【アーカイヴ】第109回/スイッチング電源のACアダプターは、こんなにも音を汚していたのか[村井裕弥]
今月初頭、オーディオの電源(何の電源をどこのコンセントから取るか)を大幅に変更した。前から気になっていた問題点がひとつあり、それをなんとか解消したかったのだ。
つなぎ替えには、おおよそ1時間を要し、「前から気になっていた問題点」はなんとかクリア。しかし、別の問題点が出てきた。何やらひどくうるさいのだ。艶も潤いもなく、弦はガサガサ、ヴォーカルはのどガラガラ。音量を上げると、すぐ耳が痛くなるから、小音量で聴くことになるが、それで欠点がごまかせる程度の問題ではない。これじゃ音楽を聴く気になれないし、仕事にも支障が出る。
もちろん、電源の取り方をすべて元通りに戻せば、このうるささは消える。しかし、「前から気になっていた問題点」も復活するに決まっているから、それはしたくない。
ひょっとするとこのうるささは、「前から気になっていた問題点」の陰に隠れていただけで、何年も前から存在していたのではないか。「前から気になっていた問題点」がシステムの足を引っ張り、鈍い音を出していたから気が付かなかった? そう考えると、敵がハッキリしたぶん戦いやすくなったとも言える。
さて、どうやってこのうるささを殲滅するか。そんなことをぼんやり考えているとき、たまたまあるニュースが目に入った。あのiFI-Audioがオーディ愛好家用のDCパワーフィルターiPurifier DC(アイピューリファイアー・ディーシー)を、13日に売り出すというのだ。
ここで「ああ、フィルターね。駄目だよ。ノイズは取れるけど、音の生気まで消えてしまう」と思ったあなたはかなりのベテラン。
しかし、このiPurifier DCは、これまでのノイズフィルターとはまったく異なる発想で作られている。逆相の音を混ぜることによって静寂を得るノイズキャンセリング・ヘッドフォンのように、「ノイズ信号と同一の信号を正反対の位相で発生させることによって、あらゆるノイズを能動的にキャンセル」(ベースになったのは戦闘機のステルス性能を上げるためのテクノロジーらしい)。
同社は、このiPurifier DCを介することで、ふつうのスイッチング電源(ACアダプター)がオーディオグレードになると謳っているが、もしそれが本当なら、音質の飛躍的向上が期待できそうだ。
さあ、どうするか。まず1つ買って、いろいろ試してから追加発注するというのがふつうのやり方だが、iFI-Audioというメーカーの実力やめざすところは十分理解しているから、「これはいきなり3つくらい買ったほうがよいのではないか。ひょっとすると大人気で、しばらく品切れが続く可能性もあるし」と考え、即3つ発注。
iPurifier DCは、発売日に配送された。1つ目はパソコンのACアダプターに使用。USB DACと結んで、ハイレゾ再生に使うデクストップ型だが、ACアダプターとの間にiPurifier DCを介すると、それだけで部屋が静かになったかのよう。肝心の音楽再生も、歪感が消え、音像が引き締まり、躍動感アップ。抑揚もよりダイナミックになった。ノイズフロアが下がったからだろう。白バックがより真っ白くなった分、主役がより際立つようになったという印象。あまりにも生々しいので、最初の数分間はとまどってしまったほどだ。
2つ目はNASに使用。ネットワークプレーヤーで、中のファイルを再生するが、前日までのうるささはどこへやら。試聴メモには「わが家のネットワークプレーヤーでこんな音が出せるのか!?」とある。6年半も使っているから「そろそろ買い換えなければ」と思っていたが、当分買い換える必要はなさそうだ。透明感と張りに満ちた音。音像の実在感がこれまでと全然違う。ボリュームはいじってないのに、音圧感が俄然アップ。
3つ目は迷ったあげく、パソコンの外付けHDDに使用。再び、パソコン+USB DACでハイレゾ再生すると、ピアノの音像がより明瞭になり、キレも増した。同じファイルを再生しているとは思えぬほど、シンバルもリアル。さっきまでもっと単調に叩いていると思っていたのに、こんなにも細やかな叩き分けをしていたのか。ベースの低音もモリモリ出て来た。量だけがぶよぶよ増えたのではない。引き締まったのに、量が増えたのだ!
くわしい使い方その他はiFI-Audioのサイトをご覧いただきたいが、ひとつ強調しておきたいのは「電圧は5~24V 3.5Aまで対応」。これを超える機器には使えないから要注意。いや何、ACアダプターに「何ボルトか、何アンペアか」書いてあるから、まずはそれを見て、使えるかどうかを確認すればよいだけのことだ。
(2016年2月19日更新) 第108回に戻る 第110回に進む
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音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。