【アーカイヴ】第126回/モノラル専用スピーカーが、なかなか決着がつかないまま時間は過ぎていく7月[田中伊佐資]
●7月×日/モノラル再生用スピーカー1個を買いに小田原のヴィンテージ店「アトリエJe-Tee」に行った日記(5月)の続き。
お店では3種のスピーカーが試聴できるようになっていた。可搬を用途とするGEのカバン型スピーカー、ジェンセンのCA-12エンクロージュア、そしてメーカー不詳の後面開放型。
「キズものでいいから安く」とお願いしてあったが、どれも50年以上前の製品なので板材の枯れ方がハンパではない。叩くとコーンと弦楽器のボディのようにいい音がする。
せっかくなのでステレオ誌の「ヴィニジャン」でその様子を取材。そして編集担当のシュンスケも同席。彼はカバン型がめっぽう気に入ってしまい、ぼくに一言もなく「オレ、買います」と手を上げる暴挙に出た。若さのほとばしりに負けて譲ったとしたいところだが、ぼくは2番目のCA-12を聴く前から目を付けていた。彼はそれを察していたようだ。
たまたま家のローン代が財布に入っているとかで、スパッと4万円を払った。
「まあ、レコード売れば捻出できるでしょう。こんなボロボロだから、かみさんはまさか買ったとは思わないでしょう」
読まないから大丈夫というので、同誌7月号にそのことを書いたところ、たまたま書店で奥さんは立ち読みしたそうで、その瞬間にシュンスケへ電話が入ったそうだ。どの程度の落雷だったかは定かではないが、携帯を持ったまま直立したと彼は言っていた。
そんなことでぼくはジェンセンのエンクロージュアCA-12のスピーカーを買うことにして、最後にユニットを確認しましょうと裏蓋をはずした。ここでまた新しいドラマが誕生する。
ユニットはジェンセンではなく別のメーカー品だった。アメリカのマニアから買ったまま在庫していたそうで、その人がいろいろ試した結果そうなったのだろう。
しかしこっちはヴィンテージ・オーディオ見習い中だ。まずはジェンセンのセットで聴きたい。じゃあユニットを何個か送りますので、比べてみてくださいというありがたい申し出が店からあり、モノラル・スピーカーをめぐるさすらいは舞台を自宅に移した。
その模様は同誌9月号に詳しいが、完全決着せず。いやはやこれほど時間がかかるとは。
●7月×日/その「ヴィニジャン」をまとめたムックが音楽之友社から10月19日発売予定で出る。タイトルは「オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記」。
内容はそのまんまです。その表紙を、いまやキューバ音楽映画『Cu-Bop(キューバップ)』の監督として有名になったカメラマン高橋慎一さんにお願いする。
高橋さんはTシャツに塩を吹くほど汗をかいて、ナイスな写真を撮ってくれた。アートディレクターは、ぼくがいつもお願いしている結城亨さん。基本的に自分の過去の原稿は気に入らないので、加筆訂正してちびちび入稿開始。これがひと苦労だ。
●7月×日/東京・八重洲の「Gibson Brands Showroom TOKYO」で、不定期開催している「八重洲レコード聴きまくり大会」のことは、このコーナーでは必ず書くようにしている。来場者数がしょぼくなると、打ち切りになるので、できるだけPRしたい。自慢ですが、かかるレコードはほぼオリジナル盤なので音はいいです。これも宣伝。
今回のイベントは、アナログオーディオ・フェアでチラシを配った効果があり、立ち見まで出た。たいへんうれしい。
相方のdiskunion JazzTOKYO店長生島さんがかけたレコードは下記。
◎ボーン・トゥ・ビー・ブルー/ビバリー・ケニー
◎心のうちがわかればいいの/佐々木好
◎アメリカン・チューンズ/アラン・トゥーサン
◎ノウ・ホワット・アイ・ミーン/キャノンボール・アダレイ
◎ララバイ・フォー・ルーザーズ/エセル・エニス
ぼくがかけたレコードは下記。
◎ストリップト/ザ・ローリング・ストーンズ
◎ウォーク・ビトウィーン・レインドロップス/ドナルド・フェイゲン(12インチシングル)
◎スリーピング・ジプシー/マイケル・フランクス
◎グッバイ・イエロー・ブリック・ロード/エルトン・ジョン
◎つづれおり/キャロル・キング
なんか、今回は王道系が多い。ちなみに珍盤をかけてお客さん一同ドン引きというケースはよくあります。
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東京都生まれ。音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。著作に『音の見える部屋 オーディオと在る人』(音楽之友社)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(音楽之友社)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。
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