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The Changの全アルバムをフィジカルで聴く
1995年。
国内音楽シーンのメインストリームでは、ミスチルの「Innocent World」、スピッツの「ロビンソン」など、実力ある良質なポップ・バンドの良い曲が売れ、元フリッパーズの小沢健二も素晴らしく文学的な1stアルバムから一転、アルバム「Life」で王子様へ変貌し、活躍の舞台をメインストリームへと移すことに成功した。また、ピークを迎えつつあった”渋谷系”と言われる、音楽ジャンルとしては実態の無いムーブメントにカテゴライズされていた、オリジナル・ラヴやコーネリアスも、それぞれに「風の歌を聴け」「the first question award」という素晴らしいアルバムを排出していた。そんな中、もっともっとオルタナティブな立ち位置からセールスはそれほどでもないが、良いアルバムをリリースしていたTokyo No.1 Soul Setや、Great3、サニーデイ・サービスのような素晴らしいバンドもいくつかあった。そんなバンドの一つが、The Chang(ザ・チャン)と言ってもよいだろうか。
The Changってどんなバンド?
ザ・チャンのデビューは95年。ベースの中沢と当初はギターだった石井を中心に、他のメンバーが加わり5人で結成された、ロック、ソウル、ファンク、ジャズなど、様々なジャンルの要素を兼ね備え、それをしっかりと邦ロックサウンドへと昇華させたバンド。1st、2ndともにプロデューサーは屋敷豪太。2024年の今聴いても、全く古びることのない普遍的な要素も兼ね備えたそのサウンドは一聴の価値あり。近年90年代のシティ・ポップとして、2ndシングル曲の「今日の雨はいい雨だ」が7インチのアナログレコードとして再発されるなど、わずかだが再評価された。
メンバー
石井マサユキ(Vo,Gt)
中沢一宏(Ba)
小川佐利(Key)
永野大輔(Dr)
浅野雅暢(A-Sax/Fl.)※1stアルバム発売後に脱退。
オリジナルアルバム
1. Day Off(1995)
2. Acton(1996)
1. Day Off(1995)
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躍動感ある写真はNicci Keller!によるもの。
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ロンドンレコーディングだったことがわかる。
SupervisorにKenji Jammerこと鈴木賢司氏の名も!
「Somethin' To Talk About 」やSoul II Soul、シネイド・オコナーの「Nothing Compares 2 U」など屋敷豪太氏のアルバムやソロワークが好きだった自分にとっては、世界で活躍するあの屋敷豪太がプロデュース!という事でまず持って期待値が高かった。
ただ正直なところ、一聴した感想としては、サウンドはドストライクなのにヴォーカルがなぁ…、だった。しかし、これが驚くほどあっという間にこの誰にも似ていない素朴な石井マサユキの歌声にこそ、The Changの最大の魅力を感じていた。
アルバム1曲目「春一番が吹いた日」はシングル曲。
フルートのイントロ、ギターのワウが特徴的なイントロ。疾走感とどこか郷愁的な、極めて和テイストなソウル・ファンク。石井さんのギターはソロまで耳に残る。
3曲目「RE-LAX」。
これライブで聴いてみたかった。セッションから生まれたようなファンキーな曲で各楽器が遊んでいる。
そしてここから、
4曲目の名曲「今日の雨はいい雨だ」への繋がり。最高だ。
忙しい毎日に追われて気持ちに余裕がなくなっている時、いつも聴くようにしている曲。30年近くも前の曲なのに、色褪せない。もっともっとしっかりと再評価されてくれないかな。
何がなんだか わからなくなるような
忙しい毎日は 今日で終わりだから
この雨はいい雨だ
どこにも出かけたくないぜ
5曲目の「Sad Song」もめちゃくちゃ好きだ。
こんな静かだけどファンキーな曲に切ない歌詞を乗せる、これぞチャンだ。
スバラシイ2人のために
悲しい唄をうたいたい
6曲目「でかけるべきだ」。
これを聴くとふら〜っと街歩きしながら、レコードを買いに行きたくなる。歌詞のまんまだ…(笑)。この後も良い曲が続き、アルバムラストはこれまた名曲。
「毎日を変えておくれ」
この曲は…泣ける。不器用な石井マサユキの歌声でこんなふうに歌われたら、たまらない。そしてこの曲のアンサンブルもとても好きだ。隙間の多い曲だが、一歩一歩、歩みを確かめるようなビートに絡む鍵盤とギターも刹那的でいい。The Changの凄さは、軽快な曲だけでなくこういったスロウな曲も聴かせられるところではないだろうか。この曲はぜひ、頭から聴いて欲しい。
あなたが いれば
うまくしゃべることも いらない
不器用でいい
コーヒーを オレがいれよう
もっともっと当時から売れても良かったと思う。そして、シティ・ポップなどリバイバルでブームが来ている今、彼等の独自性も再評価されたらなとも思う。何が足りなかったのか、アルバムを聴く限りでは足りないものなんて何もなく、運がなかったとしか思えない。本当にいいアルバムなのだ。
2. Acton(1996)
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ケースにバンド名&アルバムタイトルが印字されているので、換えが効かない!
割らないようにしないと…
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またしても、SupervisorにKenji Jammer。
1stリリース後、サックス&フルートの浅野氏が脱退したこともあり、1stのようにフルートやサックスが頻繁にヴォーカルメロディと絡むことはない。また、曲によってドラムが打ち込みのものもあり、1stに比べるとバンドサウンドのダイナミズムは薄いような印象を受ける。
アルバムは、「ジェットコースター」という曲名とは真逆の、静かで短い弾き語りから始まり、The Changでは珍しい作詞・石井、作曲・小川のコンビ(1stは全曲作詞作曲石井マサユキ)の「Round and Round」へと繋がり幕を開ける。力強い立ち上がりが印象的な良い曲だ。
そして、「君の恋人によろしく」「休日」と序盤に良い曲が続き、シングルカットの「日曜日だけ咲く花」へと。独特のサビと、The Changらしい曲。大好きな曲だ。
その後、「孤独のハイウェイ」「ワナかも」など、彼等ならではのファンク曲を挟み、ドラマチックな展開の曲、「意味のないもの」へと続く。彼らの曲・歌詞の特徴として、その日常性となんとも言えない虚無感があるが、これはその最もたる曲。
部屋に戻る ガラクタだらけの
君にはこんなもの 意味のないものさ
君にはとても 大事なことも
オレにはたいして どうでもいいことみたい
さまざまな意味のないものを かかえて
だから 陽気に生きている
2ndアルバムも全体的に良曲が多い、非常にクオリティの高いアルバムだと思うが、どこか寂しげな感じが漂う。アルバムの制作時に、すでにバンド消滅の兆しがあったのかもしれない。そんなことを思わせるアルバムだ。
たった2枚しか無いフルアルバム、30年近い時を経ても変わらず好きで聴き続けている。いつかしっかりとした形で再評価されると良い。なかなか中古でもフィジカルで見つけるのは大変かもしれないが、サブスクにも曲は上がっているので、よかったら聴いてみてください。