(音楽話)107: Steve Winwood “Roll With It” (1988)
【愛すべき最高の仲間たちに捧ぐ】
ここ最近、私は英国の某企業で日本担当として働いていましたが、日本での事業が会社都合で終了となり、私の契約も終了となりました。ずっと働きたい職場だっただけに、仕方がないこととはいえとても残念でした。
某企業にとって私は日本でただひとりの社員で、勤務は自宅でPC、同僚は全員チャットとオンライン会議画面の中(英国やスペイン、ポーランド、スイスなど)。日本のクライアントと実際に会う機会もほとんど無く、ほぼ100%がデジタルの中で終始しました。
かといって、人間関係が希薄になったとも思いませんでした。チャットやオンライン会議でも、十分にお互いの空気感や想いは匂ってくるもので、非常に細かいニュアンスや本音、不安要素などをいかにデジタル上で引き出すか、あれこれ考えながら人と接していました。要は、人付き合いの面で当初少し不安のあった超遠隔な仕事環境を、逆に楽しんでいました。
(スペイン・英国へ一度だけ出張に行くことができ、実際に彼らに会えたことも大きかったかもしれませんが)
就業最後の日。一番仲の良かった同僚から「あとで時間あるか?最後に話そう」とチャットがきました。最後に彼に色々ぶっちゃけて終わろうと私は思い、オンライン会議につなぐと…そこには有志たちが何人もいました。それは、私の就業最後の日に見送ろうと集まってくれた、皆のサプライズだったのです。
「誠実な仕事ぶりが実績を物語ってるよ、本当にすごかったお前は」「あなたのポジティヴな仕事への姿勢と細かなサポートは本当に私たちにとって救いだったわ」「時々チャットしてくる小ネタが面白くて…パワーをもらってたよ」などと皆口々にお世辞を言ってくれます。そして「本当に寂しくなるよ。今までありがとう!」「お前ならきっと今後も間違いなく成功するからみんな心配してないよ笑」「今後も連絡取り合おう!」…全員の優しさと敬意に心から感謝し、少し泣きそうになったのは、ここだけの話。
そんなかけがえのない仲間たちへ、私は最後にこの歌"Roll With It"をチャットで送りました。
Steve Winwood。80年代洋楽が好きなら"Higher Love"でご存知の方も多いでしょう。いや、実際はとんでもない大物、まさに「レジェンド」というに相応しいミュージシャンです。
1948年、英国・バーミンガム生まれ。キーボード奏者というよりそのハスキーでブルー・アイド・ソウルなヴォーカルに注目が集まり、Spencer Davis Groupで60年代半ばに"Keep On Running""Gimme Some Lovin'""I'm A Man"など、後のブルース・ロックやソウル・ミュージックに多大な影響を及ぼす楽曲がヒット。その後Traffic、Blind Facesなどを経てソロに。
あ、ちなみに。Jimi Hendrix Experienceの有名曲"Voodoo Chile"(1968)のオルガン、実はSteveが弾いてます。友達や慕うミュージシャン仲間が多い彼は、客演・名演が非常に多いのは、まさにMusician's Musician、彼の特徴のひとつです。
80年代に全盛期を迎え、前述"Higher Love"が大ヒット。そしてその後、この曲"Roll With It"も大ヒットしました。いかにも80年代なサウンドですが、ソウルフルなリズムとSteveの弾くオルガンに乗せて、彼は「気にせず突き進め」と言っています。人生観にも恋愛観にも聞こえますが、聴く者を励ましてくれる、言い方悪いですがケツを蹴飛ばしてくれる歌です。
私は昔からこの曲が好きで、"Roll With It"といえばこの曲。最近再結成を発表したOasisの同名曲の方が有名かもしれませんが(大学時代、卒業ライヴで後輩と演った記憶が甘酸っぱい笑 私は勿論歌いました)、Steveの"Roll With It"の方が遥かに勇気をくれるのです。
(以前触れたことがありますが、単に私個人がハスキー・ヴォイスに非常に弱いという特性があります笑)
私に最後まで敬意と優しさ、様々なサポート、議論、助言、愚痴の聞き相手まで担ってくれた、愛すべき同僚たちに、心からこの曲を送ります。彼らの恩義や期待に応えるようしっかりと生きなければとさえ今は思っています。万年ネガティヴで根暗な私の性分からは想像つかない話ですが笑、それを忘れないように、ここに記した次第です。
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