2019 best film
映画単体の記事をいくつか書こうと思っていたが、そうこうするうちに年末が近づいてきたので、年間のベストテンとしてまとめておく。
ちなみに記録のために記しておくと、今年の劇場鑑賞数は158本。そこから旧作上映などを差し引き、新作映画のみでカウントすると120本ほどになるのではないかと思う。多分人生で一番映画を見ているのだが、例えば12月は新作で鑑賞したのは2本のみ、ほかは名画座での劇場鑑賞であった。個人的には、今年はあまり豊作とは言えず(映画に限ったことではないが)、年末に向かっていくにつれ、新作を鑑賞する意欲が失われて行き、その結果、下半期の是枝裕和、周防正行、ケン・ローチの新作を見ていない始末だ。そういう人のベストだと思ってみていただければ幸いである。以下ランキング。
1.ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
2.マリッジ・ストーリー
3.スパイダーマン/スパイダーバース
4.7月の物語
5.ルディ・レイ・ムーア
6.さらば愛しきアウトロー
7.バーニング 劇場版
8.ゴーストランドの惨劇
9.アマンダと僕
10.スパイダーマン ファーフロムホーム
1は男二人+女一人、車と日常、そして映画の映画。おそらくここ10年ほどの作品でも、最も映画で見たいものを見せてもらった作品のひとつ。3時間が永遠にも感じたし短くも感じた。この矛盾を感じれる幸福。場合によってはタランティーノベストな可能性もあるが、やっぱ美しすぎる犯罪映画『ジャッキーブラウン』とあまりに画面が豊かなホラー『デスプルーフ』が双璧な気も。今年の中では圧倒的。
2は単純に今年最も優れた演技、ショット、編集、脚本。視覚的な断絶のイメージと、視線を捉えたショットでのつながりの連鎖。人を傷つける武器としての言葉の残酷性を捉えながらも、綴られた言葉は誰かの魂を救うものとしても機能する。結婚生活、恋愛関係以上に、対人コミュニケーションの物語。「今日は泣けると思ったのに」からのヨハンソンの涙に泣く。出そうと思う感情は、出そうと思って出せるものではないという当たり前のような真実を、真正面に辛辣に描く。
3は映像表現、物語表現の臨界点であり限界。ヒップホップカルチャーとの距離感も含め、絶妙なバランスである。主人公の切実な葛藤は、今年で唯一フィクションに感情移入させられた。最早アート映画のようなアニメーション。フィクション論の映画でもあるあたりは、『レゴムービー』も想起させる。現実に物語が必要な意義。
4はシンプルで繊細な語り口が染みる素晴らしきコメディ。ロマンティックをぎりぎりで回避する作劇の素晴らしさ。ぶっちゃけ同日に見た同監督の『女っ気なし』のあまりの切実さと喜劇の同居、切なく美しいバカンス映画っぷりのほうにやられたのだが、タイトさも込みで今年基準だと余裕で上のほう。ギヨーム・ブラックという素晴らしい作家を知れた喜び。
5はnetflixでの公開になった、クレイグ・ブリュワー新作。映画がどれほど面白いものかということを見せつけられる2時間。役者エディ・マーフィーの復活。ラストの映画館での素敵なやり取りにはどうしても泣けて仕方がなかったし、そこでの継承こそが、すごくヒップホップ的。同監督の傑作『ハッスル&フロウ』の裏表に位置する。2000年代以降のアメリカ映画といえば、まさにこういう映画だとも思う。
6は正直老境映画として『アイリッシュマン』、『運び屋』とかなり迷ったが、ベテランのローテンポな演出より、新人監督の軽やかさをとった次第。前作『ア・ゴースト・ストーリー』の傑作っぷりには負けるが、それでも編集の妙や、闇使いの妙など。物語を語る部分が細部に宿っている感じは、あまりに映画的でチャーミング。終盤のカーチェイス→馬の映画史遡りにも感動した。
7は村上春樹による原作のさらにその先を描いた傑作。言えばこれも男2人+女1人ものでもある。韓国の田舎の風景から、街の風景まで隅々映した映画としてもいい。日本の中目黒あたりと被ってるような、街の風景。ミステリーというよりも、何よりも痛々しい青春映画である。マジックアワーを背景に踊るヒロインの尋常じゃない美しさ。
8は初めて乗れたパスカル・ロジェ作品。精神的なダメージだけではなく、身体的なダメージを徹底的に描きこむ。姉妹が屋敷から森を抜けるシークエンスの解放感と、そこからさらに突き落とす容赦なさ。物語構造は今敏イズムを感じる。ラストの切れ味も好き。
9は反復の映画。前半の日常が、映画後半に反芻して苦みが増す。丁寧なドラマ。自転車映画でもある。様々な人々の間を行き来することで、一瞬で悲劇に彩られた人たちの人生、少女の人生を繋ぎ止めていく。『グッバイゴダール』で散々だったステイシー・マーティンが素晴らしい。ワインを戻す仕草に感じられるチャーム。どうでもいいが今年やたらと映画の中にプレスリーが登場した気も。レコードで踊る母娘のシーンを反芻しまた泣く。
10はあれほどの作品の後にMCUが放った青春映画の傑作。好きな人と横並びで夜道を歩く緊張。観光映画としても冴えている(このタイミングでスパイダーマンの新作を"観光映画”としてしまうのも)。中盤のどんでん返しからはイマジネーションの爆発。真実を見極めることの戦いはスパイダーマン映画としても新鮮。とても楽しい娯楽映画。
このような感じになったが正直なところを言うと今年どの点から見ても文句が立たないのは上位3本のみ。3と4の間には割と差がある。純粋に映画としての面白さ、豊かさを優先させた結果、この順位に。スパイダーマン映画が2本。そして、まさかの日本映画が一つも入らない事態。今年日本映画でベスト級だと思えたのは三宅唱『ワイルドツアー』のみ。それでも同監督の前作のほうが勝ってる始末だ。とにかく今年の新作の盛り上がりのなさは、10年代の終焉に立ち会っている実感を感じなくもないが、そもそも10年代の最後を飾るのにふさわしいと思われるいくつかの外国映画は、来年に公開が持ち越し、どころかまだ公開目途すら立っていないものもある状態だ。故にこのような妥協性のあるリストになってしまうのも仕方のないように思える。
世間的に話題のものだと『アベンジャーズ エンドゲーム』はあまりに1本の映画として、前半の面白さに比べ、後半の消化試合感がぬぐえずベストには入れなかった(それでもラストなんかは好きなのだが)。あと、テン年代ベストに推す声もちらほらある『ジョーカー』は自分はあまり乗れていない。これを見る限りだと、映画という性質をより理解して映画を撮っているのはトッド・フィリップスよりも、かつて同監督の『ハングオーバー』シリーズで主役を張っていたブラッドリー・クーパーのほうなのではないかという気がする(『アリー/スター誕生』傑作!)。
あと今年の日本映画で言うと、引き続き三宅唱、そして石井裕也、真利子哲也、石川慶、中川龍太郎の新作は、今後も追い続けてみたいと思わせてくれた。瀬々敬久の新作も流石の強度で、李相日などとは比べ物にならない演出力を見せつけていた。しかしいづれもベストではない。
もう一つ書いておくと、昨日ほどに先行公開で見たポン・ジュノ新作『パラサイト 半地下の家族』は期待以上に素晴らしく、映画的運動、纏まり方、スリルさの点で、ここに組み込むのなら圧倒的にナンバーワンだが、そうは言っても、今年中の一般公開ではないので外させてもらった。ある種の特別枠として言及しておきたい。
今年の振りかえりとしてはこのような感じにしておく。年明けの一月中には、10年代ベスト100を出せればなと思っているが、なんせまだ見ていない作品群が山のようにあるので、まずそこを消化してということになるだろう。では。