【アーカイヴ】第263回/500円玉を調べるの巻[鈴木裕]
ミュージックバードの番組の収録が終わって、喉が乾いたので飲み物を自動販売機で買おうとした。サイフの中は1万円札が一枚と500円玉がひとつ。販売機のコインを投入するスリットに500円玉を入れると、カラカラカッチャンという音がして釣り銭を受け取るところに入れた500円玉が戻ってきた。販売機の中の釣り銭用の100円玉や10円玉が足りてない場合はそうした動きになるが、「釣り銭切れ」の表示は出ていない。そういう状態なのに500円玉を受け取ってくれないのは自分の持っていた500円玉に何か問題があるのか。仕方ないので隣の自動販売機に500円玉を入れた。こうなったら飲み物の種類には妥協してもいい。カラカラカッチャン、戻ってきた。
半蔵門のビルの中でのことで、パスモを使って買ってもよかったのだがなんとなくそのままビルを出て、自転車で帰り道についた。道すがら自動販売機を見つけるたびに立ち止まっては500円玉を投入してみたのだが15台目までカラカラカッチャン。16台目で500円を入れたという表示が出て、飲み物を買える態勢になってくれた。こうなるとオメオメと飲み物を買うわけにはいかない。返却ボタンを押して自分の入れた500円玉を回収。次からの4台の自動販売機もカラカラカッチャンで、5台目でまた500円玉を受け取る自動販売機に出会うことが出来た。つまり21自動販売機中、19台に嫌われたことになる。受け入れてくれた自動販売機は2台ともかなり古い感じのものだった。
帰宅してさっそく500円玉についてネットで検索した。ウィキペディアにいろいろと詳しく出ているので興味のある方は見てもらうとして、ポイントを短く紹介する。
500円玉の初代は1982年に登場、「五百円白銅貨」と呼ばれ1999年まで発行されていた。二代目は「五百円ニッケル黄銅貨」。2000年から発行が開始され、実は今年で発行は終了。三代目が2021年に発行予定なのを初めて知った。デザインと材質も変更された「五百円バイカラー・クラッド貨」になるという。
ということでこれらの素材や造りが実に興味深い。素材や重量、直径を並記してみよう。
・五百円白銅貨
白銅(銅 75%、ニッケル 25%) 重量7.2g。直径26.5mm
・五百円ニッケル黄銅貨
ニッケル黄銅(銅 72%、亜鉛 20%、ニッケル 8%) 重量7.0g、直径26.5mm
・五百円バイカラー・クラッド貨
ニッケル黄銅、白銅及び銅(バイカラー・クラッド。銅75%、亜鉛12.5%、ニッケル12.5%)重量7.1g、直径26.5mm
銅はオーディオでよく使われるので今さら調べないが、ニッケルの物性や用途などを検索すると世界的な組織としてニッケル協会なるものが存在するし、そのウェブサイトが実に読みごたえがあって楽しい。
同じく亜鉛も、銅との合金が真鍮だったりしてかなり人類とネンゴロの金属である。これらの素材についていろいろ読んでいくと(個人的にはかなり)楽しいのだがここでは割愛。
さて、問題は三代目の「五百円バイカラー・クラッド貨」だ。これの構造がひときわ目を引いた。ウィキに載っていた構造のイラストをスマホで撮影したものを載せておくが、外周部はニッケル黄銅のやや幅の広いリング状になっていて、その内側に白銅の部分がある。しかも白銅の、上下方向での中心部には銅を挟んであるという。ウィキによれば「銅の部分は外から見えないが、機械で扱うときに電気伝導率の変化を利用する際にこの層が有効となる」という偽造硬貨対策のようだ。
これを見た瞬間、アンプやプレーヤーの下に敷くインシュレーターを思い起こした。もちろんこの五百円バイカラー・クラッド貨が登場した時には4枚とか3枚用意して実際にインシュレーターとして試してみてもいいのだが、興味を惹かれるのはその構造だ。異種金属、あるいは木材や樹脂などでこうした構造を持ったハイブリッドのインシュレーターを作っていくと面白いものが出来そうだ。
インシュレーターには、たとえばオーディオリプラスのオーディオグレードの石英のように単一の素性の良い素材から設計する場合と異種素材を組み合わせるハイブリッド系の方向性がある。素人がやるにはハイブリッド系のが可能性があるように感じている。自分の好みとか、あるいは自分のシステムのあるコンポーネントの下にはコレみたいな作り方もやりやすいはずだ。そこ専用に納得のいくまで材質を入れ換えたり、分量の塩梅を変更したり、造り直していけばいいのだから。
500円玉は「記念硬貨などを除いた一般流通硬貨では、額面である500円は日本の硬貨で最高額であるばかりでなく、世界で有数の高額面硬貨で」あり、韓国の500ウォン硬貨などを使っての通貨変造事件の多発がこうした20年に一回の新硬貨の誕生のキッカケになっているようだがおかげでアイデアをもらえた。
ちなみに自分が持っていた500円玉は平成3年、つまり1991年の五百円白銅貨だった。実測してみると重量も直径も合致するのだが、たしかに見た目は傷んでいるというかヤレている。いずれにしても何の理由かはわからないが比較的あたらしめの自動販売機にはじかれ、その疑問がオーディオに結びついてしまった。ふだんから、まぁそんなことばっかり考えている。
8/19発刊予定の音元出版の『オーディオ・アクセサリー』vol.178号用の企画。前号では電源タップを作ったが、今回は電源ケーブルを自作する企画だ。こんな性分のおかげで(と言うかネガティブに言えばこんな性分のせいで)新しい発想を盛り込むことになってしまった。今回もオーディオ評論家9人が参加するはずで、しかも全員が全員の電源ケーブルを聴き合うという電気で電気を洗うような厳しいステージが予定されている(オーディオにとって電気はカラダにとっての血液みたいものなので、血で血を洗うような厳しい戦い、という意味です)。もし評価が良かったらあらためてどこかで紹介してみたい。
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1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。
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