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Photo by
tantam
昨年の晩夏の記憶
昨年の晩夏は、日本で過ごした。
いつまでも気配のない秋の訪れを待ち侘びながら、実家で過ごした数ヶ月。
実家にいる、大切な愛犬は、この夏に15歳を迎えた。小型犬なので、人間でいうと76歳。
もう立派なお爺ちゃんだ。
一緒に過ごしたわずか数ヶ月の間に、老いは確実に目に見えるようになった。
小さい頃から食いしん坊で、ソファで寝ていても、耳だけがぴーんと立ち、人間がキッチンに立つと、すっとんで追いかけてきた。
毎日の散歩は好きじゃないけど、リビングでするボール遊びは好きで、芸達者に育ててしまった故に、いつもご褒美をねだりにきた。
身体の一部をわたしの身体にぴたっと寄せながら寝るのが好きで、(寝相の悪いわたしに何度も起こされながらも、)朝起きると布団のど真ん中を陣取って寝ていた。
そんな彼が、大好きなみかんの皮を剥いていても、りんごのしゃきしゃき音を立てていても、さつまいもを蒸した匂いにも、素知らぬ顔でぐっすり。
目が見えなくなり、ボールを投げてもボールが飛んで行った先がわからなくなった。
リビングの陽のあたるポカポカとした寝床で、一日の大半を、寝て過ごすようになった。
大好きな、大好きな存在。
愛おしい、目に入れても痛くない存在。
わたしよりも先に老いないで。でも、きっとわたしに置いていかれたら寂しがってわたしを探すから、やっぱり先に老いてくれて良いよ。最後まで幸せに毎日を過ごしてくれたら良い。
そんなことを思っていた。
もう一度生まれ変わっても、わたしの元へ来て。
姿形変えて良いよ、犬じゃなくてもいい。
たくさん、たくさんの幸せをくれてありがとう。
わたしの人生の宝物。