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【アーカイヴ】第138回/カセットデッキ400台を見て、NEC「A-10」の香りを嗅ぎ、よき時代を懐かしんだ11月[田中伊佐資]
●11月×日/茨城県の笠間市で取材。例によってステレオ誌のオーディオマニア訪問。スピーカーはソナス・ファベールのストラディヴァリ・オマージュ。かなり立派なものだが、それを食ってしまうほどの物凄いものをマニア氏は持っていた。
カセットデッキ。その数400台。絶句。
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●11月×日/「ステレオ時代 Vol.8」にアナログアンプの基板(デジタルじゃなく)が付録になるというので、ミュージックバードの高音質チューナーでお馴染み、港北ネットワークサービスの萩原由久さんに会う。
萩原さんはかつてNECでプリメインアンプの名機A-10を開発したエンジニア。ステレオ時代編集長の澤村信さんは、80年代の当時A-10に憧れていて、その音を復活させる願いをずっと抱いていた。そこで今回の基板製作を萩原さんに依頼したというわけだ。
基板だけではもちろん音が出ない。別途シャーシなどの部品を揃える必要があるが、僕レベルの工作音痴でもどうにか作れるような仕組みになっていた。
面白いのはACアダプターだけでなく、やはり港北ネットワークサービスから出ている強化電源PS-12VRにも繋げられることだ。これはチューナーの強化電源として開発されたものだ。さらに基板は左右モノブロック設計なので、ダブルで取り付けることができる。
贅沢にも2個の強化電源で給電した音は、そのへんのプリメインアンプだったら電源ケーブルを巻いて逃げ出すほどクォリティが高かった。パワフルで想像通り左右のセパレーションがいい。とても雑誌付録の音ではない。
まあPS-12VRのコストもそれなりにかかっているが、これだったらA-10そのものと比べてもいい勝負をするのではないか。付録は本家と違いパーツが劣化していないし。豪華なシャーシに取り付ける伸びしろもある。
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●11月×日/いつもの「八重洲レコード聴きまくり大会(八重レコ)」を実施。これで8回目。オーディオの目玉は、オンキヨーの新型スピーカーSC-3だった。
感激したのは高域用にコンプレッション・ドライバーとホーンを新しく作ったこと。ドーム型やコーン型にして専業ユニットメーカーから買ってくれば、手っ取り早いものを敢えてホーン。しかも設計がたいへんだし、製造コストもかかる。
それにウーファーを20cm径にした2ウェイ、わりと大きめ(幅340×高さ591.5×奥行き440mm)のブックシェルフという姿もいい。国産ミドル級サイズのスピーカーは本当に少なくなってしまった。だいたいが小型かトールボーイ。オンキヨーは勝負している感じがする。
イベントなので大きめに鳴らしたが、怯むことなくいくらでもパワーは入り、ダイナミックなバネのきいた音が会場に響いた。伝統ある「Scepter(セプター)」の名称を15年ぶりに復活させたそうだが、まさにそれに値する実力だった。
なお八重レコでかかったレコードは下記の通り。順不同
相方の生島昇さん(diskunion JazzTOKYO店長)はジャズ中心。
『カインド・オブ・ブルー』マイルス・デイヴィス(オリジナル盤)
『カインド・オブ・ブルー』マイルス・デイヴィス(デアゴスティーニ盤)
『ファンタジー』岩崎宏美
『コンティノン・ブルー』クレモンティーヌ
『アニー・ロスは歌う』アニー・ロス
『ナイトライツ』ジェリー・マリガン
『サウンズ!』ジャック・マーシャル&シェリー・マン
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僕は生島さんのジャズ(一部岩崎宏美)に対抗してロック系。
『ノーバディーズ・フール』ダン・ペン
『青い影』プロコル・ハルム(シングル)
『ホーム・トゥナイト』エアロスミス(シングル)
『ネクスト・ワン』グリム・スパンキー
『イン・マイ・オウン・タイム』カレン・ダルトン
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(2016年12月9日更新) 第137回に戻る 第139回に進む
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東京都生まれ。音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。著作に『音の見える部屋 オーディオと在る人』(音楽之友社)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(音楽之友社)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。
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