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【アーカイヴ】第151回/今月は伝えたいことが多過ぎて…[村井裕弥]
まずは、『Stereo』誌短期集中連載「日本縦断パラゴンの旅」についてだ。当連載第142回「オーディオライターの年末年始は」に書いたように、12月下旬、フルムーン夫婦グリーンパスを使って、小樽から鹿児島まで6日間で一気に駈け抜けた。目的は「いま、国内に設置されているJBLパラゴンを聴きまくる」だ。
40年前、30年前なら、ごく当たり前に聴いて回れたJBLパラゴンが、急速にその数を減らしている? それが証拠に、西宮の名店「Corner Pocket」、神戸元町の名店「JUST IN TIME」は何年も前に閉店。大都市圏のジャズ喫茶も、置いてあるのはパラゴン以後のJBLスピーカーがほとんど…。
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「いま聴いておかないと、生涯後悔するのではないか。そうだ! どうせ行くなら、短期間集中がよかろう。何か月も間を置いたら、冷静な比較なんかできないから」
そう思ったから、ちょっと無理をしたのだ。
しかし札幌に飛び、小樽・札幌とハシゴしたあと、青森市へ。そのあとは新幹線で岩手県に入り、そのあと長躯・広島経由で九州に移動。由布院・いちき串木野と回るのは、想像をはるかに超えて楽しかった(身体的苦痛は、ほぼゼロ。あえて言うなら、お尻が少し痛くなったくらいか)。
「みんなも真似してね」とまでは言わぬが、どこかご近所だけでも回ってみてはいかが? 「往年のハイエンド・スピーカーを1度は聴いておこうよ」というような浅はかな話ではない。「俺はここまでこうやってオーディオと格闘してきた」という各オーナーの個人史が音に滲み出てくるから楽しいのだ。
ちなみに、今秋は
○ 高擶(山形県)
○ 盛岡市
○ 新潟市
○ 名古屋市
○ 京都市
○ 甘木(福岡県)
○ 四万十市(高知県)
と回らせていただく予定。可能であれば、個人様のお宅も訪ねたい。個人的感想はまたどこかで報告するから、よろしく!
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2番目は、デジタルアンプが新境地に達したという話。どこの何とはまだ書けないのだけれど、2017年は「デジタルアンプ元年」となるのではないか!? デジタルアンプのメリットだけを100%、いやそれ以上享受し、デメリットは、いまのところ気付けないでいる。
3番目は、ミュージックバードの超特大ニュース。サイトを開くと真っ先に出てくるのだが、案外気付かない人がいるようだ。コミコミLightという新レンタルプランなのだけれど、あなたはご存じだろうか。
「ミュージックバードって、内容や音質がよいのは知っているけれど、7万円以上も初期投資できないよ」という方々のためのプランがこれ。要するに、加入料+機器レンタル料+アンテナの標準取り付け費がすべて無料。毎月の聴取料だけ一定期間払い続ければ、それでOK(!)という話。
くわしくはこちらをご覧いただきたい。
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4番目は、励磁型スピーカー(フィールドスピーカー)の話。大多数を占めるダイナミック型スピーカーは、永久磁石と電磁石の組み合わせで、電流(アンプからの音楽信号)を空気振動に変えるわけだが、その歴史をさらにさかのぼると、永久磁石ではなく、電磁石を使っていた時代がある。しかし、その方式ではスピーカーユニットごとに電源部を取り付けなければいけないから、コスト的にもスペース的にも厳しい。というわけで、いつのまにか励磁型はすたれ、現在の方式に落ち着いたわけだが、「それって、実は大切なものを失ってしまったんじゃないの!?」という話だ。
それが証拠に、近年、励磁型に目を向けるメーカーが微増中…。
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ネット検索してみると、
○ローヤル産業
○サウンドデン
○ブライトーン
○サウンドパーツ
○Feastrex
○A&R Lab
といった通好みのメーカーやショップがたちどころにヒット!
筆者はそのすべてを試聴したわけではないが、試聴するたび「あ、これも当たり」「こちらも、従来スピーカーの問題点を乗り越えている」といった感想を抱くことがほとんど。乱暴を承知でひと括りにさせていただくと、「機械臭さがなく、生により近い音」なのだ。
ひょっとすると、従来スピーカー最大の問題点は、永久磁石を使っているところにあるのかもしれない。
可能であれば、検索でヒットした製品を一堂に集め、全国的な試聴会を開催したいものだと思っているのだが、どこか協力してくれないかな。
5つ目は、ALLION A10のセレクタースルーについて。当コラム第139回「『マイ電柱』の出水電器が、とことんこだわり抜いたプリ・メインアンプ」で書いたように、ALLION A10、音のよさの秘密(その中の一つ)は「セレクタースルー入力端子の採用」にある。
しかし、わが家ではなかなかそれを生かせずにいた。なぜかというと、セレクタースルーがバランス(XLR)入力専用で、わが家にあるアンバランス(RCA)ケーブルではつなげなかったからだ。かと言って、いい加減なバランスケーブルでつなぐのも気がひけるし…。
そこへ突如やって来たのが、ナノテック・システムズの新バランスケーブル。
○ #208/N1-XLR
○ #211/N1-XLR
この2本がわが家の音をどう変えたかについては、20日発売『レコード芸術』5月号に書いた。ぜひお読みいただきたい。
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4月1日(土)、汐留のベヒシュタイン・サロンで、稲岡千架ピアノ・リサイタルを聴いた。彼女の初CD『モーツァルト ロンド&ソナタ』があまりに鮮烈であったから生で検証しに行ったのだが、その美音はけしてレコーディング・マジックなどではなく、生音も同じほうを向いていた!
それがどういう意味なのかについては、『Stereo』5月号「村井裕弥の特選盤」に詳述したから、ぜひ併読してほしい(『レコード芸術』5月号の特集記事「人生の名録音―ベスト3」にも、やや異なる切り口で書いている)。
Onebitious Recordsについても少しふれておこう。moraでダウンロード可能なレーベルの一つだが、その名の通り、1ビット録音を看板にしている。それだけならまだ驚かないのだが、収録にSONY のハンディ・レコーダーPCM-D100を使用しているところがミソだ。
筆者は、長富彩がソロを弾くリスト:ピアノ協奏曲第1番(わざわざ大阪まで生を聴きに行った)を2.8M DSDで愛聴しているが、これをどうやってPCM-D100で録ったのか、ぜひ教えていただきたい。
阿蘇のふもとにあるヴィンテージ・オーディオ喫茶「オーディオ道場」が、近々「復興まつり」を開催するのだと聞いた。「何とか行けるとよいな」と願っているのだが、はたしてどうなるか。
開催日時等のお知らせは、たぶん「西野和馬のオーディオ西方浄土パート2」が一番早いと思われる。ミュージックバードねたも満載なので、ぜひまめにチェックしていただきたい。
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(2017年4月20日更新) 第150回に戻る 第152回に進む
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過去のコラムをご覧になりたい方はこちら
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音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。