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(音楽話)127: James Blake “Like The End” (2024)
【なんてことを…】
まずは、上の動画をご覧ください、決して倍速再生させずに。
次に、その映像を思い出しつつ、歌詞を反芻してください。
以下は私なりの意訳です。
僕は 段ボールを分けながら
税金を別の 戦争資金に回してる
僕の魂が目を覚まして こう訊いてくる
まさか許されないものに 金をつぎ込んでるんじゃないよな?って
君は元に 戻れるの?
たとえそれがなにか 判らなかったとしても?
僕のホームは アメリカになろうとしてる
奴らはそう喧伝しないけどね
奴らは君の考えを 好ましく思うだろうよ
君がそれを口にすることもないのに
僕らは もう抜け殻
それを美化するつもりもないけども
(chorus)
でもこれって まるで終末じゃないか?
何かが僕らに 迫ってる気がする
まだ僕ら 準備できてないと思う
これがただの1日目かもしれないというのにね
(chorus)
自問自答してみると 僕ら分裂してる
誰かが旗振り役をすれば 皆武装して身構える
まるでこの世の 終わりみたいじゃない?
言われたことに 同意すらできない時には特に
君は元いた場所に 戻ってくるの?
もし事の真相が 判らなかったとしても?
僕の故郷は アメリカになろうとしてる
奴らはそう声高には言わないだろうけど
(chorus x2)
あなたは、何を感じましたか?
映像、普通に観れましたか?
曲、普通に聴けましたか?
幸か不幸か、日本生まれ・日本育ちの私にとって、歌詞に注意深く耳を傾けて聴かないかぎり、外国語曲の意味が頭にダイレクトに入ってくることはほとんどありません。歌詞を見て初めてわかること、ちょっと深読みすることで途端に視界が開けることがあります。
しかしこの"Like The End"は、MVの不気味さ、所々の歌詞とリンクしたビジュアルを発見しその意味合いを捉えた時、初めはMVの途中で再生を止めてしまいました…とても怖かったのです。
映像、歌詞、音像、メロディ、声質…非常にギリギリで、今にも切れてしまいそうな繊細さ。感じるとても危険なニオイ。MVは一見すると意味不明な映像の羅列でかなりシュール、近寄り難いイメージ。
(90年代のグランジ・ブーム時Nirvanaに並ぶ人気を誇ったSoundgardenの"Black Hole Sun"を思い出しました)
そして歌詞を見ると…震えがきました。抽象的ですが、アメリカという具体名を出しつつも明らかに、世界が狂っていく様を憂いています。もう世界のなにもかも、狂ってるじゃないかーーーと。
英国が生んだ才能・James Blakeの(2024年11月現在)最新曲。2023年のアルバム「Playing Robots into Heaven」未収録で、恐らく2024年になって新たに書き上げたであろう楽曲。誰もが結果的にアメリカを追い求め、なんならアメリカになろうとさえしてる現代…でもそもそも、それっていいことなのか?アメリカ云々以前の問題で、俺らただ狂ってるだけじゃないのか?
神経を擦り減らすようなサウンドと、まるでRadioheadのThom Yorkeのような神経質なJamesのヴォーカルが強烈な歌詞を際立たせ、MVがビジュアルでその発狂ぶりを具体的に指し示す構図。
誤解を恐れずに言います。曲の内容は狂気ですが、この曲を作ったこと自体もまた狂気。恐ろしいほど冷静な視点と正直な指摘、悲嘆を練り込んで、スレスレの楽曲を完成させてしまっている。
まさに、狂気という名の正気。James、なんてことを。
1988年英国ロンドン、インフィールド生まれ。ミュージシャンの父に影響を受けてミュージシャンを志して幼少期にクラシック・ピアノを習い、大学で現代音楽学を学んだそうです。大学在学中の2009年頃から楽曲制作を始めるとすぐにBBCラジオDJの耳に止まるようになり、2011年には「BBC's Sound of 2011」にノミネートされるほどの評価を得ます。
以下は同年、米国のフェスに参加した際の映像。当時23歳。若々しいですが既に何を演ってるのか、パッと見では解らない異様かつオリジナルな演奏スタイル。曲のタイトルは"CMYK"で、Cian, Magenta, Yellow, and Key (Black)の意味。白背景から光を抜いていくことで表すことのできる、特に印刷業界でよく使われる色の基本要素(複合機のインクが代表例)。これは間違いなく、人種や思想など、様々な意味を込めた比喩なはず。こういう人を天才と言うべき、明確な具体例です。
そして同年、アルバム「James Blake」でメジャーデビュー。非常に評価が高く、2013年の2nd「Overgrown」がさらにヒットして、以降は完全に一目置かれる存在になりました。まさに新進気鋭。その後も定期的に素晴らしいアルバムをリリースし続け、それと同時並行して、聴く者が衝撃を受けるようなシングルも要所要所で出しています。
決して分かりやすいコンセプトでも、派手なサウンドでも、ウケの良いポップな楽曲を作る訳でもありません。しかし確実にその時代を捉え、非常に冷静な分析と指摘を開陳し、さらっと警鐘を鳴らす。ダンス・ミュージックとは言い切れない複雑さ、ポップとは言えない陰湿さは、ジャンルを特定できない独自の音楽性を有します。
Jamesは、特殊な耳触りのデジタル・サウンドが得意な一方で、非常にアコースティックなサウンドも志向しているように思います。2021年リリースの"Friends That Break Your Heart"をピアノだけで演ったバージョンはその一端で、メロディの美しさが浮かび上がってくると同時に、歌詞の悲壮感と冷めた視線に気づき、身動きが取れなくなります。
既にこれほどの高みに達しているJamesの音楽性。なんとなく、Brian Wilsonを彷彿とさせるような孤高と才能の塊を感じずにはいられない。
今回の"Like The End"は、これまでの表現手法や曲構成から一歩踏み込んだものに思えます。そしてそれは、とてもスレスレ。これ以上踏み込んだら、なんだかJamesも聴く者もみんな溶けて居なくなってしまうような…そんな危険性を持っている気がします。
だからJames、どうか無茶はしないでくれ。あの警鐘を鳴らすことができるのは、今や君しかいないのだから。
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