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【アーカイヴ】第111回/新フォノイコで未体験のヴィンテージな世界がチラリと見えた2月 [田中伊佐資]
●2月×日/芳垣安洋率いるオルケスタ・リヴレとROLLYが共演した「アルバム発売準備 Live」を新宿ピットインで観る。ピットインは、けっこう仕事で出入りさせてもらっているが、これは完全にプライベート。“発売準備”のアルバムが『ROCK OPERA!』(3月23日発売)。トミーからロッキー・ホラー・ショーまで名作ロック・ミュージカルをROLLYが日本語で歌う。しかもバックが腕利きのジャズマンたちだ。こういう音楽はちょっとない。
立ち見スペースはぎゅうぎゅう詰めで、人をかき分けないとトイレに行けない。お客さんはぼくと同世代の女性が9割を占める。昔からのファンなんだろうなあ。
彼はロック・エンターテイナーとして一流だが、実はギタリストとしてもイカしたセンスを持っていた。これは知らなかった。カッコよさの核心を突いたソロに興奮、びっくりしました。
ぜひともCDだけでなくレコードも出してもらいたいと思います。
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「ボヘミアン・ラプソディ」
●2月×日/個人的にピットインのライヴでROLLYに歌ってもらいたかったのは、彼が敬愛するクイーンの『オペラ座の夜』からのナンバー。テーマがロック・オペラなので。だとしたら「ボヘミアン・ラプソディ」しかない。
ということで、遂に6回目となる「八重洲レコード聴きまくり大会(ヤエレコ)」は、昨年複刻された同曲の12インチの45回転シングルからスタートさせた。片面1曲だけでOKとなると、エンジニアはカッティングの技術的な制約から解放され、音は英国オリジナル盤よりもダイナミック。全体に余裕がある。やはりこういうイベントのツカミには最高のナンバーだ。
そういえば家に来たお客さんにこれを聴かせるとたいてい「おおっ」て顔になり、曲がかかっている途中にスマホでamazonから即買いした人もいた。
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ところで今回のメインテーマは、ティアックの新型レコード・プレーヤーTN-570。これはいつも使っていたTN-350の兄貴分に相当する。ボディが大理石と高密度MDFによる2層構造シャーシで、そのしっかりした作りと重量が音にも確実にプラスへ働いていた。また回転速度の微妙なズレを光学センサーにより検出し、モーターの回転を修正するという機能も画期的だ。
ぼくがかけたレコードはほかに『デヴィッド・ギルモア・ライヴ・イン・グダニスク』、エヴァ・キャシディの『ナイトバード』、ユーリズミックスの12インチ・シングル『ゼア・マスト・ビー・アン・エンジェル』。
相棒の生島さんはスタン・ゲッツ『スウィート・レイン』、ドリス・デイ、『ギャビー・パヒヌイ・ハワイアン・バンド・ウィズ・ライ・クーダー』、中本マリの『描いてごらん海の色で』、ビル・エヴァンス~ジム・ホールの『インターモジュレーション』など。全部オリジナル盤。
ギャビー・パヒヌイは日本盤を持っていたけど、音が全然違った。オリジ探してみよう。
●2月×日/イタリアのM2TECHという会社のフォノイコライザーJOPLIN MKIIを遂に買ってしまった。うちに長いこと雑誌記事用の貸し出しモデルが据え置かれていて(正確には輸入元へつい面倒で返せなかっただけ)、よしずっと使ってみようという気持ちに至ったのだった。
このフォノイコの面白い点は、アナログ信号をいったんデジタルに変換し、その領域内でイコライジングの処理をすることだ。DACは内蔵していないためアナログ出力できない。お手持ちのDACにつなげてアナログ信号に戻してくださいと、すごく割り切ったコンセプトで作られている。
せっかくレコードを聴いているのに、なんでわざわざデジタルにしちゃうのか、なんでだ、アホだなあとまあいろいろご意見はあるだろうし、確かにぼくもそう思うんだけど、聴いてみた結果がすべてということではある。
デジタルのイコライジング回路はアナログよりもすごくシンプルなので、プレーヤーとアンプを直結したような、丸出しの赤裸々、あけすけの音がした。そこが気に入った点。デジタルからアナログ、そしてその逆に変換することはもちろんロスだが、それよりもメリットが上回った感じ。
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左はアコースティック・リバイブのバッテリーリファレンス電源RBR-1
また付属のACアダプターをやめて、アコースティック・リバイブのバッテリーリファレンス電源RBR-1に付け替えたら、グッとグレードアップした。
そしてなによりこのフォノイコの肝は、これもデジタルの恩恵だが、イコライジングのカーブが20種類以上も変えられること。RIAAカーブで世界統一される前のコロムビアやデッカ盤を正しいカーブで聴ける。
たとえば『Masterpieces by Ellington』は51年録音だから、RIAA以前のコロムビアのカーブで作られている。つまりオリジナル盤を聴くなら、一般的なRIAAではエリントン楽団の重厚なオーラがたっぷり出てこない。
とまあカーブの話は長くなるのでこのへんにしとくが、なかなか掘り下げがいのあるネタだ。
(2016年3月10日更新)
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東京都生まれ。音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。著作に『音の見える部屋 オーディオと在る人』(音楽之友社)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(音楽之友社)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。
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