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【アーカイヴ】第190回/ミュージックバードの新たなチャレンジ[村井裕弥]

 「村井さん、TOKYO FMビルの7階にレコーディング・スタジオがあるのをご存じですか? そこの設備がハイレゾ対応になったので、スタジオライヴをおこなおう。そこで録ったハイレゾをミュージックバードで流そうということになったんです」

 これはなかなか興味深い話だ。筆者は毎月4タイトルの「特選盤」を選び、『Stereo』誌で紹介しているが、選ばれるディスクは、日本人が国内で演奏し、日本人エンジニアが録音とマスタリングをおこなったものであることが多い。いや何、「日本人の音楽性や録音技術が抜きん出て高度である」というような話ではない。国内にオリジナルマスターがあって、それを元に最短プロセスで作ったディスクのほうが音がよい(演奏者の表現したいことがより伝わりやすい)のではないか。そんな風に考えているのだ。

 すでに皆様もご存じであろうが、ミュージックバードは、ただCDをかけ続けるだけの放送局ではない。WORLD LIVE SELECTIONのように、海外の放送局が録ったハイレゾを放送する番組、トッパンホール・トライアングルのように、東京藝大音楽環境創造科が録ったハイレゾを放送する番組などがよい例だが、まだCD化、ハイレゾ化されていないライヴ音源を、CD以上の音質で放送する、チャレンジ精神にあふれた放送局なのだ。

 そのミュージックバードが、ホームグラウンドでハイレゾを収録し、それを最短プロセスで放送するとなれば、期待するなというほうが無理だ!

 第1回スタジオライヴは、2018年4月8日(日)におこなわれた。内容は、野瀬栄進さんのピアノソロ。この方については、ご本人のオフィシャルサイト内BIOGRAPHYをご覧いただきたい。

 ジャズの街・小樽で生まれ、ジャッキー・バイヤード、リッチー・バイラークの教えを受け、ニューヨークで20年以上ご活躍。しかし、毎年春に帰国され、地元北海道でのライヴに力を入れていらっしゃるとも聞いた。

 当日、少し早めにスタジオを訪ねると、川島修さん(TOKYO FM技術部長)がノイズ除去に苦労されていた。「48kHzサンプリング24bitで録るなら、なんということはないんです。でも、今回は96kHzサンプリング24bitで録ってみようという企画。このスタジオでは初めての試みなのです。そのため、ちょっとだけ苦労しています(苦笑)」

 しかしその問題も、野瀬栄進さんがいらっしゃる頃には解決。収録は極めてスムーズに始まった。リハーサルだと思って聴いていたら、いつの間にか本番に移っていたのではないか(もちろん、頭からずうっと録り続けている)。そのままお休みなしで1時間半近く、演奏は続いた。短い曲が続けて演奏され、組曲のような作りになっている曲もあった。とにかくピアノの持つ可能性を100%引き出そうと、即興性あふれる対話を続けているように感じられた。

 この原稿を書くために借りた資料によると、テイク数は66。筆者は昼食休憩までしかいられなかったが、その後もピアノとの対話は快調に続けられたようだ。そのあたりのことは、野瀬さんのfacabook 4月10日を併読していただきたい。

 どんな曲であったか、どのように弾かれたか等に関しては、「ミュージックバードで放送される日を楽しみに」とだけ記しておこう(妙な先入観なしで聴いたほうがより楽しいと思われるからだ)。あと、「この演奏を十全に伝えるには、やはりハイレゾが必要だ」と強く感じたことも付記しておこう。

 ミュージックバードは48kHzサンプリング24bitなので、96kHzサンプリング24bitをそのまま流すことはできないが、その制約の中「あの日聴いた繊細なニュアンスやキレをどこまで電波にのせられるか」がとても興味深い。可能であれば、その結果についてもぜひレポートしたいものだ。

収録後の野瀬さん(右)。岩崎プロデューサー(左)と。オンエアは8月予定。

(2018年5月21日更新) 第189回に戻る 第191回に進む


【お知らせ】※掲載当時の内容となります。

「これだ!オーディオ術」でおなじみのヴァイオリニスト、アテフ・ハリムの来日25周年リサイタルが2018年6月24日(日)、東京文化会館小ホールで開催されます。詳細
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お問合せはA&A art(電話03-3392-2955)まで。


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村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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