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(音楽話)119: ROSÉ & Bruno Mars “APT” (2024)

【世界を弄ぶ男】

「コラボレーション企画」って昔から無数にありますよね。昔は「コラボレーション」「コラボ」なんて呼んでなくて、「タッグ」「コンビ」「タイアップ」なんて呼んでましたっけ…
あのFrank Sinatraだって、"The Lady Is A Tramp"(w/Luther Vandross)、"What Now My Love"(w/Aretha Franklin)、"You Make Me Feel So Young"(w/Charles Aznavour)、"I’ve Got The World On A String"(w/Liza Minnelli)…多くのデュエット曲を遺しています。元々誰かの曲だったり、自分がひとりで歌った曲ではあるものの、これも広義の「コラボ」。まぁ彼の場合はほぼ余興的なもの、相手にとっては光栄、箔が付く、同じく余興、だったりはしますが、普段見ることのできない組み合わせは、人々を喜ばせるに足る興奮と関心を生み出すものです。

その時々で売れている者同士が組んで楽曲を発表すれば、もう話題騒然。皆我先に聴いてカヴァーしたり、踊ったり、BGMに使ったり、部分的に切り取ってSEとして擦ったり。音楽だけでなく、ファッションや絵画、ライフスタイルにまで波及することだってあります。つまり、「コラボ」は売上やライセンス・フィーだけでなく、市場全体への影響度が強くなることで、本人の業界内ポジションをより確固たるものにします。この傾向が国内外関係なく定番化するのも頷けます。
しかも認知度が高く、シングルもアルバムもビッグ・セールス、ライヴ・ツアーも大盛況、ファンを呼称する特定の呼び名がある、みたいなシンガー、ミュージシャンであればあるほど、コラボには積極的です。いや、本人が積極的というより、所属事務所やレコード会社などがその知名度に肖って他者とコラボさせたがる、というべきでしょうか。

日本での分かりやすい例は椎名林檎でしょう。
2002年のカヴァー・アルバム「唄ひ手冥利〜其ノ壱〜」では宇多田ヒカル"I Won't Last A Day Without You"(Carpenters)を歌い当時話題になりました。

その後バンド・東京事変→再びソロになり、コラボは益々活発化。以下はほんの一例です。

椎名純平(林檎の実兄) "この世の限り"
宮本浩次(エレファントカシマシ) "獣ゆく細道"
トータス松本(ウルフルズ) "目抜き通り"
向井秀徳(ナンバーガール) "神様、仏様"
AI "聖者の行進"
のっち(Perfume) ”初KO勝ち”
新しい学校のリーダーズ ”ドラ1独走” などなど

私見ですが、彼女のコラボ企画のスタンスは、いかに相手を料理するかに終始していると思います。相手の歌声やスタイル、音楽背景、滲み出る熱量、セールスポイントを、彼女がいかにコントロールして自分の土俵に上手く立たせ、楽曲を特別なものに仕立てるかを常に念頭に置いているのでは?と。
平たく言えばプロデュースですが、結果的にそれは彼女の秀でた才能を称賛する材料・実績になっています。コラボ曲を出せば出すほど、彼女のポジショニングはどんどん高まっていく。結果、現在の日本音楽界・エンタメ界における彼女の影響力はとんでもなく大きくなりました。ユーミンや松田聖子でも辿り着けなかった場所に、椎名林檎は今立っています。

但し、1曲を除いて。
彼女は相手先に出向いてコラボすることもありますが、レキシ"きらきら武士"もその中のひとつ。が、彼女は完全にデフォルメされ、素材として徹底して使い倒されています。要はレキシが林檎に全く喰われていないどころか、レキシが林檎を喰っています…レキシ=池田貴史の大天才ぶりがよーくわかる名曲です。
(以下の記事で、超有名ジャズ・ピアニスト上原ひろみをフィーチャーした"きらきら武士"を紹介しています。林檎の件も触れていますのでよろしければご一読ください)

話が大幅に逸れましたが、今回の"APT"は、BLACKPINKのRoséと、今や世界中で有名になったBruno Marsによるコラボ曲です。APTとは韓国語でアパート=マンションのことで、韓国で流行っている飲み会ゲーム「アパトゥ・ゲーム」の掛け声なんだそう。2024年10月18日にリリースされ、YouTubeでMVが1週間で1億3千万回以上再生…とんでもない勢いで世界中で視聴されています。BLACKPINKとは違う、Roséの可憐さやキャッキャ感が良く出ていますし、Brunoらしいメロディやドラムスのパターンがリズムの跳ね具合を上手く表現できていると思います。
(歌詞は今回お休みします、英語的に簡単なのでわかりやすいと思いますし)

15年以上前のK-POPにとって、海外の主戦場は日本でした(東方神起、Bigbang、KARA、少女時代などが代表例)。しかし韓国はある種国策としてK-POPの海外進出先を米国に据えた方針に転換。様々なK-POPグループが米国進出を狙いましたがあまり大きな成果は得られませんでした。しかし遂に2020年頃、BLACKPINKBTSが全米で大人気に。単にチャートを賑わしただけではなく、MVとダンス、ライヴ・ツアー、ファッションやグッズ、インタビューなど、多くの分野で圧倒的な認知度と人気を得るに至ったのです。
(非常に効果的なプロモーション展開だった当時。K-POPについてはいつかまとめて書くかもしれません)

BLACKPINKのメンバー4人はそれぞれ、主にファッションの分野で活動範囲を拡げています。米国アンダーウェア大手Victria's Secretが2024年10月久々に行ったショーではLISAがミュージック・アクトのメインを務めました。Jennieは複数のハイブランドでミューズに採用されモデル・デビューもしていますし、JISOOはTommy Hilfigerの、RoséはSaint Laurentのアンバサダーを担っています。
また4人はソロ曲でも米国デビューしていて、特にLISAは多くのTV番組に出演、"LALISA""Money""ROCKSTAR"といった自曲を披露しているので、BLACKPINKの事務所はLISAのプロモーションに一番熱心だと思っていました。しかし先日、Roséが2024年12月にソロ・アルバムをリリースすると発表され、そのリード・シングルとして"APT"がリリースされました。
(リリースの数日前、RoséとBruno双方が突然Instagramに匂わせポストしてました)

Brunoは、2010年7月にリリースしたシングル"Just The Way You Are"が大ヒットし、"Granade"とあわせて年間売上1位・2位を独占。シングル、アルバム共に「出せば売れる」状態になったのですが、決定的だったのは2014年。Mark Ronson"Uptown Funk"に参加すると、米Billboardのシングルチャートで14週連続1位を記録する大ヒットに。2015年には『世界で1,000万枚以上売れたシングルを3曲持つシンガー』としてギネス登録。
ちなみに、米国のエンタテインメント業界人にとって最高の名誉のひとつ、NFL SuperBowlのハーフタイムショー出演。彼は(2024年時点で)2回出演していますが、特に2回目出演時、"Uptown Funk"を歌いながらBeyoncéとバトルした場面は、ハーフタイムショー史上有数の名場面です。
(彼らの横でウッホウッホしているのはColdplayのChris Martin。本当はこのショーの主役は彼らなのですが、完全に霞むほど、BrunoとBeyoncéのパフォーマンスがスゴい強烈。↓の画像をクリックしてぜひ動画をご覧ください)

以降も順調に楽曲とアルバム・リリースを行い順風満帆。しかし2021年、彼は突然Anderson .Paak(非常に才能豊かなミュージシャン。心地良い、ズルい声質の持ち主)とユニットSilk Sonicを結成します。
それまでも70-80年代ディスコと現代センスを融合させた「懐かしいけど聴いたことがない」音を鳴らしていたBrunoですが、それをさらに前に進め「ほぼ完全にレイドバックな作風なんだけどどこか新しい」サウンドを生み出しました。APとの声の絡みも非常に相性が良く、快楽とユーモア、悲哀、無邪気などの感情が混ざり合って私たちの耳を喜ばせます。オールドスクールなディスコやソウル、R&Bのメロディ、構成をほぼ完コピして、アナログ・レコーディングに限りなく寄せたデジタル・サウンドでチルアウトな世界観。正直、目新しさや先進性はありません。しかし心地良さは非常に濃密で、極めて中毒性の高い音楽です。

BrunoはAdele "All I Ask"や若かりし時代のJustin Bieber "Love Me"など、楽曲提供も行っています。最近ではドン・キホーテのCMソングなんてものもありましたね。
そんな彼が次に何をするんだろう?と思っていたところ、2024年8月にシングル"Die With A Smile"をリリース。しかもソロ名義ではなく「Lady Gaga, Bruno Mars」名義。これもまた恐ろしいほどの中毒性を持った楽曲です(Youtube掲載2ヶ月で再生2.1億回以上)。
これまでのディスコ的なアプローチとは趣きが異なり、少しカントリーの匂いがするメロディ。Lady Gagaは非常に器用かつ演技心が旺盛な人なので、彼女の良さを全面に活かして物語性を強調しています。コーラスも細かい技巧が施されていて、Gagaの非常に高音のコーラスが入ったかと思えば上下が入れ替わったりしてユニゾンっぽい部分もあり、メロディの哀愁を表現しているように感じます。
(MVのGagaのメイク&間奏でのダンスが個人的にツボです。大変失礼とは思いますが言わせてほしい…私には「ドリフのコント」にしか見えないんです彼女が笑)

この”Die With A Smile"リリースの後にやってきた"APT"。両者全く違う作風です。しかしサウンド(耳触り)はどことなく共通。そして、Lady Gaga、Roséの特性を活かすというより、彼女たちに演じさせて、その世界観の中でBrunoもまたなりきって遊んでいる…そんな印象を受けます。つまり、

Brunoの「コラボ企画」は、相手の特性やセールスポイント云々を重視してコントロールするのではなく、あるテーマの世界観で相手に自由に演じてもらい、その周りで彼自身もまた遊びながら絡んでいくというものではないか?

彼のプロデュースなので大きな振り幅や意外性はあまり感じません。でも、細かなところで微妙にハズしてくる、心地良さの種類が毎回違う気がする。なぜなら、曲ごとの世界観が彼手動ではなく相手主導=マチマチだから。その意味で、椎名林檎のアプローチとは全く異なると思います。

理屈っぽいですか?確かにそうですね笑 でもたまにはこうやって、同一人物による楽曲別の聴こえ方、共演相手の違いなどを考えながら、その曲の意図や背景を想像するのも、音楽の楽しい妄想のひとつになりませんか?

Anderson .Paakにせよ、Lady Gagaにせよ、Roséにせよ、彼のコラボ企画は非常に興味深いですし、多彩です…そう思わされているだけという噂も…ハイ、私弄ばれてます。そしてそれはきっと、世界も弄ばれているということではないかと。あなたはどうですか?

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