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(音楽話)125: Number_i “BON” (2024)

【良い味】

彼らのこれまでの経緯や元の事務所の問題、日本芸能界の事務所とメディアの関係性など、いろんなところでいろんな人が語っているので、ここでは多くは語りません。ただ少なくともハッキリしているのは、現在のような状況にならなければ、彼らは結成されていなかったはずだということです。

5人組アイドルグループKing & Princeから、2023年5月に3人(平野紫耀、岸優太、神宮寺勇太)が脱退。同日に平野・神宮寺は所属のジャニーズ事務所も退所(岸は9月に退所)し、キンプリは残った2人(永瀬廉、高橋海人)で継続される一方、辞めた3人の動向に注目が集まりました。そして同年7月、平野・神宮寺がTOBE(社長=ジャニーズ事務所幹部だった滝沢秀明)への合流を発表。10月に岸が合流し、3人で結成されたグループがこのNumber_iです。

正直に告白します。当初、私にとって彼らのことはどうでもいい話でした。昨今のジャニーズ問題(ジャニー喜多川の性虐待問題に端を発する一連の問題。事務所の経営姿勢、社会性、メディアへの圧力など。そもそもの切欠はSMAP解散時のゴタゴタと後日談で聞こえてきた醜悪な権力闘争だと思います)の影響を受けてグループがバラバラになってしまったんだな、タッキーのTOBEが受け皿になった=彼らの分裂は既定路線だったのかな、くらいにしか思っていませんでした。
しかし、その印象が一変する出来事がありました。

2024年1月1日、Number_i初のシングル"GOAT"がリリースされました。その音源に触れた時、耳を疑いました…本当にこれ、元キンプリの3人なのか?と。
とてもヒップホップでハードコアなサウンド。GOAT、とはGreatest Of All Timeの略だそうで。"史上最高"という意味自体、いかにもヒップホップ。メロディはほぼ皆無で、リズムとラップで畳み掛ける重々しさ。「俺たちについてくりゃ間違いねぇ」的な圧倒的自信と覚悟を表した強い歌詞もヒップホップ・あるある。どれも、キンプリ時代にはほぼ見ることのなかったフォーマット。世界を見据えて相当練り込んで制作したんだそうで、当時のインタビューでも鼻息の荒さが分かります。
そして元々ダンスの上手い人たちなので、ヒップホップ・ダンスもお手のもの。以下の動画でもキレキレ加減が分かります。

メンバーに対する印象として、平野が一番目立つ存在だと私は思っていました。アイドルとしての容姿の良さはもちろんですが、バラエティ番組に出演し始めた頃に炸裂させていた、天然かネタか全く予測がつかないボケの数々は、素人の私でさえ「なんだコイツ!?」と驚いたものです。
その後キンプリが売れ、他メンバーのメディア露出度も高くなっていく中、私の中で岸が急上昇していきました。彼もまた、バラエティ番組での言動が予測できないレベルでしたが、平野とは違う…完全に天然なニオイ。誤解を恐れずに言うと、ヤバいニオイがするのです、岸には。とても楽しみな人材です。
神宮寺は正直印象が薄いですが(すみません)、平野・岸という強い個性な両者とは違う雰囲気を持っている印象で、バランサーとして重要な役割を担っているように思えます。

"GOAT"後も数枚シングルを出し、9月に1stアルバム「No.I」をリリース。今回の"BON"はその収録曲になります。この曲、2024年にリリースされた全楽曲の中で、私的にトップ10に入る曲だと思っています。

"GOAT"で見せていたヒップホップ性はそのままに、和テイストを取り入れたサウンド。笙と鈴の音色が厳かな合図となり放たれるゴリゴリのヒップホップな流れは、Bメロでメロディアスなパートを挟むことでイントロの和音を浮かさず、サビの歌詞は「花咲かせろ BON, BON, BON, BON, BON, BON」。適度に音数を間引いて1音ずつの重さを強調する場面、静と動でメリハリをつけながら3人のパートをうまく繋げている妙など、非常に綿密に作り込んでいます。
BONというので悩とか平のことかと思ったのですが、まさかの盆栽。自身を盆栽に準え、どれひとつ同じな盆栽はない、迷う暇はない、大事に育てろ、そして必ず花を咲かせるんだ、という…メッセージ性も手が込んでます。

なにより気に入っている点は、ポップにウケを狙っていないところ。もっと一般に届けたいと思うなら、ここまでゴリゴリなサウンドにする必要がありません。彼らのレガシーをベースとした売上はある程度見込めるでしょうが、それ以上にチャレンジしたい気持ちが強い、今までとは違うことを強調したいのだろうなと推測します。
この路線であれば、彼らが口にしている「世界に出たい」という想いはいつか届くかもしれません。良い味してると思うんです、個人的な印象ですが。和テイストは常に意識して、彼らには引き続き楽曲を作ってほしいなと。

世界で売れるための個性は、エンタテインメントの世界にかぎらず、絶対的に必要です。それが「良い味」になって、一目置かれるようになる。真似事で売れることもありますが、それは一過性でしかなく継続できません。

Rina Sawayamaが売れている理由は、彼女が出自を隠さず、イマドキな若者の心理と日本的感覚(言葉選び、SEなど)を上手く織り交ぜて表現し、特に20-30代の共感を得ているから。
COMME des GARÇONSが有名な理由は、モードなデザインをモノトーンで表現するというある種の業界タブーを川久保玲が意図的に犯し、和文化の引き算の美学や美しい素材を取り入れて新たな世界を提示したから。
ラーメンが日本食として世界で認知されるようになったのは、中華麺が日本の改良文化に溶け込んで具材・スープ・出汁・麺が発達し、非常に広範な人間のニーズに応えられる料理に昇華したから。

いずれもかなり強引な極論なので、異論反論はあると思います。しかしたとえ国籍云々を口にしなくても、最終的な表現にそれが滲み出れば、そのものの個性はもっと光るものです。
国なんて関係ないという意見は、個人を束縛しないという意味では私も同意します。しかし同時に、その人を構成する要素としての国籍、生まれ育った環境による影響は、決して無視できないのも事実です。
国に縛られる・縛られないの話ではなく、自分の出自を認識し、それを活かすことが大事だと、私は言いたいのです。

Number_iが"BON"のような楽曲を今後も出していけば、今に非常に面白い現象が海外で起こる気がしますし、それを期待しています。
(そして、"KC"こと岸優太という未開の才能の塊が、世界に発見されることを心から願っています笑)

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