第329回/ケーブルの素性と高音質処理、どっちが大切?[炭山アキラ]
オーディオにはアクセサリーが必要というか、もはや昨今のオーディオにアクセサリーはなくてはならないものとなった感がある。いや、感があるなどという生易しい言葉では収まらない。現代オーディオの必須要素といっても全く過言ではないと信ずるところだ。
思えばわれわれの少年期、オーディオアクセサリーといえばほとんどがアナログレコード関連のものだったように記憶する。アナログ系はヘッドシェル、スタビライザー、ターンテーブルシート、レコードクリーナー、針圧計、水準器にスタイラスクリーナーと、まぁこまごまいろいろなジャンルがあり、それぞれに数え切れないほどの製品が踵を接していたものだ。
それが、亡くなられた江川三郎氏がケーブルによる音の違いを提唱されてから、オーディオ・アクセサリー業界は一気に幅を広げ、活性化したような印象がある。それと関係があるのかないのか、季刊オーディオアクセサリー誌もその頃の創刊だ。
それ以来、インシュレーターやノイズフィルター、クリーン電源装置に各種高品位プラグ類、オーディオラック、オーディオボードなどなど、続々と新たなジャンルの製品が生み出され、そしてそれらは競合製品が次から次へと登場して、皆さんよくご存じの現在へ至る。福田雅光氏のように「オーディオアクセサリー界の第一人者」と目される評論家も出たし、寺島靖国さんのように「ジャズ&オーディオケーブル評論家」的な人もおいでになるのが現代の面白いところといえようか。
そんな昨今にあって、オーディオ業界は「アクセサリーのアクセサリー」が増えてきたような気がしている。フルテックのNCFブースターを嚆矢とするコネクターやケーブルを支えるグッズ、その類縁だが働きが一部違うケーブルインシュレーター類、スパイラル状のコードをケーブルへ巻き付けるタイプのインシュレーターなど、材質と効き目が違うものが私の知る限りもう3社からも出ていて驚かされる。
そして、ジャンルとしては大昔からある接点復活剤の世界だが、とんでもない大物がデビューしてきた。アンダンテラルゴの「スーパーTMD」である。TMDとはトータル・ミュージック・デバイスの略で、数年前に登場したオリジナルのTMDを自宅装置で試した際にも、あまりにも劇的な音質向上と音質的に透明、即ち高音質化に伴って音質傾向を変えてしまう傾向が見られないことに心底仰天し、以来わが家の重要接点には本剤による処理を心がけるようにしている。
なぜ"重要"接点のみですべての接点じゃないのかって? そりゃもうわれながら残念に思っているのだが、わが家はマルチアンプなんてやっているものだからとにかく接点の数が膨大で、全部処理しようと思ったら時間がいくらあっても足りないからだ、と自らのものぐさを言い訳している。
最近のこと、アンダンテラルゴの鈴木 良代表から連絡をもらった。何とあのTMDに上級バージョンが出るというではないか。話を伺うと、内容的にはそう大きく変わったものではないとおっしゃるが、微量成分の配合を僅かずつ変えながら膨大な量の実験を行い、最終的に決定されたのがこのたびのスーパーTMDに含有される成分比率だそうだ。鈴木代表の凝り性はかねがね存じ上げているが、そんな代表が「苦労しました」とおっしゃっているのだから、一体どれほどの情熱をその開発に捧げられたのか。私のようなものぐさの凡俗には想像もつかないものがある。
「従来品との違いを聴いてみませんか?」という申し出があったので、取るものもとりあえず鈴木代表の許へ駆けつけたら、従来処理とスーパーTMD処理を施した全く同一の高級インコネが2セット用意されているではないか。両者の違いをほとんどリアルタイムに聴き比べることができたわけだが、もうスーパーTMDには降参である。これまで至高と考えていた従来品と比べても、圧倒的に澄み切った音場がどこまでも広がり、オケのスケールが数段アップ、わが愛聴の変態ソフトをかけても大変な大スケールと弱音の美しさ、声の清明さはもう比類がない。一体元の信号にはどれほどの情報量が隠れているんだと仰天するとともに、この効果を見出された鈴木代表の情熱と、ある種の執念にも、もはやこの凡俗はひれ伏すほかない。
というわけで、試供品を分けていただいて早速わが家の装置でも試してみたが、やはりその効き目たるや、これまでの製品を遥かに凌駕するものがある。自宅装置の数えるのが嫌になるほどの端子・コネクター類にすべてこれを処理してやったら、一体わが家の再生音はどれほどの高みへ至ることができるのだろうと、身震いした次第だ。
さて、そこでちょっと考えさせられる項目が出てきた。もちろん、懐具合と割ける時間が豊富な方は何も心配することはないのだろうが、特に私のような貧乏ヒマなしのライター稼業では、かけられるコストと時間に大きな制限がある。こういう場合、思い切って高級ケーブルのみで勝負するか、ケーブル本体はそこそこのものとしてアクセサリー類とクリーナーで高音質を目指すか、というのが大きな分かれ道になるのではないか、という気がするのだ。
前にも書いたかもしれないが、わが家の装置には何カ所かビックリするくらい低グレードの自作ケーブルを使っている。比較的廉価なケーブル類をテストする際に「マイナス実験」とならぬよう、許容できる範囲でギリギリ低グレードのケーブルを使っているという次第だ。今回、その"限界ケーブル"にスーパーTMD処理を施してみたところ、いやちょっと待ってくれよという高音質が実現してしまった。メーター100円ちょっとの1.25スケアVCTF-K電力線に1個300円くらいのRCAプラグをハンダ付けしただけの、もうこれ以上ないくらいに簡素なケーブルである。半ば冗談のつもりで処理したと思ったら、「しまったな、こりゃ激変だよ」とむしろ頭を抱えることになってしまった。
ほぼ同じことが、別のグッズでもかつて体験されていた。例によって電源ケーブルにも、俗にいう「長岡ケーブル」を私は1系統採用している。3.5スケアのVCT電力線にコンセント側はパナソニックのWF5018K、IEC側にフルテックのFI-15E(Cu)を取り付け、網スリーブをかけただけのものである。この簡素な構成ながら、20世紀の終わり頃には聴く者を皆引っくり返らせるような音質向上を聴かせた電源ケーブルだが、今となっては周辺が猛烈に進歩してしまったため、どちらかというと入門者向けの存在となった感は否めない。
この長岡ケーブルにNCFブースターを装着した時の驚きを、一体どう伝えればよいだろう。そう、25年ほど前に長岡氏が編み出されたこのケーブルが方舟の機器へ装着された時の驚き、まさにそういっていいのではないかと思う。方舟の機器から"長岡ソフト"の聴き慣れた爆音が轟き渡った瞬間、あまりの音質向上に「ええっ!」と大声を上げてしまい、長岡氏やアシスタント陣に振り向かれてしまったものだった。それと同じくらいの音質向上が、再び長岡ケーブルに巻き起こってしまったのだから、感激もひとしおだったことを覚えている。
また、同じ長岡ケーブルに台湾テロス社のスーパーエージング・マシンQBTの処理をかけたことがある。これもまた、想像を絶するような音質の向上っぷりに目を回したものだ。詳しくは今出ているオーディオアクセサリー184号に詳しいので、よろしかったらご覧いただけると光栄だ。
長々と書き綴ったが、私のような「持たざる者」が高音質を目指すなら、もちろんわが「底辺リファレンス」のような廉価自作品を万人に薦めるわけでは決してないが、予算をはたいて可能な限りの高級ケーブルへ昇り詰めるか、そこそこの予算をケーブルに、残りをアクセサリーや薬剤、エージング処理などへ回すのが正解か、そこが問題となってくるような気がする。実際問題、少しくらい上のグレードを未処理で使うより、1段下のグレードへスーパーTMDとQBTによるトリートメントを行った方が、断定はできないが一定以上の確率で、遥かに上質な音を聴かせる可能性だってあるわけだ。
その一方で、予算ギリギリまで頑張って高級モデルを買い込み、それぞれのトリートメントはまた次の軍資金で賄えばよい、というのも正論だ。スーパーTMDは大きい方の容器でも4万円弱で結構たくさん処理できるし、QBTも機器を購入しようとしたら400万円近くかかってしまうが、オーディオみじんこで個別に処理してもらうなら1工程当たり8,800円だからグッとお手頃になる。ちなみにNCF Boosterは4万円弱で購入できる。
これは一つの提案だが、1本のケーブルを長くじっくり使っていこうという人には後者、思い切って予算いっぱいのケーブル購入を薦めたい。他方、いろいろな音を楽しみたいからケーブルを買い替えることが多いという人は、購入するたびトリートメントによる音質向上も味わえることから前者の方法論が薦められるように思うのだが、皆さんはどう思われるだろうか。
それじゃお前はどうするのかと問われれば、やはり買い替えをあまり好まない気質ゆえ、私は後者を選ぶことになるだろう。私の場合、業務というか役得というか、いくつかのメーカー製高級ケーブルを長期テストさせてもらっているし、かなり力を入れて作った高級自作ケーブル(自称)もあるから、ひとまずはせっせと接点にスーパーTMD処理を行い、そのうち覚悟が決まったら主立ったケーブル類を背負ってオーディオみじんこへ向かい、QBT処理を食らわせてやろうと思う。
(2022年6月13日更新) 第328回に戻る
※鈴木裕氏は療養中のため、しばらく休載となります。(2022年5月27日)
過去のコラムをご覧になりたい方はこちらから!
昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?