いつか三線の花を、咲かせるように【7/30横浜戦】
ほしくんが、マウンドに立つのを、民謡居酒屋の「郷家」の席に座り、スマホで見ていた。私は、むすめを呼ぶ。私の膝の上で、むすめがほしくんを見つめる。粘られた末に、ほしくんは、佐野をレフトフライに打ち取った。
1つのアウトで、私は泣きたくなる。おかえり、おかえりほしくん、と思う。
ほしくんは、続くソトを三振に打ち取り、筒香をセンターフライに打ち取った。私の表情を見たゆずこが、「逆転したの!?」と聞く。「ううん、ほしくんが三者凡退に打ち取った」と、私は答える。でもこれは、実質逆転したようなものだ。
「郷家」では、今日誕生日を迎える彼女のために、彼がサプライズケーキをプレゼントしていた。となりの私たちは、ハッピーバースデーを歌った。宮古島でお誕生日のお祝いなんて、最高じゃないか、と思いながら。幸せになってね、と、祈りながら。
後ろの席では、昨日プロポーズしました!という二人が、幸せそうに笑っていた。宮古島でプロポーズなんて最高じゃないか、と、私はまた思う。
それぞれの人生が、この島で少し、重なりゆく。
「郷家」では、ねえねが、三線の花を歌う。
「喜びも悲しみも いつの日か唄えるなら
この島の土の中 秋に泣き冬に耐え
春に咲く三線の花」と。
ほしくんは、オープン戦でとてつもなく打たれまくった。それは、オープン戦とはいえ、なかなかにヘビーな試合だった。むすめは、次がんばればいいから、と、小さくつぶやいた。
ほしくんはきっと、いろんなプレッシャーと戦い続けた。そのマウンドで、もう一度、打者と向き合うために。ストレートを、しっかり投げ込むために。戻ってきたほしくんの姿は、それはもう、「秋に泣き冬に耐え春に咲く三線の花」だった。
息子は「ほんとに三振じゃん!ほしくん三振の花じゃん!」と、わかるようなわからないようなことを言う。つい私も「そうだねえそうだねえ」と答える。
むすめは、とても嬉しそうに、スマホの画面に映る小さなほしくんをじっと見つめていた。3アウトだよ!と言うと、小さく拍手した。
きっと同じようにいろんな思いを抱え、プレッシャーと戦い続けながら、寺島くんはその次の回のマウンドに立った。
寺島くんは、2失点をし、3アウトを取れずにマウンドを降りた。そこにはまだまだ、厳しい現実が待ち受けていた。あまりに大きなものを、たぶん寺島くんは抱えている。それと戦い続けることは、きっととてもこわいことだ。
でもとにかく、そこに立つことはできた。そこに戻ってくることができた。それはきっとまだ、始まりなのだ。いつかまた、「三線の花」を咲かせることが、できるように。
どれだけ打たれても、アウトが取れなくても、勝てなくても、でもそこで投げ続けなきゃいけないというのは、きっと見ているこちらが思う以上にきついことだ。期待というプレッシャーが、大きければ大きいほどに。
それでもそこに立ち、もがきながらも投げ続ける姿を、応援し続けていたいなと思う。少しずつ、前進していけると信じていたいなと思う。
宮古島の日々も、あと少しだ。