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【アーカイヴ】第258回/電源タップ選手権・補遺[炭山アキラ]

 前回のコラムでも鈴木裕さんが取り上げられているが、音元出版「オーディオアクセサリー」第177号で企画された「6人の評論家が競演する"電源タップ自作選手権"」は、参加させてもらった製作者としても、福田雅光氏の作品を講評したレビュワーとしても、そして1人のオーディオマニア、読者としても、実に実に面白かった。雑誌が出る日を指折り数えたなんて、一体何十年ぶりのことだろうと、感慨に耽ったくらいだ。

 具体的に何が面白かったのかといえば、「諸先輩方の考えられたこと、工夫を凝らされた項目が、手に取るように分かる」ことが最大だろう。私自身「アクセサリー銘機賞」の審査員などやらせてもらっていることもあり、またミュージックバードで荒川敬さんと一緒に「オーディオ実験工房」を受け持っていることもあって、世に出回っている大半のコンセントやプラグ、電源ケーブル、そして周辺アクセサリーを聴いたことがある。それらを各氏がどう組み合わされているか、またそこへどういう"裏技"を込めているか、それが伝わってくることで、偉そうなものの言い方になってしまうが、皆さんの電源周り構築のフィロソフィー、ひいてはオーディオそのものに対する取り組み方、チューニングの方向性なども見えてくるような気がするのだ。

 しかし今回は、裕さんも書かれていたが、改めて価格を合算してみると、いやはや、ちゃんとした電源タップを作ろうとすると、いい値段がかかってしまうのだなと、天を仰ぐ結果となってしまった。裕さんには過分の評価を頂いてしまったが、どうやら私が最も廉価な作例を提出したようだ。しかし、それでなお6万円近いというのは、自分で作っておいていうのも何だが、「果たしてこれでいいのだろうか?」と考え込まざるを得ない。

 実は私も、「最高の音質を目指す」ならば、コンセントにはフルテックGTX-D NCFを用いていた。プラグもおのずともっと遥かな高級品をターゲットに入れたろう。それをやらなかったのは、表向きには「CP重視の作例とするため」としたが、実のところは「それをやったら絶対諸先輩方と大量にネタが被るだろう」という読みからである。だったら「業界安い方担当」の私は、"CP重視"の言い訳を最も使いやすい立場だった、ともいえる。

パナソニックのホスピタル・コンセントWN1318Kの裏面は、こうなっている。
何のことはない、ごく一般的なコンセントとほぼ同じルックスだ。
中央部左右に4個あいている穴へ、単線をギュッと突っ込むことで導通させる、
単純だが信頼性の高い方式である。

 言い訳をもう少しお許しいただくとすると、私の作例は「パーツは好きなものを選んでもらって全然問題ない」ような構成としたつもりだ。思い切って安く作るなら、両端パナソニックのホスピタル・グレードでよいし、ケーブルも3.5スケア2芯のVCT電力線で構わない。ただし、ホスピタルのコンセントWN1318Kは、端子に撚り線を突っ込むことができないので、先端にFケーブルを短く切ってはんだ付けか圧着してやるとよいだろう。

フルテックのアウトレット・カバー104-D。
ステンレスのプレートにカーボンとグラスファイバーを張り付けることで、
防振効果を高めたものだ。わが家でも長年使っている。

 コンセント・プレートは今回ぜいたくをしてクリプトンCP-HR10を使ったが、これももっと廉価なものでよい。フルテックOUTLET COVER104-Dなど、価格の割に音がグッと力強くなるお薦め品だが、ただしこれはUL規格用だからホスピタル(JIS規格)には使えない。身もフタもないセレクションだが、JIS用にはごく普通の樹脂製プレートが、意外と音に悪影響がなく薦められる。荒川敬さん直伝のノウハウである。

 ここまで別のものにしてしまったら、音だってまるで別物になってしまうのは致し方ないが、しかし私が目指した大雑把な方向性は、これでもまだかなり残っていることと推測される。最大のポイントは、中村製作所の「アモルメット・コア」を入れたことである。このコアは極めて廉価なのに電源の高周波ノイズを除去する性能が滅法高く、私は篤く信頼している。

 わが家は5年前に埼玉から茨城へ引っ越した。周りが田んぼばかりだった環境から、森に囲まれてはいるがそのすぐ裏に24時間操業の工場がある現在の家へ移って、装置を設置して鳴らした時の絶望感は、今も忘れることができない。建屋のグレードは比べ物にならないくらい高く、床を補強するなどそれなりの対策を施して臨んだのだが、ガシャガシャと耳障りでどことなく腰高な印象の、とても音楽を長時間聴き続ける気にならない音だった。一向に音がリスナーへ飛んでこないのである。

 さらに、照明を埼玉時分から愛用している白熱灯シャンデリア1本と、新たに購入したLEDシャンデリアとの混成にしたら、夜間の音がまた遥かに悪くなると判明した。それで、しばらくはどんなに不便でも、夜間に音を聴く際には白熱灯のみの、何とも薄暗い環境で聴くことを強いられたものだ。

 その苦境をいっぺんに打開してくれたのが、ほかならぬアモルメット・コアだった。当時まだご存命だった中村考汪代表から、ある日小さな封筒が届いた。中には、親指の爪くらいの白いリングが入っている。それで代表に電話してみたら、電源でも信号ラインでもスピーカーでも、ACでもDCでも、すべての不必要な高周波ノイズを効率良く副作用なく遮断するフィルターだとおっしゃるではないか。半信半疑のまま、わが家のオーディオへ給電している2系統の電源ラインへ挿入して、音を出した時の衝撃を、皆さんにどうやって伝えたらよいだろうか。よく比喩的に「100倍音が良くなった!」などという表現を用いるが、掛け値なしにそういう印象だった。

 しかもこのコア、+と-の線を1個のリングへくぐらせることができるなら、リングの大きさはそう大きな影響がなく、調べてみるとわが家では、たったの2,000円ちょっとでこの「100倍向上!」が達成できたことになる。すぐ中村代表に連絡を差し上げたら、わがことのように喜んで下さったのが、つい先日のことのようだ。そんな中村考汪氏が亡くなられたのは、もう3年も前のことになる。本当に、本当に惜しい人を失ったものである。

 アモルメット・コアについて話していたら、ずいぶん長くなってしまった。かくの如き次第で、私はアモルメット・コアに全幅の信頼を寄せている。また、昨今は街灯のLED化が進み、さらに電源ラインは汚れている。おそらく、埼玉へ住み続けていても、かつてのような電源環境はもう望めなかったことだろう。皆さんも、いまだクリーン電源関連へ手を出されていないなら、ぜひともアモルメット・コアを試してみられることを、強く薦めるものだ。

小径のアモルメット・コアは、シースを剥いた電源ケーブルを通し、
電源プラグの中へ収めることができる。
中村製作所のウェブサイトより引用させてもらった。

 今回の作例で、私はコアを未来工業のボックス内へ収めるつもりで発注し、編集子へ提出した企画書にもその旨記入した。ところが、結構スペースフルに見えるボックス内へは、意外なことにあのちっぽけなコアを収めるすき間がなく、電源プラグ側へ挿入することとした。今作で使用したフルテックFI-12ML(Cu)には、幸いにしてコアを収めるスペース的なゆとりがあったので、外から見えずに音質の大幅な向上を成し遂げることができた。福田氏が「ボックス内へどうやって入れたのか」と書かれていたのは、そういう次第である。先生、ごめんなさい。私もムリでした。

 ちなみに自宅リファレンスでは、明工社のL字型ホスピタルグレード・プラグME7073には残念ながら内部にスペースがなく、プラグのすぐ外へコアを取り付けた。もう1系統のフルテックFI-15Mプラスにはスペースがあり、内部へ収めている。

 パーツを変えても残るであろう、わが方向性の2つめは、未来工業のボックス内にTGメタルの砂粒鉛(さりゅうなまり)を入れたことだ。砂粒鉛は語感の通り、小さな粒にした純鉛で、呆気ないくらいに軽量級の未来工業ボックスをずっしりとした重量感へ変えてくれるし、小さな粒が相互に接触し合うことで振動を摩擦熱へ速やかに変換し、S/Nを向上させるという顕著な効果がある。電源周りというのは50/60Hzで意外と大きな振動を受けているもので、それを取り去ってやろうという考えだ。5㎏入り5,000円が最小のパックだが、今回かなりギッシリ収めて800gくらいだったから、他の用途にもガンガン使うとよいと思う。

TGメタルの砂粒鉛FZ-02は、もともとスピーカースタンドの支柱へ流し込んで、
鳴きを止めるために開発されたものだ。
昔、海外のメーカーで、ショットガンの弾を詰めた製品があったが、
そんなものこの日本ではそうそう簡単に入手できないから、砂粒鉛の有効性は大きい。

 余談になるが、TGメタルを使うのは俺くらいだろうなどとタカをくくっていたら、生形三郎氏が、それも特注のベースを作ってこられたのには仰天した。しかも、驚くほど安いではないか。オーディオマニア応援のため、ほとんどコスト度外視で頑張ってくれているTGメタルの企業姿勢には、本当に頭が下がる。

 さらに生形さん、ボックスの中にトルマリン石も入れられている。仮想アース的な効果を見込まれてのもののようだが、これは砂粒鉛と似た効果も持つことであろう。同じスピーカー自作派として、よく似たところへ目をつけられているな、と非常に面白く感じたものである。

 パーツを変えても残る方向性、その3は、ケーブルに網スリーブをかけていることだ。今作では、オヤイデ電気が提供してくれたPETチューブ9.5mmを使用した。これの中へケーブルを通し、ギュウギュウと絞り上げていく。両端をビニールテープか熱収縮チューブで固定すれば、作業完了だ。私も熱収縮チューブでやりたかったのだが、買い置きのものがほんの僅かに径が細く断念、ビニールテープとなった。なお、この手の網スリーブは、結構太さの違うケーブルに対応してくれるが、太いケーブルを通すと長さが短くなる。余裕を持って、ケーブルの1.5~2倍くらい購入しておくことを薦めたい。¥440/mだから、価格もずいぶん手頃なものである。

 この手の網スリーブを通すと、音はどう変わるのか。「オーディオ実験工房」でも取り上げたことがあるが、概して音がグッと締まり、ザワつきが減り、音の通りが大幅に向上する、という印象を持っている。かつて、もう亡くなられて20年になる長岡鉄男氏が、自宅で使うために製作された電源ケーブルには、例外なしに網スリーブがかけられていた、ということからも、効果のほどがお分かりになることであろう。

 パーツを変えても残る方向性、その4は、木工でベースを製作したことだ。木工といっても大したことはない。確か12mm厚のコンパネを120×150㎜に4枚、ホームセンターのカットサービスで切ってもらってきて、それを木工ボンドで積層しただけのものである。コンパネは1枚ごとにクオリティが全然違うので、ご注意されたし。私はたまたま非常に良質の材を見つけたのでこれにしたが、そうでなければJIS耐水ベニヤを選ばれるのが良いと思う。こちらはコンパネほどのバラつきはない。

 当たり前のことだが、このままではいかにも「ベニヤ切りっ放し」の貧相なルックスなので、もちろん塗装は欠かせない。今作は水性ステインで色を付け、上からクリアラッカーを吹いてやるつもりで準備していたのだが、塗装に充てる予定だった日が土砂降りの大雨に見舞われ、屋内作業が可能な水性ニスに変更を余儀なくされた。

 私なりの水性ニスの塗り方を、ここで簡単に解説しておこうか。まず、紙やすり(今回は#180を使った)で素材の面を整え、水で2倍に薄めたニスを塗っていく。乾いたらまた紙やすりをかけ、3回も塗り重ねればよい。そこから水性ニスを原液で塗り始める。これも紙やすりで表面を整えつつ、3回くらい重ねれば良い塗装面ができることだろう。

 ところで、なぜ最初から水性ニスにせず、ラッカーにしようと考えていたのかというと、ラッカーの方がずっと塗装面が堅いからだ。今作は「若干ソフトな方向へ転んでしまった」と自己評価欄に記入したが、その大きな要素がこの水性ニスだったのではないかとにらんでいる。そのうちラッカーでもベースを作り、比較してみなければなるまい。

 なお、ベースにはAETのインシュレーターSH-2014HBを取り付けているが、これはあくまで私の好みだから、もちろんあなたのお好きな脚を使われるのが一番良い。

 以上が、現時点で私の考える「音の良い電源タップを作るための骨格」の一例だ。特に自作スピーカーの作例を発表する際などにいうことだが、ここでも申し添えておこう。私の作例は、もちろんそのままコピーしてもらえるのも光栄だが、どちらかというと皆さんが独自の作品を作られる際のヒントをいろいろ散りばめている、という風に解釈してもらえるとありがたい。各先生方も、それは同じなのではないか。今回のオーディオアクセサリー誌を参考にされつつ、皆さんがどんなオリジナルの電源タップを製作されるのか。私はそれが一番楽しみだったりもする。電源周りは特に簡単だから、皆さんもぜひ自作へチャレンジしてほしい。

今回使った塗料は和信ペイントの水性ウレタンニスで、
写真はクリアだが、16色取り揃えられており、その中からマホガニー色を選んだ。
雑誌の写真からも、なかなかいい艶が出ているのがお分かりいただけよう。

(2020年6月10日更新) 第257回に戻る 第259回に進む  


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炭山アキラ(すみやまあきら)

昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。

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