R.E.M.の全アルバムをフィジカルで聴く
インディー・ロックやUSオルタナティヴ・ロックが好きな人々にとって、最も重要なバンドの一つといっていいR.E.M.のアルバムを、初期から黄金期の中期、そしてドラムのビル脱退後の後期まで、時系列で全てのアルバムをフィジカルで聴きながら、バンドの趨勢を辿ってみました。
メンバー
ピーター・バック(ギター、マンドリン)
マイケル・スタイプ(ヴォーカル)
マイク・ミルズ(ベース、ピアノ)
ビル・ベリー(ドラム)※1997年脱退
オリジナル・アルバム
Murmur(1983年)
Reckoning(1984年)
Fables Of The Reconstruction(1985年)
Lifes Rich Pageant(1986年)
Document(1987年)
Green(1988年)
Out Of Time(1991年)
Automatic For The People(1992年)
Monster(1994年)
New Adventures In Hi-Fi(1996年)
Up(1998年)
Reveal(2001年)
Around The Sun(2004年)
Accelerate(2008年)
Collapse Into Now(2011年)
R.E.M.ってどんなバンド?
1980年、ジョージア大に通っていたピーター・バックが同じ大学に通うマイケル・スタイプを誘い、そこにマイク・ミルズ、ビル・ベリーが加わりR.E.M.(Rapid Eye Movement=いわゆるレム睡眠のこと)を結成。
1981年にインディ・デビュー。翌年にIRSと契約、カレッジチャートで人気を博し大学生を中心に熱狂的な支持を得る。その後88年にワーナーへ移籍し、80年代後半から90年代にかけて人気・セールス共にUSオルタナティブ・ロックを代表する最重要バンドへと飛躍する。その後97年にドラムのビル・ベリーが健康上の理由でバンドを脱退。R.E.M.は残った3人でバンドを続け、2011年の「コラプス・イントゥ・ナウ」をもって解散した。
1 Murmur(1983年)
R.E.M.の歴史はこのアルバムの1曲目、名曲「Radio Free Europe」から始まった。当時一聴してすぐにこの曲を気に入り一緒に歌いたいと思ったのだが、このアルバムは輸入盤しかもっていなかったので歌詞が分からず。必死に聴いてもサビの「Radio Free Europe ~♪」他、数か所をなんとか聴き取れるも一緒に歌うことは叶わず、断念したのを覚えている。今聴いてもこの疾走感とシンプルなギターのバッキングとリズム、本当に格好いい。
そして4曲目の「Talk About The Passion」。
なんという素敵なイントロ。そしてこのギターのリフ。そしてそしてサビの切ない「Talk About The Passion~♪」のメロ。本当にいい曲だ。
この他にも、「Catapult」や「Sitting Still」、「Shaking Through]など良曲が多いアルバム。
同年は「Violent Femmes / Same」「Police / Synchronicity」など、個人的に今でもよく聴く大好きな作品が多い年だったが、それでも結局はこの「Murmur」以上に聴いたアルバムは無い。R.E.M.のロック界における伝説の始まりに相応しい傑作だと思う。全米アルバムチャート36位。
2 Reckoning(1984年)
衝撃の高クオリティだった1stリリースの翌年、R.E.M.はさらなる飛躍を遂げる。この2ndは、あのエルヴィス・コステロが絶賛したとも言われおり、やはり特徴的なギターイントロから始まる「so.Central Rain」の「Sorry~♪」と本当に許しを請うためのような歌声に聴き入ってしまう。
そして後々の彼らが生み出した、数々の名曲につながる(と個人的には勝手に思っている)、そしてピーター・バックのアルペジオギターの素晴らしさが際立つ「(don`t go back to) ROCKVILLE」。個人的には1St の良さは圧倒的だが、この 2nd もすごく好き。全米アルバムチャート27位。
3 Fables Of The Reconstruction(1985年)
プロデューサーにジョー・ボイドを迎えてイギリスでレコーデイングされた3rdアルバム。イントロのギターのリフや疾走感が素晴らしい後年に語り継がれる名曲「Driver 8」や、「Cant Get There From Here」「Green Grow The Rushes」「Kohoutek」など収録され、R.E.M.らしいピーター・バックのギターアルペジオやシンプルなイントロのギターリフが特徴的。
1st、2ndの流れをしっかり汲んだ秀作だと思われるが、個人的には初期作品で一番聴く回数が少なかったアルバムかなぁ。全米アルバムチャート28位。
4 Lifes Rich Pageant(1986年)
このアルバムは唯一LPで所有。
R.E.M.が大きく変化したと言われているアルバム。確かに初期からずっと聴き続けていると、このアルバムにおけるマイケル・スタイプの歌詞の聞き取りやすさ、ドラムの音が強くて明瞭なこと、以前にもましてギター、ベースの音もしっかりと浮き出ていることなど、意識的に変化させたと思わせられる。個人的に大好きな初期の名曲(いや、みんな好きか)「Fall On Me」もこのアルバムに収録されている。
その他、シンプルで素晴らしいベースのイントロから始まる「Cuyahoga」やR.E.M.らしい疾走感あるインディ・ギターロックの「I Believe」なども良い。
全米アルバムチャート21位。初ゴールドディスク!
5 Document(1987年)
この先R.E.M.の黄金期を共に歩むこととなる、スコット・リットプロデュースの5thアルバム。スコットとはこの「ドキュメント」から、10thアルバムの「ニュー・アドヴェンチャーズ・イン・ハイ-ファイ」(ビル・ベリーが在籍した最後のアルバム)まで一緒にアルバム制作をした。
1曲目からこのアルバムは凄まじい。「Finest Work Song(邦題:最高級の労働歌)」というなんとも力強い曲から始まり、R.E.M.らしいギターアルペジオが素晴らしい「Welcome To The Occupation」、そして彼らの初期における名曲「It`s The End Of The World As We Know It (And I Feel Fine)」「The One I Love」と続く。
「It`s The End Of The World As We Know It (And I Feel Fine)」は曲名とは裏腹に明るい曲調でアップテンポ。当時これも一緒に歌いたくて歌詞を一生懸命追ったけれど分からないところが多く断念。サビだけはと一緒に歌うも、この「知っての通り、世界の終わり」という歌詞を、陽気に♪ I Feel Fine ~♫ というギャップがすごいなぁと強烈に印象に残った。
そして「The One I Love」。
これも非常に良い曲なのだが、歌詞の意味が読み取れず。ふ静かな雰囲気で、”This one goes out to the one I love ~ ♪”と愛を捧げる歌のように聞こえるのだが、サビが ” Fire! ~♪ ” と。燃えろと叫んでいるのだ。
この曲はR.E.M.初のシングルビルボードチャートTOP10入りの曲なのだが、どうやら世間一般の印象のラブソングではなく、”復讐の歌”らしい。
ある意味それも彼等らしいのかもしれない。
全米アルバムチャート10位。
6 Green(1988年)
僕が初めて出会ったR.E.M.のアルバム。
高校生になったばかりの頃、洋楽好きの兄の部屋から聴こえてきた曲は「Stand」だった。今でも覚えているが、最初の印象はなんだか変な曲、だった。それでもなぜかこのジャケが異様に好みで兄の部屋から勝手にもってきて自分の部屋に飾っていた。そして何度か繰り返し聴いているうちに、いつの間にかドハマりしていた。まさかそのお気に入りのジャケが、木の葉と年輪と電信柱が並べられていて、背景のオレンジ色は米軍がベトナム戦争で使用した枯葉剤のエージェント・オレンジを意味しているとはその当時知りもしなかったが…。
あまりにも自分にとって特別なアルバムなので、このアルバムは全曲紹介といきたい。
1曲目「Pop Song 89」の調子が狂いそうなギターリフや、2曲目「Get Up」のギターカッティングで聴こえる金属的な音が特徴的で、やはりピーター・バックのギターは格好いいと再認識。そしてR.E.M.史上もっとも美しい曲の一つと勝手に思っている、3曲目「You Are The Everything」。なんとも美しいマンドリンの哀愁感あふれる音が素晴らしい。
4曲目「Stand」。最初にR.E.M.を認識した曲で今でこそ大好きな曲だが、初めてMVを見たときは正直言ってマイケル・スタイプの動きというかダンスにがっかりとした(笑)。何じゃこの動き!と。5曲目「World Leader Pretend」、これまた猛烈に好きな曲で、マイナー調の展開からメジャーに戻る瞬間、そこでピアノをバックに堂々と歌うマイケル・スタイプ、そしてビル・ベリーのドラム。いや、完璧な曲だ。
6曲目の「The Wrong Child」もマンドリンがベースとなっている牧歌的な素晴らしい曲。7曲目「Orange Crush」はこのアルバムで最初に気に入った曲。スネアの音が凄まじく良く、曲そのものを力強くさせている。8曲目「Turn You Inside Out」ギターはR.E.M.のオルタナ要素が垣間見える。9曲目「Hairshirt」、これもマンドリンが基調となっていてアルバム後半、物語の終焉に向かうにふさわしい曲。10曲目「I Remember California」アルバムのラストっぽくない曲だなと最初の頃は思っていた。この不穏なギターリフもR.E.M.独特で本当に好きだ。11曲目「タイトルなし」暫くの間、「I Remember California」が2つの異なる楽曲に分かれていると思いこんでいたが、CDプレイヤー見たら11曲目と、そしてライナーノーツ見たら11曲目はアーティストの意向により空欄にしてあります、とありそんなことがあるのかと驚いた。兎にも角にもこの希望に満ちた力強い印象を抱くこのアルバムへの思い入れというものは大変強く、R.E.M.のアルバムの中でも1,2を争う大好きなアルバムだ。全米アルバムチャート12位。
7 Out Of Time(1991年)
そしてこのアルバムへの思い入れも相当のものがある。「Green」で初めてR.E.M.の存在を知ったが、当時の日本で高校生だった自分が彼等のことを知る方法はかなり少なく、大好きなアルバムなのにアーティスト情報がほとんどないためR.E.M.がどんなバンドかもよく知らなかった。そんな中、大学でアメリカに戻った(高校1年間アメリカに留学していた)年、MTVで「Losing My Religion」がヘビロテされていた。すぐにタワレコでこのアルバムを入手し聴きまくった。そして日本から日本国内盤のCDを送ってもらい、ライナーノーツを読み、彼等の情報を必死に集めた。R.E.M.というバンドは知れば知るほど魅力的で、彼等のサウンドやマイケル・スタイプのアティテュードなどに惹かれた。そして益々R.E.M.の魅力に取り憑かれることになったアルバム「Out Of Time」は、何と言ってもこの曲。「Losing My Religion」。
そういえば、先日観た「Aftersun」という映画で、この「Losing My Religion」が印象的なシーンで使われていた。
R.E.M.のフェイバリット・ソングを思い起こすと、「You Are The Everything」やこの「Losing My Religion」などマンドリンの曲が多い。その他「Fall On Me」とか、あのギターのアルペジオね。そう思うと僕はマイケル・スタイプよりも、実はピーター・バックにR.E.M.の魅力を感じていたのかもしれない。
それ以外にもパパパパーのコーラスが素敵な「Near Wild Heaven」、ケイト・ピアーソンとの素晴らしい掛け合いが見事な「Shiny Happy People」。(この曲でB52`sの存在を知り、彼等にもハマった!)
そしてこのアルバムで実はかなり好きな曲「Belong」。バースは語りで、サビは”ho~”のコーラスのみ。こんな曲を聴いたことがなかったのとても新鮮だった。広大なアメリカの雰囲気にとても良く合う!
アルバムのサポートツアーをしなかったにも関わらず、この「Out Of Time」は全世界で1,800万枚という脅威のセールスを達成し、全米アルバムチャートでも1位を獲得した。R.E.M.が世界一のロックバンドで有ることを世界が認めることになるアルバムとなった。全米ビルボードアルバムチャート1位。
8 Automatic For The People(1992年)
「Out Of Time」の成功で名実ともに世界のトップに立ったR.E.M.が、わずか1年で続けざまにとんでもないレベルのアルバムをリリースした。それがこの「Automatic For The People」。1曲目の「Drive」から静かに陰鬱な雰囲気を醸し出しアルバムはスタートする。そこから2曲目の「Try Not To Breathe」。曲名を直訳すれば”息をしないようにする”。”死”を意識するような曲だ。3曲目でR.E.M.の陽の部分とも言える曲調にホッとするも、4曲目の「Everybody Hurts」。
初めてこの曲を聴いたとき、聴いたその瞬間から涙が止まらなくなった。心が根こそぎもっていかれた。歌い出しから、マイケル・スタイプのか細くも切なく美しい歌声と、はっきり聴き取れるその歌詞が心を貫いた。
天に拳を突き上げるわけでもなく、無理に奮い立たせるのでもない。背中を押すのでもなく、手を引くのでもない。それは、ただただ hung on し、hold on すれば良いのだよと教えてくれ、そっと隣に寄り添い共に歩調を合わせて歩いてくれる、そんな感覚の曲なのだ。このアルバムがリリースされた頃、個人的に色々とあった。誰もが人生で経験することがあるように、傷つき、人間不信に陥っていた。あのとき、この曲が隣にあったことがどれほど心強かったか。
ちなみにアルバムのクレジットを見ると、この曲や「Nightswimming」などのオーケストラアレンジがジョン・ポール・ジョーンズとなっている。あのツェッペリンのベーシストだ。いや、すごいな。
そして10曲目の「Man On The Moon」。
理由はわからないけれど、おそらく全R.E.M.の楽曲の中で一番好きな曲。35歳という若さで病死したアメリカの若きエンターテイナー&パフォーマンスアーティスト、アンディ・カウフマンへ捧げられた曲なのだが、なんだか明るさと切なさが同居したなんともいえない曲。聴いているとたまらなく歩き出したくなるような曲調なのだけれど、それと同時に何故か胸がキュッとなる。おそらく一生涯聴き続ける曲なんだろうな。
そしてその「Man On The Moon」から見事な流れで続くのが「Nightswimming」。美しいピアノの旋律に合わせ、マイケル・スタイプが紡ぐ言葉はなんとも言えない魅力を携えている。とてもさりげなく、詩的だ。
R.E.M.の数あるアルバムの中から1枚を選べ、と言われたらどれもあまりに素晴らしくて本当に選べない。ただ間違いないのは、「Green」から「Out Of Time」そしてこの「Automatic For The」へとつながるこの3枚は、R.E.M.のアルバムでというより、自分にとって様々なアーティストのアルバムの中でも特別の3枚だということ。本当に本当に大切なアルバムだ。
全米ビルボードアルバムチャート2位。
9 Monster(1994年)
R.E.M.史上もっとも美しいアルバムだった(と勝手に思っている)前作、「Automatic For The People」から2年後にリリースされた、R.E.M.史上もっともロックなアルバム(と個人的に思っている)、9thアルバム「Monster」。
1曲目の「What's the Frequency, Kenneth?」のギターが鳴った瞬間、ん?これR.E.M.の新譜だよな?と当時思った記憶がある。自分にとってのR.E.M.は、乱暴に言うとアコースティックなフォーク・ロックがベースのインディ・カレッジ・ロックの象徴的存在なのだ。まぁ、セールス的な面では「Out Of Time」の成功でもはやインディ・カレッジ・ロックとは言えなくなっていたが…。ただそんな印象のバンドが、アルバム1曲目からグランジのような激しく歪んだギターで始まったのだから、本当にR.E.M.の新譜か?と疑うのも無理はない。
アルバムを象徴するかのような激しいスタートから、6曲目の「Strange Currencies」で一旦落ち着き、名曲「Everybody Hurts」を思い起こさせるような往年のR.E.M.的サウンドが顔を出す。そこから7曲目の「Tongue」はマイケル・スタイプが珍しく全てファルセットで歌っている非常に優しい歌。
そして、8曲目の「Bang And Blame」。独特のリズムとベースラインに重なるトレモロギター、そしてどこか寂しげなマイケル・スタイプの歌がなんだか切ない曲。このアルバムで非常に好きな曲だ。
そして10曲目の「Let Me In」。
カートに捧げた曲とされている。激しく歪んだギターでの弾き語り。
あまりにも切なく悲しい曲。
正直に言うと、スコット・リットとR.E.M.が組んだ黄金期の6枚のアルバムの中で一番聴かなかったアルバムかもしれない。なぜだろう、全く気に入らないところなんてなく、とてもいいアルバムなのだけれども…。
全米ビルボードアルバムチャート1位。
10 New Adventures In Hi-Fi(1996年)
通算10枚目、不動のメンバーだった4人による最後のスタジオ・アルバム。アルバム発表後、ドラムのビル・ベリーが健康上の理由で脱退。そしてドキュメントからR.E.M.の黄金期を築き上げたプロデューサー、スコット・リットと一緒に作った最後のアルバムでもある。
アルバム1曲目「How the West Was Won And Where It Got Us」の静かで不穏な立ち上がりを聴いた瞬間「Drive」とリンクし、ジャケの色合いも相まって、ん?これは「Automatic For The People」のような美しさを持ったアルバムなのか?と思ったが、聴き進めるていくとしっかりとその後の「Monster」を経て作られたアルバムだということがわかる。
6曲目「Leave」、なんとも男臭い曲だ。メインのリードギターのリフが心の奥の闘争心に火をつけ、何故か闘う気持ちにさせる曲だ。象徴であるギターリフが曲の終盤で1発録りかのように音が外れるが、それもまた良い。
「Leave」で”離れ”、7曲目の「Departure」で”出発”する。そして、個人的にとても好きな曲は9曲目「Be Mine」。なんとも切ないギターリフ。何と言っても音が良い。よくこの美しいギターリフを密かに歪ませたギターで弾いてくれた。この歪がたまらなく切ない。
この曲はトム・ヨークがR.E.M.と共に歌っている動画がYou Tubeに上がっているので、よかったらそれも見てもらいたい。
そして、アルバム最後を飾るのは「Electrolite」。
ビルはR.E.M.というとてつもないバンドでドラムを叩き、素晴らしい世界を我々に見せてくれた。その最後の最後を飾る曲がこの曲だ。美しくて強く、軽やかに明るく、そして切ない。ピアノの旋律はどこか「Nightswimming」を彷彿させるこの曲は、ビルのバンドでの最後を飾るにふさわしい曲だ。
文句なしのアルバムだが、国内盤のライナーノーツはハッキリと好きではなかった。嫌な印象を強く残させるライナーノーツというのはその時点で失敗だと、個人的には思うのだ。
素晴らしいアーティストの素晴らしいアルバムには、このような品位のない文章はいらない。”マイケル・スタイプの悪しきコピー”、とは誰が言っているのか? ”トゥ・マッチ・シリアスな悩めるグランジ・アイコン” とは知性を感じさせない、音楽を評論する資格すら放棄したかと思える物言いだ。個人的な意見だが、大変残念なライナーノーツであった。
世界各国のあらゆる国で1位を獲得したこのアルバム、主要国では唯一日本のみTOP10を逃した(最高位26位)。日本におけるR.E.M.がどれほど過小評価されているか、寂しくなる。全米ビルボードアルバムチャート2位。
11 Up(1998年)
前作を最後にビル・ベリーが脱退。
そして「ドキュメント」からR.E.M.と共に黄金期を築き上げた名プロデューサー・スコット・リットととも袂を分かち、ピーター、マイク、マイケルの3人R.E.M.として初めてリリースした11枚目のアルバム。
正直言うと僕はこのアルバムがリリースされた当時、すぐには入手しなかった。いや、正確には彼等の音がどう変わるか、どう変わってしまうのかが、期待を怖さが上回ってしまい買えなかったのだ。そんな思いを振り切り、しばらくしてからやっと手にしたこのアルバム1曲目「Airportman」。今までのR.E.M.にない、アンビエント・ミュージックのような始まり。一瞬、誰のアルバムを聴いているのだ?と思わせられるほどR.E.M.っぽくない。ただ、この世界観はとても好きだ。まるでブライアン・イーノのようだ。
このアルバムで最初に好きになった曲は、5曲目「At My Most Beautiful」。
”ペット・サウンズ”期のビーチ・ボーイズに寄せたサウンドで、思いのほか違和感が無い。R.E.M.が他のアーティストの影響をここまでストレートに音に出すのは珍しいかもしれない。ピアノのフレーズからコーラスまで、見事にビーチ・ボーイズだ。
そして、ビル・ベリーが抜けたR.E.M.が、本質は何一つ変わっていないことを、いやしっかりと3人の新しいR.E.M.として歩みだしていることを、11曲目「Daysleeper」を聴いてよく理解できた。なんともR.E.M.らしい曲だ。
3人のR.E.M.として初のフルアルバム。3人でも気合い入れてやっていくぞ!というようなわかりやすく力強いロックサウンドが中心のアルバムで来るかと思いきや、全体的に穏やかで非常に聴きごたえのあるアルバムだった。
最終的に次作「Reveal」のリリース前にしっかりと本作「UP」を聴いておけて良かったと、今振り返るとそんなことを感じた。
全米ビルボードアルバムチャート3位。
12 Reveal(2001年)
2001年リリースの12作目。
アルバム「UP」で3人体制の R.E.M.にホッとしたが、初期のようなオンリーワンのサウンド、黄金期のようなアルバムが出るたびに得た”驚き”、そんなものからは少し離れてしまったように思う。それでもやっぱり元々の楽曲のクオリティが高いので、いい曲はたくさんある。
このアルバムでPV含めて最初に気に入った曲は「All The Way To Reno」。
シンプルなギターリフが、あ~R.E.M.っぽいなぁ・・、良いわー。
このアルバムは全体的に落ち着いたアルバムだと感じる。
中盤にスマッシュヒットした「Imitaiton of love」などもあるが、「I`ll take the rain」からラストの「Beachball」など、アルバム全般に漂う落ちついた雰囲気をよく表している気がする。3人体制になったR.E.M.というバンド自体のテンションがそのまま曲調にも現れた、そんな気がした。
正直に言うとR.E.M.のアルバムの中で、UP以降の3枚はその他のアルバムと比べると聴く頻度はかなり落ちた。だからといってR.E.M.に対する何かがかわったわけではない。相変わらず自分にとってのフェイバリット・バンドであることは間違いない。全米ビルボードアルバムチャート6位。
13 Around The Sun(2004年)
2004年、13作目。
セールス含め世間的にはR.E.M.のアルバムの中で最も評価されなかったアルバム、という位置づけだろうか。確かに自分自身もR.E.M.のアルバムにしてはかなり聴いた回数が少ない気がする。アルバム冒頭の「Leaving New York」が非常に好きで、初っ端からいいじゃん!と思ったのだが、その後がなんだか重たい。音の空気が重たい。R.E.M.特有の、切なくても悲しくてもどこか上を向いて歩き出せる、そんな空気感を感じることが出来なかった。
個人的な感想だが、厳しい言い方をすれば世界最高峰のロックバンドであるR.E.M.のアルバムとすると凡庸なアルバムだと感じた。全米ビルボードアルバムチャート13位。
14 Accelerate(2008年)
2008年、14作目。
前作「Around The Sun」発売後、”もうR.E.M.のアルバムは買わないかもしれないな”、と実は思っていた。それでもR.E.M.の新譜が出ていることを知って素通りすることは難しく、結局手にした。一聴して衝撃を受けた。
そう、これこれ。R.E.M.の新譜聴いたときの驚きはこうじゃなくっちゃ。
結成から28年、R.E.M.はまだまだシーンの最前線にいると確信した。
1曲目の「Living Well Is The Best Revenge」のイントロからの疾走感とマイケル・スタイプのしゃがれた声。そして2曲目の「Man-Sized Wreath」の骨太さ。いやぁ、前作までの感じでどんどん落ち着いてしまったらどうしようと思っていたけれど、やっぱりR.E.M.だね。4曲目の「Hollow Man」、美しいピアノのイントロから盛り上がり歪んだギターが重なる。そしてまた静かなギターアルペジオにしっとりと聴かせるスタイプの歌。この独特の疾走感がやっぱり良いんだ。
そして、「あぁ、R.E.M.らしい曲だなぁ。Greenの中に収録されていてもおかしくなさそう」なんてことを思ったのが、7曲目「Until The Day Is Done」。イントロのアコースティックギター、そしてまるでビル・ベリーのようなドラムのタム・アレンジ。マイクの自由自在のベース。こういうR.E.M.にしか書けないR.E.M.らしい曲が本当に好きだ。
全11曲、トータルわずか34分という全力疾走のこのアルバムの衝動力こそが、R.E.M.が常に新しい扉を開いてきた世界最高峰のロックバンドである証だと思う。結成から28年経った、平均年齢50歳のロックバンドが作るアルバムとは思えない。全米ビルボードアルバムチャート2位。
15 Collapse Into Now(2011年)
2011年、15作目。そしてラスト・アルバム。
前作、「Accelerate」が素晴らしく、R.E.M.はまだまだこれからも次々と素晴らしアルバムを出していくんだろうな。ストーンズのように、ずっと続けていくんだろうな。なんて勝手に思っていたら、アルバムリリースから半年くらいだっただろうか。突如の解散宣言。受け手にとっては突然の出来事だったけれど、バンドとしては前作と今作の出来に満足し、年齢のことなどもあり、ある種予定通りのクロージングだったようだ。このラストアルバムは、前作アクセラレートのような疾走感はないが、なんとも言えぬR.E.M.らしいミドルテンポの良曲が散りばめられている。
6曲目の「Every Day Is Yours To Win」のクリアなギターアルペジオの音色に重なる、スタイプの優しい歌声。
そして8曲目「Walk It Back」。
美しいピアノの旋律にマイケル・スタイプの”Walk It Back ♪ ”と歌がのる。なんとういシンプルさ。聞き手へリーチする力はやはり抜群だ。
R.E.M.が歩んだ31年、リリースしたオリジナル・アルバムは15枚。
多くのフォロワーを生み、多くのミュージシャンから慕われ、憧れられ、目標となったバンド。本当に素晴らしいロックバンドだと思う。
R.E.M.がいた時代に生まれ、オンタイムで彼等の音楽を聴くことが出来たことに幸せを感じ感謝したい。バンドが解散してからもう10年以上経ってしまったけれど、今もずっと変わらずR.E.M.の音楽を聴き続けている。そしてこれからも間違いなく聴き続ける。僕にとってR.E.M.は永遠。