#96 ウィロー『Empathogen』
ウィロー『Empathogen』
ウィローの新作は、ロックでもR&Bでもなかった。1曲目の『home』は、いきなりジャズ・ピアニスト、ジョン・バティステの歓喜の雄叫びから始まる。若き才能と一緒に音楽を楽しむことへの歓び、期待感から発せられた声だと思うので、いきなり期待感を煽られるわけだけれど、アルバムはそれを裏切ることはない。
もともと「ポップ・カメレオン」と言われるなど、ジャンルに縛られないアーティストではある。これまでもその時どきの自分を作品に反映させてきた。それが今回は、音楽的にはファンクとジャズの要素を取り入れていて、インスピレーションとなったのはメディテーションを通して自分と向き合ったことだと言う。さらにグレゴリオ聖歌やハンガリーの伝統音楽なども聴いていたそうで、その影響も感じられるのだが、それらを音楽に具現化させられる力にも感心させられる。
そして、何よりもすごいのは「声を楽器のように操って歌っている」ことだ。まだ23歳なのに、ベテランのジャズシンガーがやるような高度なテクニックも駆使して、即興的に歌ったりもしている。この歌唱力は、どうやって磨いてきてきたの? 思わずつぶやいてしまう。
しかも自身でプロデュースも手懸けて、彼女自身もギターを演奏したりしている。また、『pain for fun』では憧れの人、セイント・ヴィンセントと共演しているんだけれど、何度聴いても彼女の歌声にうっとりしてしまう。
そして、Z世代らしく、2分未満の曲も多く、さらにイントロがなく、いきなり歌い始めたりも。そんなところに触れられるのも楽しい。
服部のり子