![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32116642/rectangle_large_type_2_14c568b2475a24c2534b9f8937fd0950.jpg?width=1200)
66、70日目 - さすがベテランさん
(前回の記事)
66日目
初公判から一夜が明けた。さすがに一晩寝ると、落ち着きを取り戻す。
昨夜は寝る前に、加藤氏が「検察の嫌がらせだ」と憤っていたが、全く持って同感である。裁判の迅速化などと言いながら、何をダラダラやっているのか。僕のようなチンケな犯罪者は、とっとと出してしまえばよいのである。
中国人のケンさんが去る。今日が判決公判なのだが、99%、その足で東京入管に移送されるという事で、荷物をまとめて出て行った。
またしても留置場の人気者がいなくなり、寂しくなる。特に最近は、ここの空気が何となくギスギスしているので、こういう人がいなくなるのは痛手である。
昨日は、看守も声を揃えて「寂しくなるなぁ」「もっといてよ」と、別れを惜しんでいた。夜にはひさびさに、盛大な「送別会」も執り行われたのであった。
朝、トイレに入っていると、窓をドンドンと叩く者がある。タイ人のボーイ君である。
キバリながら振り返ると、窓に分厚い本を押し付けて来る。『タイ語日本語辞典』である。入ってすぐに彼女に頼んでいたのだが、なかなか入手できなかったらしく、ようやく入ったのであった。ボーイ君、満面の笑み。それはいいのだが、当方、下半身むき出しである。「わかったから、あっち行け」と、追い払う。
そのボーイ君、突然九房に移房となる。せっかく仲良くなっていたのに、唯一のまっとうな人だったのに、残念である。
70日目
昨夜0時半、寝ているところを看守に「すまないねぇ」と、突然起こされる。新たに1人入って来ると言う。僕たち3人は睡眠薬を服用して熟睡していたのだが、なんとか寝ぼけ眼でもぞもぞと布団を敷き直し、新人を迎え入れる。
朝目覚めて、改めてご対面。
さて、想像していただきたい。年の頃なら40と5、6。小柄でやや猫背、金ツボまなこに出っ歯の乱杭歯、青々としたヒゲ剃りあとがまぁるく口の周りを囲んでいる、そお、昭和の4コママンガに出て来る、トラディショナルな「コソ泥」像そのままの人なのであった。しかし、ナメてはいけない。窃盗前科11犯の大ベテランなのである。
このコソ泥氏、子供の頃から人生の大半は塀の中だったと言う。いきおい、これまでの人たちとは違い、堂々としている。「だってよォ、窓が開いてりゃ、ちょいと入って見んべ。んでもってよォ、見たらサイフが有んだもん。持ってかねーワケがねぇべ」
ここから、コソ泥氏の妙な「サボタージュ(?)」が始まった。
留置場では、朝7時の起床と同時に、自分で布団を押し入れまで持って行かねばならない。彼はまず、この作業の拒否から始めたのである。朝起きるなり、「気分が悪い」と、起床を拒否。布団は敷きっぱなしで、掃除も拒否。看守も、本人の体調申告を否定する訳にもいかず、放っておかざるを得ない。当然ウソなので、食事や運動には嬉々として起き出してくる。食ったあとは、布団の上にあぐらをかき、ご機嫌でおしゃべりを楽しむ。見かねた看守が「もう直っただろ」とやって来ると、またしても「あ、アタマいてぇ」
さすが、ベテランさんである。
※この手記は2003年に執筆されました。文中の人物名はすべて仮名です。
いいなと思ったら応援しよう!
![酔生夢死](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/25909038/profile_3f5873da984cd89ace793cacdee4c5b9.jpg?width=600&crop=1:1,smart)