【アーカイヴ】第150回/シュアのオールド・カートリッジをなんとか自分の好みにたぐり寄せた3月 [田中伊佐資]
●3月×日/「昔のシュアなんて聴いてられないでしょ」とか「いまさらMMカートリッジはないよな」とか見下していたのは間違いだった。昨今のオーディオ雑誌などではかなり影が薄いので、そうずっと思い込んでいたところが僕にはある。皮肉にもそのオーディオ雑誌(ステレオ誌)で、一昨年の秋、強引に歴代シュアの聴き比べをやってみたら、大きなインパクトがあった。いまでもその余韻が残っていて、得点が高かったモデルをぼちぼち集めている。
しかしご多分に漏れず、工夫もなくいきなりそのままでは自分の好みに完全フィットしない。そこでカートリッジ回りの小物で仕立て直す。これが面白い。
最初に入手したM7Dは60年代に生まれた代物で、やたらぶっとくてラウドな素性。その時代に録音された盤にはいい感じ。だが最新プレス盤を聴くとがさつなところが目立つ。
そこでフェーズメーションのヘッドシェルCS-1000を付けてみる。このシェルはジュラルミン製のためか、カチッとタイトでシャープ。さらにリードワイヤーはレッドローズミュージックのシルヴァー1を付ける。導体は極細19本の純銀線だ。これでパワー感を失うことなく襟を正した音になった。M7Dにしてはお洒落すぎるかもしれないが。
次に買ったM75Bは中古市場で多く出回っていて数千円で手に入る。これもなかなかタフな音を出してくる。
ステレオ誌の編集者、グランジでスワンプな吉野さんは「オーディオ的にはレンジは狭いし立体感もない。だけど音楽の勢いがサイコー」と絶賛している。僕もそれに同意するが、さらにスケベ根性を起こして山本音響のヘッドシェルHS-5S(6Nリードワイヤー付き)を採用。このシェルはチタンの清涼な響きと剛健な低音が特徴で、ナチュラルではないと言われれば確かにそうだが、M75Bは着磁したかのように威勢良くなった。
最後はやっと見つかったV-15。ヴィンテージとは思えないほど、繊細な情報を拾う。そしてアメリカンとは思えないほどジェントルだ。シュアはもっとワイルドであって欲しいので、やや肩すかしをくった。
オリジナル針VN2Eの適正針圧は0.75から1.5gのハイコンプライアンス。そのわりにアルミ製ハウジングはけっこう重い。バランス的にはもっと針圧をかけたほうがいいはずだ。その抜け道は簡単だった。同じシュアのM44系の針と交換できるのである。針圧3gまでいけるN44-7<と交換して、最高にばっちりハマった。
さらにシェルを山本音響のカーボン製HS-4、リードワイヤーをKS-Remastaのヴィンテージ線にして一躍横綱に昇格した。もちろん前記2種がそのままでいいはずがなく、横綱を倒すように目を掛けるつもり。
●3月×日/八重洲のGibson Brands Showroom TOKYOで第9回「八重洲レコード聴きまくりの会」を行う。僕がかけたレコードは下記の通り。
・Phoebe Snow(DCC)
・Lucky/Nada Surf
・ケンとメリー~愛と風のように~/BUZZ
・Requiem For Hell/MONO
・Cheap Thrills/Janis Joplin(Mobile Fidelity)
生島さんがかけた盤が次の4枚。
・Cleopatra Feelin' Jazzy/Paul Gonsalves
・初恋/三田寛子
・Dealin'/Richard Davis
・Bouncing with Dex/Dexter Gordon
「ケンとメリー」はもちろん40年前に「ケンメリ」スカイラインのCMでかかっていた曲。懐かしいとかいうよりも楽曲として好き。ニール・ヤング『ハーヴェスト』A面1曲目「アウト・オン・ザ・ウィークエンド」のイントロとほぼ同じなので「そっくりでしょ」としたり顔で続けてかけようかと思ったんだけど、やらなくてよかった。それは野暮。好きだったらパクりでもなんでもいいのです。
さて記念すべき第10回ヤエレコは、舞台を東京国際フォーラムに移し、5月13日「OTOTEN」のティアック・ブースで実施の予定。まだ予定ですけどね。
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東京都生まれ。音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。著作に『音の見える部屋 オーディオと在る人』(音楽之友社)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(音楽之友社)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。
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