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鬼ヶ島での修行を見ながら 【11/16松山秋季キャンプ】
バンっと、ミットのなる音が響く。知らない女性アーティストの曲が流れている。やちくんがはらじゅりに「ナイスじゅり!」と言う(極上)。空は青く、秋の日差しは強い。そして、久々に見るはらじゅりや上田の姿に、なぜかほっとする。遠く松山の地で、暑かった東京の夏の名残のような、そんな空気を感じる。
だけどもちろんここは神宮でも平和な戸田でもない。鬼ヶ島の松山だ。
どんな恐ろしい場所なのだろう。と私は思っていた。そこは古い映画やドラマのような、スポ根の名残みたいな空気が流れているのではなかろうか、と。
だけど実際に松山へ来てみると、思いのほか選手たちは真剣だった。・・いや、当たり前なのだけれど。
ズボンを真っ黒にしたなおみちの汗が落ちるのが見える。午前の練習を終えたやちくんのズボンのひざが破れている。午後に履き替えたらしきズボンが、夕方にはまた真っ黒になっている。よく見たら、上田のズボンだって破れている。
朝から夕方まで、毎日毎日毎日、いったい何のためにそんなに練習をするんだろう。と私はつい思う。なんで、そんなに頑張れるんだ。
そこでふと、武内さんを思い出す。
引退会見で武内さんは、「うまくなりたいという気持ちは変わらないけど、気持ちの方がきつかった。」と言った。
中学生の頃、ただひたすらに部活をやっていた時のまま、私はもうとっくの昔に置き忘れてきたあの日の気持ちのまま、選手たちは大人になるのだ。「野球がうまくなりたい」という気持ちを、いつまでも、いつまでも、ユニフォームを脱ぐその日まで、持ち続けたまま。(たぶんだけど)
そんなにがんばれるのは、そこまで練習をするのは、鬼たちがこわいからじゃなくて、「野球がうまくなりたい」からなのだろう。(たぶんだけど)
「こんな姿見ちゃったら、もう神宮で軽率にぶつぶつ文句言えないよね(たぶんだけど)」と私はオットに言う。
そして、鬼たちも鬼たちで、なんというか、いたって、真剣であった(あたりまえだごめんなさい)
みやさまは、バッティング練習をする塩見くんにお手本をみせながら、ずっとフォームについて何かを教えている。河田さんは、上田とおっくんと塩見に、外野守備の走り方をえらいわかりやすく教えている。(さすがに上田がめちゃくちゃうまかった。というか、上田がなんというかえらく、できる人に見える)
そして小川さんは、そんな様子を朝から夕方まで立ちっぱなしでずっと見ている。
若い、自分の何倍も体力がある選手たちに、なにかを「教える」ことができるというのはすごいことだよなと改めて思う。ずっとノックを打ち続ける体力という意味でもそうだけれど、やっぱり何かを教えられるようになるためには、それ相応の経験と、積み重ねたものがなきゃできない。自慢じゃないけど私は誰かに教えられることなんて、何一つ持っていない。
プロに教えることのできるプロってすごいよな、と改めて思う。
それはきっと、みやさまや河田さんやタクローさんや小川さんが、今のなおみちやたいしや塩見くんやおっくんと同じように、練習し続けて、鍛え続けてきた経験があるからなのだろう。「うまくなりたい」と、プロになってからもなお、思い続けながら。
引き上げていくみやさまとたいしが、真剣な顔をして何か話していた。またたいしが何か怒られてるよと思いながら見ていると、たいしが言ったことに対してみやさまが顔をくしゃくしゃにして笑った。たいしも一緒に楽しそうに笑った。
そうだよなあ、と、私はまた思う。こうして笑いあう時間があるのだ。だから、誰もがたぶん、走り続けることができるのだ。
努力が実らないことなんて山のようにある。だけど、やったことが報われる保証はどこにもないけれど、やらないことには前には進めない。
ズボンをまっくろにする選手たちを見ながら、私もまだまだがんばらねばな、と、思う。まあ私の場合はみやさまにカツ入れてもらった方が「こわくて」がんばれるかもしれないけども。
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