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最初から「ノーノー」を目指すのではなく、小さな達成を積み重ねていく 【3/13オープン戦 ロッテ○】

「おまえがきめろ!タイセイ!」と、レフトスタンドから声が響く。出ましたルーキー頼り!と、思っていると、タイセイくんは本当に、本当に、「決めた」。おいおいそれは希望すぎるよいけめん、と思いながら私はウーロンハイを飲んだ。

昨日とはうって変わって風が冷たく強く(強いなんてもんじゃない、強すぎる)、身体は芯から冷えた。私は、観戦用のポーチの奥に入っていたカイロを取り出した。そうだ、このカイロは去CS用にポーチに入れていたんだった。使うことなくあっという間に終わったけど。と、思い出さなくて良いことを思い出す。

ライアンは序盤から、さくさくと打者を打ち取ってゆく。カイロのおかげでCSを思い出した私は、ライアン、これはノーノーやっちゃうのでは?と、思った。

最近私は、一回を三者凡退で抑えると、「ノーノーいけるんじゃないの!」と思うくせがついてしまっている。(逆もまた然りで、一回を三者凡退に抑えられると、「はいノーノー・・・」と、思うくせもついている)

するとライアンは、三回裏、先頭打者に早速ヒットを打たれる。「ああノーノーが…」と思っていると、続く田村にもヒットを打たれた。「ああ…でも田村はサムライでじゅりがたいへんお世話になったから…」とよくわからないなぐさめをする。

さらに送りバントで一死2,3塁になり、一点は仕方ないな…と思っているところで、ライアンは続く二人をしっかり押さえて、無失点で乗り切った。

そうだった、ライアンの素晴らしいところは、ピンチを招かないのではなくて、招いたピンチをきちんと乗り切るところだ。と、私は去年50回くらい思ったことをまた思い出した。

目標は、最初から高すぎる、というか、「間口が狭すぎる」ところに設定しすぎると良くないな、と、ビールを飲みながら私は思う。

つまり、ピッチャーが全員「今日はノーノーを達成しよう!」と思いながらマウンドに立つのはあまりに非現実的すぎるし、あまりに視野が狭いのだ。「志」としては良いかもしれないけれど、それを「目標」にしちゃいけない。ヒット1本を打たれた時点でその目標が達成できないとなってしまうと、そのあとをしのぐことなんてできなくなってしまうから。

ゲームは日々、イニング毎、刻々と変わる。勝っているのか、負けているのか。ランナーが一塁にいるのか、三塁にいるのか。ノーアウトなのか、ツーアウトなのか。もちろんその都度、投げる球は変わってくる。それに臨機応変に対応していかなきゃいけない。「一本もヒットを打たれないこと」を目標にしてしまうと、ランナーが三塁にいる時の想定ができなくなってしまう。

…いや、勝手に誰かのノーノーを見たがっているのは(いつかの傷を癒すため)私であり、もちろんライアンや松本くんはそんなことは考えていない。その都度、その場面に必要な投球をしてゆく。当たり前だ。

当たり前なのだけれど、私はまた、そうだよなあ、何事も、現時的なその時々の目標を見失っちゃいけないな、と、学んでいた。ここのところの私はだいたいの物事を野球から学んでいる。

しかしまあそのあとライアンは6回裏に5失点を許した。真下のベンチにいる小川さんとみやさまは、微動だにせずじっとライアンの投球を見つめていた。オープン戦だもんな、代えないんだな、がんばれライアン…と、私は全く氷の溶けないウーロンハイを飲んだ。

もう何時間も見ていたような長いイニングだった。でもライアンは冷静な顔で松本くんと話しながら、ベンチに帰ってきた。そうだ、だってライアンはノーノーを目標にしていたわけじゃないのだから、と、私は当たり前のことをまた思った。

そして、試合は冒頭に戻る。こりゃ厳しいのかな今日は、と、思っていた私の前で、ヤングスワローズたちはまたチャンスを作り、タイセイくんは粘りに粘ったあと、勝ち越しのタイムリーツーベースを放った。

きっと、「与えられた場面でアピールする」ことが若手たちの今一番の目標だ。ノーノーすることでも、もんのすごいホームランを打つことでもない。

もしかするとそれはバントをきっちり決めることかもしれない。積極的に次の塁を狙うことかもしれない。小さくてもそれがいつか、大きな結果につながっていくのだ。

そうやって貪欲に、でも謙虚に、追い求めた個々の目標が、その達成が積み重なって、いつか、もう本当にいつかで良いから、目の前で胴上げを見ることができるといいなと、少し思う。もちろんそれが叶わなくたって、私はきっと神宮に座ってビールを飲むのだけれど。

開幕まであと少し。今年もたくさん良い試合が見られますように。


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虫明 麻衣(Mai Mushiake)
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