにはラップを嗜んで」という毒、倦怠感や無気力を「夢でずっと 社会を壊す」と表すセンス…脱帽します。そして驚くべきバンドのプレイヤビリティ。メンバー全員、恐ろしく巧い。特にアウトロでのメチャクチャ加減(感情の暴発)はしっかり節を取っている。川谷のヴォーカリストとしての巧さも際立っています。もう、怖いです。
皆さんはどう感じますか?
*********
詰まるところ 私は躓いた
泥臭いハードなギターみたいに
今日もデレロー ずっとレデロー
一人でレイニーナイト
このまま 私は変わらない
後がない どうにでもなれベイベー
私は無敵になるのかな
都会の雨 冷たいふり
イケナイふり お上手ね
夜になったら東京で
綺麗になってシティーポップを歌おう
そしたら完成するはず
都会の雨 冷たいふり
イケナイふり お上手ね
たまにはラップを嗜んで
ヒップホップさながらのシティーポップ
歌って踊って酔いどれ
何をしても 上手くいかないんだ
悲しみに暮れるほどではないが
夢でずっと 社会を壊す
そんな体たらくさ
このまま 私は壁を蹴る
後がない どうにでもなるわ
私もほら無敵の人に
都会の雨 冷たいふり
イケナイふり お上手ね
夜になったら東京で
綺麗になってシティーポップを歌おう
そしたら完成するはず
劇的にベイビー
劇的にベイビー
劇的にベイビーしたいから
夜になったら東京で
綺麗になってシティーポップを歌おう
そしたら完成するはず
ベイビーベイビー
ベイビーベイビー
もう終わりにしましょうよ
せめてもお洒落なコードで
私は落ちていきたい
ザーザー…
(ゲスの極み乙女。 “綺麗になってシティーポップを歌おう”)
(紹介する全ての音楽およびその動画の著作権・肖像権等は、各権利所有者に帰属いたします。本note掲載内容はあくまで個人の楽しむ範囲のものであって、それらの権利を侵害することを意図していません)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?