Vampire Weekend の全アルバムをフィジカルで聴く
ヴァンパイア・ウィークエンドというバンド名だけを知った頃は、なんとなく勝手なイメージでメタルかHRバンドだと思いこんでいた。そして、そんな想像をしたその頃たまたまハードな音から離れていた時期ということもあり、ヴァンパイア・ウィークエンドをあえて聴くこともなかった。そんな勝手な想像をよそにCDショップで流れていた「FINGER BACK」を初めて聴いたとき、”ナニコレ?めちゃくちゃ好み!!!”となり、レジ付近に行ったところ”NOW ON PLAYING”に、3rdアルバムの『モダン・ヴァンパイア・オブ・ザ・シティ』が置いてあった。
当然え~!!!
ヴァンパイア・ウィークエンドってメタルじゃないの?と…。
結局僕にとっての彼らの初聴きは、3rdアルバムだった。そこから、1st、2ndと遡って聴き、全てにハマり、4th『ファーザー・オブ・ザ・ブリッジ』でかけがえのないバンドとなった。そして最新作の5th『オンリー・ゴッド・オブ・アバブ・アス』。ここにきて間違いなくキャリア最高作。末恐ろしいバンドですね。さて今回は、そんなヴァンパイア・ウィークエンドの全オリジナルアルバムをフィジカルで聴く!です。
メンバー
エズラ・クーニング(ボーカル・ギター)
クリス・バイオ(ベース・コーラス)
クリス・トムソン(ドラム・パーカス・コーラス)
ロスタム・バトマングリ(キーボード、ギター、パーカス、プログラミング、他)※2016年脱退。脱退後もバンドと良好な関係を続けている。
オリジナル・アルバム
Vampire Weekend『ヴァンパイア・ウィークエンド』(2008年)
Contra『コントラ』(2010年)
Modern Vampires of the City『モダン・ヴァンパイア・オブ・ザ・シティ』(2013年)
Father of the Bride『ファーザー・オブ・ザ・ブリッジ』(2019年)
Only God Was Above Us『オンリー・ゴッド・オブ・アバブ・アス』(2024年)
Vampire Weekendってどんなバンド?
ニューヨークはマンハッタン、コロンビア大学で出会った4人が2006年に結成したバンド。アフロポップの影響を受けているという触れ込みを様々なところで見かけるが、いまいちアフロポップが何であるかを理解していない自分としては、アフリカン・ミュージックの陽気なリズムがベースにあるサウンド、というふうに自分なりに勝手な解釈をしている。圧倒的な陽のマインドを持ったダンサブルなバンド。聴いていて気持ちが上がるバンド。オンリーワンなバンドですね。
1. Vampire Weekend(2008年)
全世界で100万枚以上のセールという驚異的な記録を打ち出した、全11曲、34分20秒のコンパクトなデビューアルバム。プロデュースはキーボードのロスタム・バトマングリ!ちなみにロスタムはストリングスのアレンジやミックスまで行っている。
1.Mansard Roof
ヴァンパイア・ウィークエンドの伝説の幕開けに相応しいデビューアルバム1曲目!イントロのプァッパッパーからもう彼らの世界観がいきなり炸裂!
2.Oxford Comma
乾いたブレイクビーツから陽気なシンセ&メロ。一定になり続けるハイハットが、まるで時計の針が時を刻む音を早送りにしているかのようで耳に残る。ギターソロもハッピーで良い。
3.A-Punk
文句なし、ヴァンパイア・ウィークエンドの代表曲の一つ。これはもう勝手に体が動いてしまう!昨今これほど楽曲やギターなどに独自性を出せているバンドは少ない気がする。
4曲目「Cape God Kwassa Kwassa」これまたイントロのギターがたまらない、一度聴いたら忘れられないハッピーなリフ。そして、チェロやヴィオラ、ヴァイオリンの旋律が特徴的な5曲目「M79」や8曲目「ONE」も素晴らしいが終盤9曲目の「I Stand Corrected」の穏やかな疾走感、そして10曲目「Walcott」の勢い凄まじい疾走感。聴き応えある。
発売当初にオンタイムで聴けていないのでなんとも言えないが、彼らの登場は明らかに今までのバンドの登場と違った雰囲気だっただろうな。
2. Contra(2010年)
デビューアルバムがいきなりブレイクした2年後、2010年リリースのセカンド、『コントラ』。ポラロイドで撮影された美しい女性のスナップ写真が特徴的なジャケだが、どうやらこのモデルからバンドと写真家は使用許可を得ていないということで当時訴えられたようだ。バンドは使用許諾の契約書も持っているようだが、その後この問題がどう解決したのかは知らない。
このアルバム、理由はわからないけれども個人的には彼らの5枚のアルバムの中で一番聴いている回数が少ない。と言っても、かなり聴いているが・・・。なんとなくヴァンパイア・ウィークエンドを聴こうと思うと、無意識のうちに他のアルバムを手にとってプレイヤーに入れていることが多い。なんでだろ?
さて、1曲目の「Horchata」。陽気な民族的なパーカッションならいきなり心を奪われる。彼らには珍しくギターレスとリズムは打ち込みという曲なのだが、それでもすぐに彼らとわかる特徴的なサウンド。そこがすごい。2曲目「White Sky」もエレクトロな要素が強いが、コーラスの異国感あふれるメロディに、やはり彼ら独特の匂いを感じる。そしてライブでも大人気の曲、7曲目「Cousins」。パンキッシュな曲はやはり彼らの真骨頂の一つだろう。めちゃくちゃ格好いい。
8曲目の「Giving Up the Gun」もいい曲だ。ライナーノーツによると、当初この曲はギターとベースとドラムでシンプルな演奏したらしいが、エズラいわくそれは”ヒドい出来栄え”だったようた。その後収録されるヴァージョンになるまでにブリッジ部分だけでも3ヴァージョンも書き換えたりと、いくつもの段階を擁したそうだ。
そして10曲目「I Think Ur A Contra」。エンディングにこれほどふさわしい曲はない。エズラの歌声も他の曲と比較してぐっと抑えられ、柔らかく、優しく歌っている。バックに流れるチェロやギター、シェイカーの音が心地よいクロージングを促してくれる。
3. Modern Vampires of the City(2013年)
自分にとって彼らとの出会いのアルバムはこの3rd『モダン・ヴァンパイアーズ・オブ・ザ・シティ』。出会いのアルバムだけあって、思い入れは強く大好きなアルバムだ。東京出張の帰りに立ち寄ったタワレコ店内で流れていて気に入ってすぐに入手。「UNBELIVERS」(最高!)や「HANNAH HUNT」などヴァンパイア・ウィークエンドにしか出せない音が多い中、特にお気に入りなのはこの2曲。
まずはこれ、「STEP」(バッハの曲をモチーフにしている興味深い曲!)
このライブ映像、演奏自体はちょいミスもありリズムも狂うところかありそれほど調子が良いわけではないけれど、なぜか好きで何度も見てしまう。
そして一番好きなのが「FINGER BACK」。
このnote冒頭でも記した通り、彼らとの出会いとなった思い出深い曲。イントロのドラムはまるでU2の「Sunday Bloody Sunday」のよう。そして間奏の”I don`t wanna live like this, But I don`t wanna die”は、この次のアルバムに収録されている「Harmony Hall」へと繋がる。
ライナーノーツに記されたこの一文。僕がこのアルバムを聴いたときに感じた感情を見事に言語化してくれていて、読んだ瞬間、”そうそう!” と唸ってしまった。ライターは妹沢奈美氏。彼らを表現するのにこれほど的確な表現はないのでは?素晴らしい。
そして解説を読んでいて分かったことだが、エズラとロスタムは前作『コントラ』完成後、アルバムツアーを経てすぐに次のアルバムのためにロスタムの部屋で曲作りに入ったそうだ。そして若干壁にぶつかりつつもマサチューセッツ州の島へ場所を移して曲作りを続けたらしい。このアルバムを最後にロスタムは脱退してしまうわけだが、解説を読む限りこのバンドにとって二人の音楽性の複合化というものがいかに重要だったかがよく分かるエピソードだと思う。(このアルバムを最初に聴いて、1st、2ndと遡って聴いたので全てのアルバムにおいてロスタムがプロデューサーとは知らなかった!)
4. Father of the Bride(2019年)
3rdから6年経てのリリース。発売と同時に入手。
ロスタム脱退!と衝撃のニュースがあったけれども、喧嘩別れではなく今後もバンドには必要に応じて協力していくとのコメントを聞き、ホッとする。
自分の中で、ヴァンパイア・ウィークエンドの存在が決定的となったのがこのアルバム。サビのコーラスがどこか讃美歌的でもある1曲目の「Hold You Now」から静かな立ち上がり。そこから2曲目の超名曲「Harmony Hall」。あのギターイントロが鳴った時の高揚感はなんとも言い難い。
「Harmony Hall」
そして「This Life」のイントロ。このギターのリフも聴いただけで笑みがこぼれてしまう。なんて幸せな始まりなのだろう。ギターのリフまで口ずさみたくなる。
「This Life」
このアルバムを初めて聴いたとき、この14曲目「2021」のイントロが流れた瞬間、いろんな感情が入り乱れて涙が出てしまった。あの、ヴァンパイア・ウィークエンドが、我らが細野晴臣の名曲「花に水」をサンプリングしてくれた!と。「花に水」はフィジカルで所有したことはなく、サブスクでも確か聴けない時期が長かったので、youtubeでずっと聴いていた。なんとも言えないオーガニックなアンビエントミュージック。すごく落ち着く曲なのだが、まさかまさかヴァンパイア・ウィークエンドがサンプリングして「花に水」をベースに曲を作るとは思いもよらなかった。「2021」たまらなく良い曲なので、もしもまだ未聴の方がいたら「花に水」と共に聴いてもらいたい。
「2021」
5. Only God Was Above Us(2024年)
これまた、4th『ファーザー・オブ・ザ・ブリッジ』から5年もの時を経てのリリース。これだけ間隔が空くと一枚を聴く濃度と有り難みが増す。とにかくリリースされてからこれしか聴いていない。とんでもないクオリティの作品だ。メッセージ性や音楽的な遊び、音の絡み、紡がれる言葉とメロディ。これほど美しくメロウでパンキッシュなサウンドにはそうそう出会えない。
そしてこの最高のアルバム、なんとレコーディング中にエズラは6ヶ月もの間、奥さんのランダ・ジョーンズの仕事の都合で日本(主に東京)に滞在していた!東京滞在時はソニーのスタジオでレコーディングしたり、「カプリコーン」の制作を続けたりアレンジを変えたりしていたそうだ。そう思うと、あの名曲に東京という”空気”が少しでもブレンドされている思うと、イチ日本人ファンとしてなんだか嬉しい。そしてそんなエズラの東京における日々の過ごし方はといえば、息子さんを学校に届けたあと、住んでいた場所から約1時間ほどかけて渋谷まで歩き、喫茶店ライオンに通い、そこでコーヒーを飲みながらバッハやビバルディなどを聴いて過ごす、というものだったようだ。少なからずとも日本での生活がこのアルバムに何かしらの影響を与えているようで、それはなんだか嬉しい。
エズラの東京滞在の様子がフェニックスのPVで見れるので、良かったらこちらも。ちなみに隣でエズラをアテンドしているのは野村訓市氏。この人も格好いい。
1.Ice Cream Piano
アルバムの最初の歌詞が「Fuck The World」。きっとエズラの現状の世界に対する嘆きに近い想いも込められているのだろう。「I Scream,Piano」。その声はピアノでは決してない。ラウドに響くよ。
2.Classical
なんて素晴らしく印象的なイントロリフ。そしてエズラが歌う「Untrue, Unkind, and Unnatural」の切ないメロを際立たせるクリスのベースライン。泣ける。サックスとピアノの絡みも緊張感があっていい。
3.Capricorn
このゆるりとした音の流れ、ノスタルジックな世界観、美しい旋律のピアノ、対極の激しいギターとシンセ、エズラの優しい歌声に深いリバーブ。もう何も言う事はない。
4.Connect
降り注ぐようなピアノイントロから、疾走感ある四分打ち、そこからガラッと世界観が変わるようなサビ。小4からVampire Weekendの大ファンになった娘は、今まで1番好きだった「Harmony Hall」から1番がこの「Connect」になったそうです。サビの不思議な感覚が好きでたまらないと。
5.Prep-School Gangsters
一度聴いたら頭から離れないギターリフ、そしてあえてやっているであろうそのぎこちなさとラストのバイオリンとの掛け合い。ドラムアレンジも最高だ。
6.The Surfer
静かで少しダークな始まりから、霧が晴れるかのようなコーラスパートが特徴的。そして、クレジットを見るとなんとも嬉しい名前が!!
作曲にロスタムの名前がある!!脱退後も本当にこうやってつながっているのだな~と、ファンにはこれだけでたまらないよね。
7.Gen-X Cops
つんざくような強烈なイントロ。こういった彼らならではのパンキッシュな曲、好きなんだよなぁ。
8.Mary Boone
静かな立ち上がりから、象徴的なリズムが強く残るフック。この高揚感は彼らならでは。宗教歌のようなコーラスも美しく、曲全体が優美。それもそのはず、この曲は安藤忠雄の「光の教会」にインスピレーションを受けたようで、エズラが日本にいた経験がなかったら書けなかったと公言。
ちなみにうちの娘はこの曲も大好きで、完璧なタイミングで掛け合いの「フーッ!」を発します。。笑
9.Pravda
彼ららしいギターイントロ。これも印象的だよなぁ。間奏のリフも素晴らしい。ヴァンパイア・ウィークエンドのギターリフは口ずさめるのが凄い。
10.Hope
「I hope you let it go」
ラストに相応しい曲であり、歌詞。
なんとも美しく最高のラストソング。
ここに来てキャリア最高のアルバムを作り上げたヴァンパイア・ウィークエンド。アルバムを出すサイクルが長いためなかなか新譜を聴けないが、それもこれだけの作品を聴けるのであれば納得。
まぁ、これほどのアルバムを前に他に何を聴けっていうの?笑 って感じです。