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【アーカイヴ】第177回/「いい音盤“選定術”」ヴォーカル編を行った12月 [田中伊佐資]
●12月×日/2017年6月から始まった「いい音盤“選定術”」はいよいよ最終回の「ヴォーカル編」をdues新宿にて実施。
イベント数日前に選盤を始め、ヴォーカルという大まかな括りであるから、声が聴けるならなんでもいいかと解釈し、かなりキワモノを集めてしまった。話としては面白いかもしれないが、正統派のヴォーカル(普通に考えればポピュラー、ジャズ系)ファンが集まった場合、なんだそれと途中退席するような気もしてきた。ここはオーソドックスにいくべきと修正、例によってエンジニアとその人が手掛けたレコードを聴くことにする。
その概要は下記の通り。
▼アル・シュミット
作品:マイ・オンリー・スリル/メロディ・ガルドー(2009年)
職務:ミキシング・エンジニア
曲:「ベイビー・アイム・ア・フール」
作品:メローなロスの週末(ライヴ)/ジョージ・ベンソン(1977年)
職務:レコーディング&ミキシング・エンジニア
曲:「 愛は偉大なもの(The Greatest Love Of All)」
▼フィル・ラモーン
作品:『ゲッツ / ジルベルト』(1964年)
職務:レコーディング・エンジニア
曲:「イパネマの娘」
作品:フィービ・スノウ/フィービ・スノウ(1973年)
職務:レコーディング&ミキシング・エンジニア
曲:「グッド・タイムス」
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▼スティーヴ・ホフマン
作品:フィービ・スノウ/フィービ・スノウ(DCC盤1996年)
職務:マスタリング・エンジニア
曲:「グッド・タイムス」
▼ヘンリー・ルーウィ
作品:ジュディ・シル/ジュディ・シル(1971年)
職務:プロデューサー、オーディオ・アルケミー(音の錬金術師)
曲:「リッジ・ライダー」
▼ジョージ・マッセンバーグ
作品:ザ・ウェル/ジェニファー・ウォーンズ(2001年)
職務:ミキシング・エンジニア
曲:「パトリオッツ・ドリーム」
▼テッド・ジェンセン
作品:カム・アウェイ・ウィズ・ミー/ノラ・ジョーンズ(2002年)
職務:マスタリング・エンジニア
曲:「ドント・ノー・ホワイ」
▼ケヴィン・グレイ
作品:Pop Pop/リッキー・リー・ジョーンズ(1991年)
職務:マスタリング・エンジニア
曲:「アイ・ウォント・グロウ・アップ」
▼2017年ヴォーカル話題盤
作品:ペインテッド・フロム・メモリー/エルヴィス・コステロ&バート・バカラック
曲:「ゴッド・ギヴ・ミー・ストレングス」
作品:つづれおり:ライヴ・イン・ハイド・パーク/キャロル・キング
曲:「君の友だち」
古典的なジャズ・ヴォーカルは意図的に外したのではなく、僕がもっている古いレコードはエンジニアが明確でないケースが多かったためだ。
最後の「2017年ヴォーカル話題盤」はエンジニアの話を抜きにして、好みのレコードで締めくくった。
実際にかけながらふと気づいたが、どれもミディアムからスローテンポの曲ばかりを無意識のうちに集めてしまった。イベントとしてはメリハリに欠けるが、結局ヴォーカルものとなるとそういう曲調が好きなのだ。いまさらながら自覚。
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●12月×日/ステレオ誌「ヴィニジャン」の取材を自宅で行う。テーマはMMカートリッジに特化した「散財白書2018」。知らないうちに(本当は知っている)シュアのヴィンテージMMがずいぶん集まってしまったので、編集のシュンスケを招いて、それが散財だったのか蓄財だったのかを判定してもらおうという企画。購入価格に対してコストパフォーマンスの点数までもつける。
試聴曲はドゥービー・ブラザーズの全米ナンバーワン・ヒット曲「ブラック・ウォーター」。
ひとくちにシュアといっても機種によってテイストは全く異なる。個体差もある。シュンスケはこの曲に合ったカートリッジかどうかを鋭くコメントしてくれた。それは僕の意見と一致するとは限らず、また高いものがいいともいえず、ごちゃごちゃした取材になったが、それがかえって面白かった。
●12月×日/「アナログ・サウンド大爆発!~オレの音ミゾをほじっておくれ」のゲストはオーロラサウンドの唐木シノブ代表。僕が使っているフォノイコライザーVIDAの上位モデルVIDA Supremeの販売が始まったので、現物を持ってきてもらいオンエアする(4月放送予定)。
かけるレコードは「オーディオファンを意識せず、とにかく愛聴盤を持ってきてください」とお願いしたら、フレディ・キング、ジュニア・ウェルズ、ケニー・バレルなど玄人はだしのギタリストである唐木さんらしい選盤だった。
VIDA Supremeは極めて押し出しがよく、まさにこれぞアナログ・サウンド。それが決して強引なゴリ押しではなく、しなやかでみずみずしい質感で迫ってくる。気持ちいいブルース・ギターがスタジオに溢れて、番組としてはとてもいい感じで進んでいく。
しかし愛用VIDAよりも一枚うわての音を出す上位機が出たことは、率直にいってうれしくはない。こういう落ち着かない心境で番組を進行したのは初めてのような気がする。
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(2018年1月10日更新) 第176回に戻る 第178回に戻る
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東京都生まれ。音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。著作に『音の見える部屋 オーディオと在る人』(音楽之友社)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(音楽之友社)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。
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