火星の民意
その日も静かだった。恐らく明日もそうであるように。
3ヶ月前に発令された地球規模の警報、「隕石衝突警報」によって、地球は少しずつ静かになっていった。人々は火星へ移住し、現地で開拓を進めるべく、ちゃくちゃくと準備、移住していった。
企業が提示する移住費用は移動費、住宅等コミコミで1000万円。引越しして一軒家を持てるなら、それくらいは出せるだろう。しかし、困ったことにローンが組めない。お金の価値が揺らいでいる今、信用などその場限りのものでしかなかった。だから、多くの国民は移住を諦めるしかなかった。
僕はそれを遠くから見ていた。少しずつ、それは影を落とし、文字通り生活を凍らせていく。作物に光が当たらなくなり、酸素は薄くなっていく。水は凍り、飢えて死ぬ者も出そうな勢いだ。でも、僕には関係ないようだった。
移住を決める多くの人は、まさに富裕層と呼ばれるような人達である。その中でも特に早かったのが、政治家だった。彼らは、向こうで政府を作る準備を進めなければならないなどと言い、早いものは3日で向こうへ移住する者もいた。早ければ早いほど高い地位を保証されるらしいとの予測で動いたためだ。
僕の見える範囲で、移住しようとするものはいなかった。もう地球から出る財力もなかったのだ。それだけ、どんな国も不景気だった。
「ごめんね、地球にいることしかできなくて」
「ううん、いいの。あなたといれればそれでいい」
恋人は囁く。何も無くなる星ほど、有るものは輝いて見えた。
いよいよ予測された日は近付く。スピードをあげる鉄とニッケルの塊は、いよいよ大気圏に突入するようだ。
ゴゴゴゴ....
太陽の方向から来た。しかし、大気圏に入ることはなかった。すこし軌道を外れた。それはなんとなくだったかもしれないけど、地球にぶつかることは無かった。地球では安堵の笑みを浮かべた人が、いつも通りの日常を送ろうと、またルーチンを始めた。
それたことで困ったのは、火星の人々だった。はっきりと迫っているのがわかった。しかも、少し地球の大気の影響を受け、早くなっていた。
地球をすぎた3日後、僕は火星に同化するように、衝突した。
隕石、火星に衝突
今日未明、火星に隕石が衝突した。一昨日の午後に地球へぶつかると見られていたが、軌道から逸れたことで、火星へ衝突した。死亡者は主に年収3000万円以上の富裕層で、一部はコールドスリープで宇宙へ漂っている人もいるとのことである。(火星移住者一覧は16面へ)
南ア指導者、フランスへ
指導者が軒並み火星に行ってしまい、指導者の居なくなったフランスでは、南アフリカからの難民を受け入れることを条件に大統領統治を受けることとなった。一部層からは批判が出ているが、民衆は比較的安定した様子である。南アフリカは「虐げていた者はもういない。民意を第一にし、共に強い国を目指していきたい」と声明を出した。今後の方針として、他国との連携を強め、ユーロ圏内での共存を目指していくということだ。
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