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【アーカイヴ】第243回/"未完の大器"BDP-LX58を使い続けようかどうしようか[炭山アキラ]

 今、ディスクプレーヤーについて、少々悩んでいる。長く愛用したユニバーサルBDプレーヤー、パイオニアBDP-LX58の調子が悪くなってきたのだ。業界でこんな安物をリファレンス・プレーヤーにしているのは私くらいだろうと思うが、そこは貧乏ライター稼業だ。ない袖は振れない。

 しかしこのプレーヤーは、価格からは信じられない音質と用途の広さを持つ。CD、DVD、BDに加えてSACDもかかるし、LAN端子からネットワーク・オーディオも受け付け、YouTubeを鑑賞することもできる。USB-A端子にはUSBメモリを突っ込んで、ハイレゾや映像ファイルを再生可能だ。ある種の万能性を持つプレーヤーとして、この上なく重宝してきた。

現用中のパイオニアBDP-LX58(生産完了)。
10万円クラスのユニバーサルBDプレーヤーとしては、
極めて多大な物量投入と音質重視設計がなされた、本格派のプレーヤーであった。
本文中でもボヤいているが、本当にあの未完成ささえなかったら、と今でも残念に思っている。

 一方、せっかくの超多機能を存分に生かそうとすると、無視できない問題というか、完成度の低さも散見される。主にネットワーク・オーディオ関連なのだが、まずハイレゾやリッピング音源の曲順がメチャクチャになってしまうことが後を絶たない。特にリッピング音源では、ファイル名を書き換えてもルートに残る情報でソートされるせいか、特にCD2枚にわたる作品など、それはそれはひどいことになる。しかも、購入したハイレゾ配信音源でもたまにそういうことが起こるから、もう訳が分からない。

 foobar2000をはじめとするPC上のプレーヤーでは、曲順を任意に変更することも簡単だが、LX58ではそれもかなわない。オムニバスなどならシャッフルでもかけているものと諦めて聴くこともできるが、シンフォニーの楽章がバラバラになってしまっては台無しだ。

 さらに、一般的なネットワーク・プレーヤーなら、スマホやタブレットでNASのフォルダへアクセスでき、アルバムの確認や選曲がとても便利に行えるが、本機はそれにも対応していない。一応スマホにアプリがインストールできるのだが、悲しくなってしまうくらい機能が制限されていて、これならリモコンの十字キーで操作する方がずっとマシ、というレベルなのである。

わが家では、BDP-LX58の脚にコトブキの「音極振」KS-01を挟んでいる。
寒天そっくりの見た目だが、思いのほかしっかりした質感で、
音の品位を巧みに向上させるインシュレーターである。

 もうひとつ、今時ハイレゾ音源のギャップレス再生もできないというのは、もうどうしようもない。特に私が好むゲテモノ現代音楽は、トラック間がつながった楽曲が非常に多く、曲間のたびに違和感を抱えながら音楽を聴かざるを得なくなる。

 一度、同社の技術陣にこういった点が何とかならないか問い合わせたことがあるのだが、このプレーヤーはファームウェアのアップデートができないのだか何だかで、どうしようもないと聞き、ガックリしたこともある。

 とまぁ、ずいぶんひどいことを書いてきたが、それでももうずいぶん長く使っているのは、ひとえに絶対的な性能が価格の水準を大幅に超えているからだ。レンジは広く、帯域内に不必要な強調感がなく、風合いとしては穏やか方向だが、微小域の再現は決してピュアオーディオのディスクプレーヤーに劣っていない。"変態ソフト"の再生に不可欠なパワーやスピード感、切れ味なども、相当のレベルへ達している。

 しかも、表現は良くないが、脚などはそう高級な部材が採用されていないものだから、インシュレーターのテストにも好適だし、電源ケーブルの違いにも大変敏感に反応し、LINEケーブルやLANケーブルの試聴にも使える。テストベンチとしてのリファレンス・プレーヤーには、これ以上ないくらい環境の整った製品なのである。

 わが家のLX58、現状は脚の下にコトブキのインシュレーター「音極振」KS-01を挟み、天板の上にTGメタルの大型鉛プレートFR-02を載せている。KS-01は挟んだ初日こそブヨブヨした音が乗るが、2日目以降はグッと落ち着いてS/Nが向上、音の品位を高めてくれる。電源ケーブルは光城精工のKS-3で、そう高価ではないが、音に勢いを与えてくれるので重宝している。アナログLINEケーブルはしょっちゅう変わるが、現在はF2ミュージックのロジウムメッキ・コレットチャック式プラグに、軟銅の単線を組み合わせた自作品を使用中だ。

 改めてリストアップしてみると、わが家のアクセサリーは本当に廉価なものが多いな、と思わず天を仰いだ。ただ、これについては言い訳がある。この手の"テストベンチ"に、あらかじめ高級なアクセサリーが採用されていたりすると、同ジャンルの新製品をテストをする際には"マイナス評価"となってしまう可能性もある。それで、あえて高価なグッズを外し、音質的に許容できる範囲で、廉価な製品を使うよう自らに命じている、というわけである。

 で、BDP-LX58の調子が悪くなった箇所はどこかというと、何のことはない。単にディスクのトレイが出てこなくなったというだけの話である。こんなものは町の修理屋でも楽に直してくれる程度の故障だ。先日イベント講師を仰せつかったハードオフ・オーディオサロンへ持ち込めば、ほんの数日で戻ってくることだろう。残念ながらパイオニアは、本機を購入した頃と組織が全然違うものになってしまっており、世話になった担当者からメーカー戻しすることは、最早かなわない。

BDP-LX58の上へは純鉛製のプレート、TGメタルのFR-02(1枚10㎏)を載せている。
これで音質にパワーと力感が大幅に増大する。
いわゆる"長岡流"のオーディオ対策だ。

 ならば修理して使い続けるかというと、前述のような問題がいろいろ山積したプレーヤーであることに加え、テストベンチとしてあと1点足りない部分もある。アナログ出力にXLRがないのだ。以前書いた通り、わが家のスピーカーはバックロードホーン(BH)とマルチアンプ4ウェイの2系統で、RCAのプリアウトは4ウェイ、XLRはBH用に割り当ててある。現システムでXLRケーブルを試聴しようと思ったら、そのBH用プリ→メイン間しかやりようがなく、少々不便といわざるを得ない。プレーヤーにXLR出力がついていればどれほど楽だろう、とは常々感じてきたことだ。

 だからといって、まぁ懐具合はそう潤沢なわけもないから、買い替えようにも高級プレーヤーなど望めない。何かないかなと思っていたところ、ある取材でヤマハBD-A1060を使う機会があった。何とこのプレーヤー、7万円台の廉価モデルだというのに、機能的にわがLX58の完全上位互換なのには驚いた。しかも、この価格にしてXLR出力がついている! 実際に音を出してテストしてみたが、ぜいたくをいわなければ音質的にも十分使えるレベルである。発売から結構時間がたち、価格的にこなれているのも見逃せない。

ヤマハBD-A1060。
超薄型で目方も軽く、
アキュフェーズなどの高級プレーヤーに比べれば吹けば飛ぶような存在感だが、
意外や音質的にはしっかりしていて、私が愛聴するかなり厄介な"変態ソフト"でも、
しっかりとその持ち味を聴かせてくれる。XLR出力端子がついているだけでも、
思わず買ってしまいたくなった。

 私個人の意見でいうなら、あとはもう「今以上のグレードダウンを許容できるか」の1点に絞られるような気がしている。しかし、たとえこの価格にしても、わが家の会計からすれば即座に買えるものではなく、妻との折衝も必要だ。家内へ波風を立てずに済ますには、LX58の修理が良策なのは決まっている。

 そんなこんなで、やはりもうしばらくは悩むことになりそうだが、何といっても連載「今月の変態ソフト選手権」の次回試聴までには何とかしないと、仕事にならない。短期貸与に応じてくれるメーカーならいくつかあるから、しばらくはそれらで凌いで、どっちにするかを決めねばならない。

 こんな時、皆さんなら新しい製品を購入することに心浮き立たれるものだろうか。個人的に、どのジャンルでもそうだが買い替えは苦痛でしかない。まぁ手元不如意だからというのもあるが、気に入ったものを長く使うのが好きで、あまり環境を変えるのが好きではないためだ。

 ならばなぜLX58の修理で即決しないのかといえば、やはりあの使い勝手が、長年使ううちにストレスの澱となって、わが心中に染みついてしまったからだ。まったく、ああいった些細な不具合が解消できていたなら、BDP-LX58は、もっともっと名声を勝ち得ていたのではないかと思う。本当に些細な不具合ながら、日常的な使用でいちいち神経へ障るものだっただけに、心よりその未完成ぶりを惜しむものである。

(2020年1月10日更新) 第242回に戻る 第244回に進む 


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炭山アキラ(すみやまあきら)

昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。

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