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XG "HOWLING" (2024)

音楽話138: 咆哮


触手が動かない…

私が今、その動向が気になりだした音楽がありますーーーXGです。

KPOPグループに日本人がいることは珍しいことではなくなりましたが、XGは全員日本人。でも音はどっぷりKPOPでプロデュースも韓国なのでKPOPグループと位置付けることもできる。でも歌詞は全編英語で、韓国語(ハングンマル)で一切歌わない…彼女たちの音楽に初めて触れた時、どう捉えればいいかわかりませんでした。
そして、私が勝手に抱いていた固定観念を簡単に吹っ飛ばし、韓国や日本という市場以上の規模を視野に入れてグローバルに売れてやるという野心がギラギラと激っているのを感じ、もう時代はそういうところに行ってるんだと思いました。

2017年、AVEXが世界で売れるガールズグループを作る名目で始まった「X-Galaxy」。5年以上の月日をかけ、1万人以上の応募者の中から最終的に選ばれた7人で結成。AVEX直系なので彼らの息がかかったメンバーが大半ですがその歌唱力、ダンス、キャラ立ち、ファッショニスタぶりは強烈で、大真面目に世界を撃ってやろうという気概を感じます。

2022年3月に"Tippy Toes"でデビュー。この段階で既にコアなR&Bを鳴らしてますが、まだ大人しいというかキレイな音だった気がします。失礼な物言いですが、この段階ではR&B系JPOPやKPOPと大差ありません。そして、KPOP独特のねっとりまとわりつくような発声で英語の歌詞を歌ったりラップしたりするので、てっきりKPOPだと思ったのです。
その後も"MASCARA", "SHOOTING STAR", "GRL GVNG"などをリリースしていきましたが、R&Bをベースとしたサウンド(特にAメロは音数の少ないリズム重視加減)、デジタルなヴォーカル処理やラップと歌メロの並べ方、サビでの音空間の広げ方など、昨今のKPOPの売れ線そのもの。サウンドのテイストは曲ごとに変えてはいますが、KPOPの良くも悪くも特徴になっている「どの曲聴いても基本的に楽曲構成が一緒」はXGにも当てはまってしまっているようにも感じました。うーん、カッコいいかもしれないけど触手が動かない…そう思って、冒頭のような第一印象を持ちつつも、その後私は静観していました。

少女から女へ

私的に状況が変わったのは、2024年5月リリースの"WOKE UP"でした。

基本的にはこれまでとあまり変わりがないように聴こえますが、R&Bというよりコア系HipHopの音の冷たさ、バックに流れる音階なのかSEなのか判然としない音色、感情面を抑えて言葉を置いていくヴォーカリゼーション、"don't get under my skin"という歌詞の生々しさなど、急激に「女の子」から「女」に変わったペルソナが、彼女たちの個性的なヴィジュアルとピッタリ合致して、今までいそうでいなかったガールズグループを形作り始めたように思えたのです。
(それまでどこか背伸び感のあった女子たちが、大人の匂いを感じさせながら力強い女に変貌したように聴こえた、という意味で「女の子」「女」を使っています。それ以上の含意はありません)

続く"SOMETHING AIN'T RIGHT"はよりポップなサウンドですが、地に足のついた印象のある安定した発声、いろんな経験を経て得たであろう自信のような強さを感じる目つきと姿勢が表す通り、とても安定して聴き応えのある楽曲になっています。なにより、"WOKE UP"との対比が効いていて、音楽性の幅が格段に広がった印象を受けました。

要は(偉そうですが)ついに化け始めたと私は思ったのです。

今こそ咆えろ

そして、2024年11月にリリースされたのが"Howling"。私はこれが決定打になりました。
アナログ楽器のサンプリング、抑えたBPMに刻まれるリムショットやハイハット、Bメロの速い流れからサビの広げ方、構成もシンプルですがKPOPというより、より高い汎用性ある型に進化した印象。心地良いリズムと展開、ヴォーカル部分の美しさが際立つ構成だと思います。
これは私の歌詞深読みですが、特に2番はとっっっても意味深だと思います。前述の"don't get under my skin"以上の暗喩がゴロゴロ…この辺で止めておきます汗

タイトルの"Howling"は「咆えること」。世界に向かって進撃していく意味を込めて、ついてくる奴はついてこい、そうでなければそこを退け、でなければあんたの命はないーーーという、古典的HipHopの世界観。若い時にしか叫ぶことの許されない唯一無二感、無敵感が表れています。
ちなみに彼女たちのファンダム(コアなファン層の呼称)は「ALPHAZ」。Alphaは「狼の群れのリーダー」のことで、「XGと共鳴して新たなムーヴメントを起こしていく存在」という意味を込めているんだとか。つまり、そんなファンたちと共に世界に向かって咆える、という意味も"Howling"にはありそうです。

先程から「咆える」と言ってますが、「howl/ほえる」は漢字に直すと「吠える」「吼える」「咆える」の3種類が大概出てきます。そして本来、MVの狼なヴィジュアルやファンダムを考慮すれば「吠える」と訳すべきかもしれません。でも私はここはあえて「咆える」としたい。
小動物がほえる場合は「吠える」と表すのが一般的で、「咆える/吼える」は大きな動物や怪物が大声で叫ぶ様を表すんだそうです。であるならば、小さな彼女たちひとりひとりは狼の姿で叫ぶ=吠えますが、それらが集合体=XGとなった時、大きな猛獣のように叫ぶ様は「咆える」が相応しい。ましてや、世界に打って出ていくのであれば尚のこと。それに、XGの由来は「Xtraordinary Girls=規格外のガールズ」。小さく吠えてはダメなのです、ここは大きく咆えないと!

世界に打って出るために

正直、アジア系音楽が欧米で売れることは困難を極めます。BTSやBLACKPINK、New Jeans、TXTなどは、米国チャートで光り輝き、音楽賞受賞や人気TV番組出演、ハイブランドのアンバサダー就任や著名イベントでのショー出演など、成功していると言っていいでしょう。勿論それらは彼らの楽曲やMVが若年層の支持を得たこともありますが、KPOP業界の米国エンタメ界への強力な売り込みとプロモーションの徹底が奏功した結果とも言えると思います。韓国政府自体がKPOPを有効な輸出産業と位置付けて10年以上に亘って育んできた取り組みが、ここ数年の飛躍につながっているわけです。
しかし日本の場合、そこまで本気に取り組んでいるとは思えない。経済指標的には不景気ではないはずなのに市井に全く好景気が舞い降りてこない、閉塞的で行き止まり感すらある日本経済の只中で、閉鎖的な日本音楽市場がその外側を攻めていくことは、相当な覚悟と根気強い継続性、計画性、そしてリスクマネジメント性がないと実現しません。いくらXGとその関係者が鼻息荒く奮闘しても、市場全体の後押しがなければ、市場を切り拓くのは難しいはずです。

だからこそ、期待したい。AVEXが海外志向を匂わせて数年経ちますが、そろそろ目に見えてわかりやすい結果を出したいところ。CorchellaやReadingへの出演だの、Jimmy FallonやKelly Clarksonのショー番組出演などの既存のメディア・プロモーションではなく、中毒性ある音とヴィジュアルでSNSで裾野が広がり、BillboardやNMEでランキングの階段を着実に上がっていってほしい…勝手なこと言ってますね私。すみません。

From Japan, via KPOP, to the world。広義でグローバルな音楽としてポジションを確立できるかどうか。XGの挑戦は今年恐らく本格化するのでは?と推測しますし、その咆哮が轟くことを期待しています。

"HOWLING" 意訳

まずは私たち ロックしてロールしていく
街はホットよ だってXが玉座に座ったから
ダイヤみたくタフで 壊れもしない(○Xゲームみたいにね)
明かりが消えて ダチは増えてく
敵はみんな 私の餌食
飢えたゲームに 煙を撒き散らかす(あはは 煙に巻かれたくないでしょ)

牙を剥いて 3つでアタック、一丁あがり
引っ掻き爪を 挨拶がわりに振り回してる
クソが多すぎ 人数なんてわからない
赤い斑点 ほんとに見えてる?
料理好きな私 ご馳走を狩りにいく
食欲はただ 増していくばかり
狼に化けたら スリラーねきっと
血の中で目覚めてたら 私が殺し屋

消え去ったら もう戻れないし
闇に隠れることも できない
だって 月が光るから
満月の光が 照らし出すから
私たちを脅すことは 何者もできない
馴れ馴れしくするのは 止めなさい
きっと危険よ それって
物音が聞こえたら 逃げることね(その音よ)
それが 私たちの咆哮よ

(repeat)
Ah ooh…
それが私たちの咆哮 唸り声 野生の姿(それが咆哮)
Ah ooh…
それが私たちの咆哮 唸り声 野生の姿
で、今あなたは どこにいるの?

狼のように 屋根の上をムーンウォーク
ナショジオのズームショット みたいに動く
ほら、集合よ 仲間みんな連れてきて
このプレイは あなたが真似できるものじゃない
ファーストダウンで どうするのか見せてあげる
タッチダウンは インパクトあるわよ
スローをキャッチして ゴールするってこと
…ビデオ巻き戻して
マジでもう一回 やらなきゃダメ?

あなたが 獣を放ったのよ
ウルフギャングはウチらのこと 宴はもう準備万端
最初の世代 ニュータイプとでも呼びなさい
止めないわよ まだ与えなきゃならないんだから
聞いて 咆哮が聞こえてる?
何千もの Alphazたちの声が
やがてあなたを囲む それって恐怖ね
こっそりと動いて 野生のごとく突き進む
戦い以外に 選ぶ道はないのよ

逃げれないし 逃げ道もない
隠れる場所も ない
真夜中近くに
夜空が不気味に覆っていく
私たちの足を止めたり危険にさらすものは 何もない
もし怒らせたら それって危険
物音が聞こえたら 逃げることね(その音よ)
それが 私たちの咆哮よ

(repeat)

剥き出しの世界へようこそ
最強の者だけが生き残る世界へ
逃げるのはもう遅いわ せいぜい跪いて祈ることね
闇の中で私たち 咆えているわ

それが私たちの咆哮 唸り声 野生の姿(それが咆哮)
Ah ooh…
それが私たちの咆哮 唸り声 野生の姿
で、今あなたは どこにいるの?

XG "HOWLING" 意訳

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