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第311回/いい高音を出すのが難しい[鈴木 裕]
オーディオで再生するのに難しい音と言うと低音を挙げる人は多いと思う。再生できる周波数レンジの広さがまずは問題になることが多い。ウーファーの振動板の直径とかアンプの駆動力とかの問題でもあるし、その上で再生音として質や量も大事だ。音像のまとまりという観点もある。また、部屋のレゾナンス(音響特性)の影響を強く受ける帯域なので、その方面の見識や欲しい音を出せる力量も問題になってくる。
一方、高音もまた難しい。これがもうかなり難しい。特にここ3年くらいはずっと高音のことを考えている。そもそも人によって欲しい高音がぜんぜん違うし、録音年代によって、あるいはオーディオ機器が開発/製造された年代の影響を強く受けるもの高音だ。
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まずは具体的な体験談。
サザンオールスターズのベースで、ウクレレのプレーヤーでもある関口和之さんのオーディオルーム(兼、音楽制作スタジオ)に伺ってインタビューさけてもらった時に印象的だったのは、その再生音だ。音楽製作用のモニタースピーカーではなく、楽しんで聴く時用の機器の音。そのf特を計測すれば高域がロールオフしているのは明らかだった。と言うか、意図的にロールオフさせていた。なぜならば、JBL4344を駆動するマッキントッシュも、ハーベスSuper HL5を鳴らすラックマンも、トーンコントロールの高域がマイナス側にある程度絞ってあったからだ。この音が実に気持ち良かった。高音だけでなく、中音域も低音も含めての音の作り方が上手で、コーラスのハーモニー感とかメロウな感じとか。聴かせてもらったレコードの音楽自体の魅力もあるが、至福のひとときを過ごさせてもらった。
10代を1960年代や70年代に過ごした人だったら、この感覚に同意する方も少なくないと思う。自分もその年齢なのだが、単にロールオフしているのではなく、耳が気持ち良くなるような佇まいの音なのだ。刷り込まれている音というようにも言える。ただし同時に、その音がロールオフしていることも客観的には認識できている。ハイファイ性能としてはフラットに伸びている方が再現性は高いとは思う。思うのだがこの気持ち良さにあらがうことができない。
実際のオーケストラを聴くと感じるのは、高音が多様なことだ。表情がいろいろある。しっとりとした高音。炸裂する高音。赤ちゃんの産毛のような高音。芯のある高音。直線的に向かってくる高音。そこに漂っているような高音。オーラのように付随するような高音……、etc。
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電源ケーブルを自作している場合でも高音は難しい要素としていろいろ対策している部分だ。ここにはいつも悩ませられる。なぜ市販の電源ケーブルを使わず自作しているかという理由のひとつは、高音を自分の感覚に近づけたいからだ。高音が立っていてほしいのだが、目立ち過ぎたり、しゃしゃり出てほしくない。高音には春の小川のようにサラサラ流れていってほしいのだが、同時に留まって包まれていたい時もある。オーケストラを聴いている時のような多彩な高音を目指しているはずだが、やればやるほどむずかしい。高音が出ているなと、まずもって感じさせてしまったらもうお終いという感じがする。高音の存在を忘れさせてほしいというか、無心にさせてほしい。自然な高音が欲しいのだが、これが一番難しい。
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バッハ『無伴奏ヴァイオリン』そのソナタとパルティータのレコード。
高校生時代はスピーカーのツイーターのアッテネーターを絞って聴いていたことがある。
芳しくない高音だったら、むしろ出ていない方が問題を感じない、というのも正直なところ。
高校生の頃、ヘンリク・シェリングの、バッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』を聴くのに、ソニーのシステムコンポ、「リスン5」のスピーカーのツイーター用のアッテネーターをずいぶん絞って聴いていたものだ。1955年のモノーラル録音の方だがもちろんレコードで、そもそも高域が伸びていなかった気がするが、もしかしたら伸びていなかったので、さらにアッテネーターで絞って聴いていたのかもれない。高域の再生レンジが足りないから、むしろ高音を絞ってしまう。グァルネリ・デル・ジェスのぼったりとした中低域の太い音が好きだった。実際、1981年に来日した時に東京文化会館と日比谷公会堂で聴いた時も圧倒的なぼったりした中低域だった。でも、もちろん高音はちゃんと出ていたのだが、その存在感はたしかに低かった。
具体的、かつ、オーディオ的な話をすると、アンプによっての高音もずいぶん違う。石と球(この場合「たま」と読みます)、トランジスタを使ったものと真空管のアンプのそれとはけっこう違う。トランジスタの感じとあまり変わらない高音の真空管アンプもあるが、倍音成分がたっぷり出ているアンプはやはり真空管デバイスを使ったものだ。A級とAB級でも違うがこれは個々の設計の要素も大きい。
スピーカーの高域、ツイーターもこれまた素材から発音方式からずいぶん違う。おそらくウーファーの振動板の素材とか、発音方式のバリエーションの何倍もある。これをもって、高音を出す難しさとか、人によって高音の嗜好が幅広いという論拠にしてもいいくらいだ。そう言えば、今一番普通の、と書くと語弊があるか、採用例の多いツイーターの振動板は何なのだろう。ダイナミック型のコーン型で、アルミ製ダイアフラムなのか。チタンやベリリウム、マグネシウムもある。シルク製のものも多いし、YGアコースティックのHeiley 2.2で採用しているツイーターのように、シルクのソフトドームの裏側にアルミの細いフレームを入れているものもある。ドーム型と言っても、その一番頂点というか、音軸(アクシス)のところの手前にはカバーがされているものも少なくない。直線的に出てくるところにフタをしてしまうのだ。やっぱり高音は難しい。
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エラックのジェットツイーターのようなベンディングウェイブ型も面白い。説明としては「25mm径ドーム型ツイーターの10倍の面積を持つ」と記されているのだが、10倍の面積から音が出るんだもの、そりゃあ違う音になるのも当然だ。いや、そもそもスピーカーって、振動板だけから音が出るものではない、というのは自分の中ではもはや常識になっている。エンクロージャーの表面やブックシェルフ型であればスタンドの各部からの微細な響き。ストロークとしてはごくごく小さいけれど、ミクロ単位とも言えるような振動が響きとして大事な要素になっている。これは同じ造りで仕上げが違うバリエーションを持つスピーカーを聴いても体感できるし、実はエンクロージャーの表面を掃除しただけでも高音(低音も)は変わってくる。
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とりとめもない話になってしまったが、自分のほしい高音をどう出すかが問題だ。アンプやスピーカーに関しては出会うしかないが、自分のコントロールの効く範囲で達成できる高音もある。そのひとつが、電源ケーブルの自作によってだ。文章の前半でここ3年くらいずっと高音のことを考えているというのはまさにそのことで、さまざまなマテリアル、オーディオアクセサリー、クライオやティグロンのHSPといった処理を試してきた。複数の色の(つまりは顔料の)ビニールテープを巻いているのも高音の要素がある。そもそもビニールテープを巻くことひとつとっても、ケーブルにかかっていたストレスをほぐしつつ、2本使っているケーブルをシンクロさせるように巻いていくことによって、自分の感覚にフィットする高音に近づけてきている。
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ボブ・ディランも言っている。答えは高音の中に吹いている、と(言ってないですけど)。
(2021年12月1日更新) 第310回に戻る
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1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。