見出し画像

目の前の不完全な景色は、不完全な私の投影かもしれない【7/26広島戦●】

カレー屋さんは、15時にしまっていた。

今日は美味しいカレーをテイクアウトをして、夕日を見ながら晩ご飯にしよう。と、決めていた私たちはしばし唖然とした。

グーグルマップによると、開店時間は11時となっている。なんと、4時間しか開いていない。

と、まあ、この島にいるとこんなことがしょちゅうある。お気に入りのおそばやさんは、週末はもちろん、連休にも閉まってしまう。書き入れ時じゃないかと思うのだけれど、そんなもの多分関係ない。そもそも連休も週末も、こちらの都合といえばこちらの都合だ。

そう、結局その不完全さは、私が作り出しているものでもある。

そのテイクアウトのカレーやさんが15時に閉まるということを、もっと早くに調べて分かっていれば、それまでに買いに行き、夕日を見ながらカレーを食べることだってできた。でも私たちはもちろん(もちろんと言える)そんな計画性は持ち合わせていない。

自分の不完全さはもしかするといつも、目の前の景色に投影されるのかもしれない。

***
ヤクルトは、今日も負けた。私はまたそれを口にする。この宇宙の真理みたいな言葉を。

先発が今日だって打たれ、元気に6失点をする。後半になり、またもや失点を重ねる。気づけば今日も2桁失点である。18本のヒットを許し、2つのエラーをし、12点の失点をした。なかなかに豪快な負けである。「こういう日もある」と、いつもそう言って慰めるけれども「こういう日」があまりに多いことだってまあ、わかっている。

だけどその、何度もなんども同じ相手に豪快に負けるそのチームを、雨の中応援する人がいるにもかかわらず負け続けるそのチームを、好きになったのは、私なのだ。

だからふと思う。この不完全なチームは、私の不完全さと同じなのかもしれない、と。

完璧じゃないこのチームを、好きになったのは、完璧じゃない私自身だ。

たぶん私だって、開始早々6失点したり、最後の最後にダメ押しみたいに6失点したり、エラーを重ねたり、勝てる試合を落としたり、粘らなきゃいけない場面で粘れなかったりしている。カレー屋さんが閉まっていたのは、私がその閉店時間を調べなかったからだ。

***
カレーやさんにフラれた私たちは、お昼にピザ屋さんの前を通ったことを思い出し、行ってみることにする。

通ったことのない道を選んで歩くと、そこはトトロの森みたいな景色が広がっている。全然ばえないね、と笑いながら、神様がいそうなその道を歩く。

ピザ屋さんはその場でピザを焼いてくれた。「カリカリの生地なので一枚くらいペロリと食べられちゃいますよ」と、釜作業で鍛えられたのであろう、かっこいいシュッとした腕の、ショートカットの女性が教えてくれる。

ピザが焼き上がるまでにはもちろん時間がかかり、私たちは小走りでホテルに戻る。夕日は今にも沈みそうな色をしている。日没に間に合わないかもしれない。いつだって無計画なのだ。そう、完璧には程遠い。

急いで部屋に子どもたちを迎えに行き、そのまま屋上に登る。

屋上には、私たちが走っていたことなんて全くお構いなしのような顔をして、美しいオレンジ色の空が広がっていた。

たくさん走った後、オレンジ色の中食べるピザは、とてもおいしかった。もしかしたらその状況で食べるピザは、ピザーラでもなんでもおいしかったのかもしれない。でもその時私は、今年食べたピザの中で一番おいしいな、と思った。

***
完璧じゃない私は食べたかったカレーにたどり着けない。この島のカレー屋さんは15時に閉まってしまう。旅はいつもいつだって、思い通りにいかない。

「完璧」なものはたぶん、この島にはない。「完璧」な旅なんてものが、存在しないのと同じように。「完璧」なチームが、ないように。

でも完璧じゃない世界の中で、私たちは偶然つかむ幸福のようなものを、見つけ出す。偶然見つけたおいしいピザのような。

ヤクルトは今日も12失点をする。2つのエラーをする。雨の中で負ける。ファンだって大きなため息をつく。みんな最後まで試合なんて見ていられない。途中で帰る人だっている。

だけどもちろん、またヤクルトが勝つ日だってくる。このチームが好きでよかったな、ときっとまた思う。

不完全な島に、何度も来るように、不完全なチームを、いつまでも応援しているのだ。それはもしかすると、不完全な自分に送るエールなのかもしれない。

完璧じゃなくていいよ、と。不完全なものを愛することはたぶんとても、健全な幸福なのだ。


いいなと思ったら応援しよう!

虫明 麻衣(Mai Mushiake)
ありがとうございます…! いただいたサポートは、ヤクルトスワローズへのお布施になります! いつも読んでいただき、ありがとうございます!