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【アーカイヴ】第129回/根絶やしにしたいオーディオのノイズ。その対策に光明を見いだした8月[田中伊佐資]

 ●8月×日/中村製作所のアモルメット・コアと呼ばれるコルゲン・トローチ状のオーディオ・アクセサリーを借りる。このリングにケーブルを通すことによって電気機器から混入する電気ノイズをカットするらしい。ノイズ対策商品は溢れかえるほど世の中に出ているが、素のパーツ・レベルのものを試すのはこれが初めて。好きなところに入れて試せるのは面白い。
 電源ケーブルやインターコネクトは、プラグを取って導線を外す必要がある。これは厄介だ。でもスピーカーケーブルは簡単に通せるので、まずはどんなもんかなと気楽に付けてみた。これがまたエラく効いた。
 オーディオ雑誌によく見られるありがちな表現だが、目が覚めるように鮮明な音になった。音楽が浮き出てくるのと同時に、前後の空気感もかもし出される。1個が800円から3200円といろいろあるみたいだが、それでこれほど刷新するとは狐につままれたようだ。
 そこでこれを試聴したことがあるオーディオ誌の編集長やそのメンバーに電話で話をしてみると、一様に「ああ、あれはかなり変わりますね」という反応だった。

RCAのレコードプレーヤーの電源部に入る中村製作所のアモルメット・コア。

 たまたまスピーカーケーブルだったが、やはり電源関係が最も効果的に違いない。はめられる場所を探したら、あった。M2TECHフォノイコライザーはACアダプターなので端子が細く、リングが通る。これもやっぱり鮮度感が増し、50~60年代のレコードを聴くと、ミュージシャンが以前にも増して前に出て訴求してくる。
 マッタリとかなごみといったリラックスした方向ではないので、そこはお好みでない場合があるかもしれないが、まあ、別にこれが何かキャラを付加しているのではない。ノイズを排除したら、より素の音が露わになっただけだ。
 そしてもうひとつ、RCAのレコードプレーヤーの電源部にもこの輪っかが使えることがわかった。音楽信号に無関係で、ひたすら愚直に回っているだけだというのに、これにも同傾向の音が来た。プレーヤーをいじることによる音の変化は理解しがたいが、事実だから認めるしかない。この感じはとてもいいので、1個はこの場所に付けることに決めた。
 個人的には、壁コンセント、電源トランス、配電盤のブレーカーなどにも試してみたいところ。この件、要模索でしょう。

『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』
10月19日、音楽之友社から発売予定。

 ●8月×日/10月19日に「オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記」(音楽之友社)が出るが、その後にジャズライフに連載していた、優秀録音ジャズのディスクガイド(タイトル未定)がDU BOOKSから出る。年内に刊行と言いたいところだが、まだほとんど進んでいないので、この半年以内といったところだろう。
 とまあ、さりげなく前回に続いて宣伝しているが、その本の表紙撮影を、急に思いついてこの暑いさなか敢行した。その理由は、たわいないがぼくにとっては重要だった。
 自分のレコードがしまってある小部屋を遠目から撮影するのだが、その手前に上から吊ってある照明器具がどうにも邪魔くさくて仕方がない。しかしこれ、わけあってぼく一人では簡単には取れない。それが写真に入ることは仕方ないと半ば諦めていた。
 ところが、ちょうどエアコンが壊れたため電気工事の人が来ることになった。そのついでに外してもらうことを思いついた。カメラマンの高橋慎一さんを急遽手配。運良く仕事の切れ目でたまたま空いていた。
 ぼくも写真に小さく入るのだが、秋以降に出る本だから服装はがっつり長袖。冷房がきかない小部屋で、暑いなんてもんじゃなく、1分くらいで汗が背中に流れ星のようにツーツーと何本もすべっていくのがわかる。高橋さんは妥協せず、あらゆる角度からのカットを探っていく。こちらも急に来てもらって、もういいでしょうとは言えない。顔は紅潮したまま硬直していき、朦朧としてきたところで終わった。
 そういうことで、そのうちのここへ載せますが、表紙ではわりとクールな顔をしていても、パンツまでグチャグチャなのです。

●8月×日/ステレオ誌の取材でつくばに住む瀬谷徹さんの家を訪ねる。「SPレコードのコレクションがすさまじく、16インチ・ターンテーブル~フィールド型スピーカーの音も素晴らしいですよ」とVintage Joinのキヨトさんが仲立ちになってくれて、ようやく実現した。

瀬谷徹さんのオーディオ・システムとSPコレクション(ほんの一部)。



 SPといえば、雨が降ったようなザーザーノイズに入り交じって聴こえてくる歌や演奏に耳をそばだてるイメージがある。昔のものだからキズだらけでも仕方ないと諦めが先に立ちがちだ。しかし瀬谷さんのSPは極上のピカ盤ばかりだった。ネットもない、はるか昔にアメリカのオークションで落としていたためだ。このフレッシュな音にぼくのSP観ががらりと変わった。
 いまみたいにどこかの馬の骨が簡単にレコーディングできる時代ではない。歌手も奏者もむちゃくちゃ実力がある。そして音の迫力もただならない。エンジニアは命がけで一発勝負にかけている。ぜんぶ本物だった。
 ですが、じゃあ近いうちにSP始めるかといえば、それはもうちょい時間がかかることでしょう。いまスピーカー1発のモノラル再生がやっと始まったところで、なんでも段階が必要なのです。

(2016年9月10日更新) 第128回に戻る 第130回に進む


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田中伊佐資(たなかいさし)

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東京都生まれ。音楽雑誌の編集者を経てフリーライターに。近著は『大判 音の見える部屋 私のオーディオ人生譚』(音楽之友社)。ほか『ヴィニジャン レコード・オーディオの私的な壺』『ジャズと喫茶とオーディオ』『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(同)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)『オーディオ風土記』(同)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。

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