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【アーカイヴ】第228回/カクテルオーディオにDVD-Aプレーヤーの理想形を見た[炭山アキラ]


 本稿締め切り時点で、事情があってカクテルオーディオのオール・イン・ワン・コンポーネントX35がわが家にある。輸入元のトライオードに無理をいって借り出しているものだ。

 これまでも、カクテルオーディオの製品は何度かレビューしてきたし、ある程度の内容や使い勝手は知っているつもりだったが、改めて自分の手元で使ってみると、これがまたビックリするほど多機能なのに使いやすい。CDを再生すると自動的にリッピングしてくれて、しかも慣れると結構HDD内のフォルダ構成も合理的で、楽曲を探しやすい。基本的な操作は大きなツマミ2個で行えるという、操作性の練り込みは、かなり時間をかけたものであろう。まだまだてんこ盛りの機能のごく一部しか使っていないが、それだけでも従来にないオーディオ生活を営むに十分な便益を得ていると、これは断言できる。

わが家のラックへ収まったカクテルオーディオX35。
オープニングのカクテルグラスの画像が結構オシャレである。
デジカメが故障して、アクションカムの静止画機能で撮っているため、
歪みが大きくて申し訳ない。

 音質についても、本機は現在のところ同社の最廉価製品で、しかも単なるプレーヤーではなくアンプまで内蔵しているのだから、よりストイックにプレーヤー専業とされた上級機と比べ物にならないのは当然として、それでもかなりしっかりした音を聴かせてくれている。わがリファレンスのディスクプレーヤーはパイオニアのユニバーサルBDプレーヤーBDP-LX58で、それに比べると当たりはややソフトめ、しかし高次デジタルを再生した時の微小域の再現性は大したもので、音場空間がどこまでも広がり、そこへ優しく微笑みながらアーティストが演奏し、歌うといった風情が実に好ましい。

わが家で十数年にわたってリファレンスを務めてくれたパイオニアDV-AX10。
SACDもかかる「ユニバーサル・プレーヤー」だが、
明らかに軸足をDVD-Aへ置いたプレーヤーでもあった。
これを導入し、すぐに輸入盤でDVD-Aソフトを購入して、
再生しようと思ったらモニターなしではどうやっても無理だった、
という思い出もある。

 操作性については、本機のフロントパネル全体の1/3を占めようかという、大きなカラー液晶モニターが大きな一助となっているのは間違いない。もちろん大型の外部モニターも接続できるが、これだけ大きな画面なら、ほぼ何の不足もなしに豊富な機能を確認しながら操作することができるのだ。

 例えば、わがリファレンスのBDP-LX58も便利な機械だが、これは外部モニターを接続しなければ、本当に単なるSACDプレーヤーと変わらなくなる。DVDやBD、ネットワーク・オーディオにまで対応しているのに、モニターなしでは何の制御もできず、ネットワーク・オーディオの専業プレーヤーのように、スマホやタブレットで選曲ができるということもない。


 それで仕方なく、デスクトップPCを開店休業にしてモニターをLX58へ宛がっている。これで操作性にはほぼ不満がないが、あまり格好はよくないなぁ、と思わざるを得ない。そこへいくとこのカクテルオーディオ、オール・イン・ワン・システムとして極めて優れた形態ではないか、と思うのだ。

 実は、「モニター付きディスクプレーヤー」について、個人的には忸怩たる思いがある。20世紀の終わり頃に、SACD対DVDオーディオ(以下DVD-A)というフォーマット対決があった。ご記憶の人も多いだろう。あくまでCDの延長線上に位置する"ピュアオーディオ・プレーヤー"のSACDに対し、DVD-Aは映像プレーヤーとしてのDVDビデオに手を加えてピュアオーディオ用に仕立てたものだった。

 おかげで、ご存じの通りSACDは外部モニターなどどこにもつける必要なく、CDと全く同じ操作性で音楽を楽しむことができるが、一方のDVD-AはDVDビデオプレーヤー同様、モニターなしでは大半のディスクが再生操作すらできなかったものである。

テクニクスのDVD-AプレーヤーDVD-A10。
2001年頃の発売だが、この製品が発売された時点で(規格発表から僅か数年だ)、
既にSACDとの雌雄は決していたように思う。
とても力の入った製品だけに、たどった運命を物悲しく感じざるを得ない。

 当時私は、FM雑誌にオーディオ担当編集者として勤めていた。DVD-A規格が発表されるとほぼ同時に、「ダメだ、これじゃピュアオーディオのみを展開している部屋にはまず入れてもらえない!」と危機感を抱き、メーカーの広報担当者や、当時存在したDVDオーディオ協議会の人にも、「小さなものでいいから、本体にモニターを取り付けて、最小限の操作ができるようにしておかないと、普及は覚束ないと思いますよ」と話して回ったものだった。

 しかし、受け答えしてくれた人は異口同音に「あぁ、そういう声もありますね」と木で鼻をくくったような返答だった。「この人たちは、自社の製品、あるいは自分が関わっているコンソーシアムが推している製品を、普及させる気が本当にあるのだろうか?」と、心底疑問に思ったことを、今なお鮮明に覚えている。

 それかあらぬか、DVD-Aは数年を経ずしてプレーヤーが発売されなくなり、結構な数が発売されたDVD-Aソフトは、DVDビデオプレーヤーの一部が余禄として搭載したDVD-A再生機能で細々と再生するしかない、という時代が続いたものだ。DVD-Aは何と20世紀中に192kHz/24ビットなどという高次PCMデジタル音源の再生が可能なものだったし、音も実に良かった。首尾よく普及が進めば、現在のハイレゾ配信へ橋渡しとなる、大きな勢力になっていたであろうことは、想像に難くない。つくづく惜しい存在を無駄にしたものだと思う。

ソニーのSACDプレーヤー1号機SCD-1。
ディスクを装着してから音が出るまでに時間がかかり、
操作性は決して良いといいかねる製品だが、それでも外部モニターは必要なかったし、
何より音が良かったのでクリーンヒットを遂げ、SACDの優位を決定づけた。

 そんな思いを胸に抱きつつ、目の前にカクテルオーディオの製品が存在すると、「ほら、やっぱりこれでよかったんじゃないか!」と声を大にしたくなる。もちろん、当時は今と比べ物にならないくらい液晶パネルは高価なものだったから、こんな大きなパネルを装着することはかなわなかったろう。しかし、小さなものでもマルチディスプレイが装着されていたら、プレーヤーを導入し、ディスクも買ったが再生できなかった(私も体験した)という悲劇は避けられたに違いない。

 現在、韓国は大変なことになりつつあり、それは多分に自業自得という側面もあるのだが、カクテルオーディオのような真っ当な製品を作る企業へは、どうか大きな障害が降りかかることのないように、これはもうこちら側から祈るしかない。苦境を乗り越えて、頑張ってほしい。

(2019年8月9日更新) 第227回に戻る 第229回に進む 


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炭山アキラ(すみやまあきら)

昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。

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