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【アーカイヴ】第123回/熱く盛り上がったアナログオーディオフェア、不本意ながら自宅の暑さも超ピークに達した6月[田中伊佐資]

 ●6月×日/アナログオーディオフェア開催。2日目の11時から12時半まで「ヴィニジャンLIVE! ロックいい音名盤でホントに効くのかアナログアクセサリー実演」という長ったらしいタイトルのイベントに出演。この時間帯は音楽之友社が枠を持っていて、ステレオ誌でレコード馬鹿紀行の「ヴィニジャン」を連載している手前、僕が話をすることになったのが経緯のようだ。オーディオ・イベントには多くのクラシック・ファンがやって来る。過去、ぼくはこういう会でガンガンとお構いなくロックをかけ、早々に席を立つ人をしばしば見受けられた。最初からロックをかけることを打ち出しているので、気が楽でいい。

「ロックいい音名盤」のイベントは立ち見が出るほど盛況
英国グラハムオーディオのLS5/8

 使用システムは、メーカーや代理店から提供してもらえるのだが、スピーカーだけはウーファー径が30cm以上のものを探した。ロックなスピーカーといえば大口径なのだ。ところが今そういうスピーカーは本当にない。このイベントに参加している企業のHPを片っ端から探していき、ようやく見つけた。ワイエスティーが扱っている英国グラハムオーディオのLS5/8だ。伝統的ともいえるし懐かしいともいえる直方体の箱デザイン。音は聴いたことがない。編集担当の吉野さんも知らないという。事前に展示してあるオーディオユニオン新宿店へ聴きに行ったが、こればかりは当日の組み合わせがものをいうので当てにならない。出たとこ勝負ではあったが、エンクロージュアをゆったり鳴らすようなおおらかな音で、60~70年代のレコードにはぴったりだった。


 アクセサリーは、アナログリラックスKS-Remastaのシェルリード線対決、ユキムの「RELAXA」インフラアコースティックスの「アナログベース」のボード対決などなど。お客さんの挙手で勝敗を決めた。
 かけたレコードは『クリムゾン・キングの宮殿』のマトリクス2/2と2/3、レッド・ツェッペリンIIの英盤と米盤、クイーン「ボヘミアン・ラプソディ」のオリジナルLPと最新45回転盤など。こちらも「対決」でした。来場者のみなさんがどう思ったのかわかりませんが、退席者もほとんどなくロックオーディオは着実に盛り上がっているのではないでしょうか。と一人でよがっておこう。


 ●6月×日/アナログオーディオフェアは活況だったようで、目を引く製品がけっこうあった。ぼくが注目したのは、除電ブラシをリリースして瞬く間にレコードブラシ業界を席巻した(そういう業界があるかは別にして)アナログリラックスのカートリッジ。「極圧MC〈除電〉カートリッジ」という仮の製品名がついていたが、その通り出力電圧が0.45mvとMC最大級を誇る。またボディがケヤキとヒノキのウッド製で、いかにもしなやかでぶっとい音がしそう。今どきの超ワイドでフラットな特性ではなく、ネオ・ヴィンテージな厚い音ではないかと勝手に想像する。
 社長はジャズ、それもテナーサックスの大ファンなので、自分のために作るんじゃないかとぼくは思っている。8月から受注生産開始らしく、ぜひ聴いてみたいです。

アナログリラックスの極圧MC〈除電〉カートリッジ

 ●6月×日/アコースティック・リバイブの石黒さんがオーディオ評論家の和田博巳さんに「昔のレコードはちゃんとイコライジング・カーブを合わせると面白いですよ」と力説したところ、そんだったら田中の家で聴いてみようということになったらしい。

 昨年暮れ、石黒さんにマイルスの『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』オリジをコロムビア・カーブで聴いてもらったところ、えらく興味深そうにしていたが、それが背景にあるようだ。いま使っているM2Techのフォノイコライザー、ジョプリンIIはカーブの切り替えが簡単にできるから人が来るとこれでけっこう遊んでいる。和田さんは、多少変わるかなくらいに思っていたようで、カーブのマッチングで別物になってしまうことに驚いていた。かく言うぼくも、パシフィック・カーブで再生したジョン・ルイスの『グランド・エンカウンター』、MGMカーブの『エラ・アンド・ルイ』などをじっくり聴き、RIAAよりこっちが本物だと認識を深めた。

 どうでもいいけど、当日の朝、突然エアコンの不具合が発覚、蒸し風呂というより釜揚げ状態での試聴となった。皆さん、今となっては音よりもただただ暑かったことしか記憶にないのではないでしょうか。

(2016年7月11日更新) 第122回に戻る 第124回に進む


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田中伊佐資(たなかいさし)

東京都生まれ。音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。著作に『音の見える部屋 オーディオと在る人』(音楽之友社)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(音楽之友社)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。
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