令和6年司法試験 商法 再現答案

令和6年司法試験 民事系第2問(商法) 再現答案
作成日 2024年7月19日、22日
構成35分 作成85分
分量7.1枚

設問1 
第1 小問1
1(1)Dは監査役であり、取締役の違法行為の差し止め請求(会社法385条、以下法名省略)や、事業・財産調査権(381条2項)等の権限を有する。しかし、本件臨時総会1は少数株主乙社が自ら招集したものである(297条1項)ところ、会社法上監査役がこれを差し止めることができる旨の規定はない。385条も、あくまで取締役の違法行為を差し止めるものであって、株主の行為の差し止めではないから、直接適用することはできない。
(2)ア では、385条を類推適用することで本件臨時総会1を差し止めることはできないか。
イ 会社法は監査役の役割を取締役の職務執行の監督と規定し(381条1項)、それを実現するために事業報告の求め・財産調査権(同条2項)、取締役会への出席義務と取締役の違法行為の報告(383条1項、382条)、総会への違法行為の報告(384条)、取締役の違法行為の差し止め(385条)を規定している。これらはあくまで取締役会に対するものであって株主の行為に対しては何ら監査役は権限を行使できないとも思える。
 しかし、本来総会の招集は取締役の権限であり(296条3項)、少数株主による総会招集は取締役が招集をしなかった等の一定の事情の場合に(297条4項)、取締役の代わりに裁判所の許可を得て自ら招集するものである。つまり取締役の権限を代わりに行使するものであって、実質は取締役の行為とみることができる。また、監査役の上述の権限は図利心理役の地位の重要性に鑑み、その職務を監督することで会社に損害が生じるのを防ぐことにあるところ、少数株主が違法に臨時総会を開催する場合も会社に損害が生じ得るため、これを防ぐ必要があるし、監査役にそれを傍観させる道理もない。たしかに少数株株主による総会招集は、少数株主の権利を主張するためのものとして重要な権利であるが、法令・定款に違反してはならないのは当然であり、違反するものは要保護性が下がるので、差止めを認めることが相当性を欠くとは言えない。
ウ 以上より、本件の場合に385条を類推適用し、監査役はこれを差し止めることができる。
2 Dは本件臨時総会1を差し止めることができる。
第2 小問2
1 Eとしては本件総会決議取消の訴えにおいて、乙社が招集手続きで本件書面を送ったことは利益供与(120条1項)違反という手続きの法令違反(831条1項1号)がある、と主張することが考えられる。
2(1)ア 乙社は甲社の株主であって、利益供与の主体である「株式会社」ではないとも思える。しかし、120条の趣旨は財産上の利益を他社に分配することによって株主の権利行使を歪めることを防止し、もって会社の健全な運営を実現することにある。本件のような招集株主が自ら総会を開催する場合、そこでの総会決議は会社の意思決定になるのであるから、その招集者たる株主が、他の株主の議決権行使に際して、財産上の利益を供与して自己の望む票を投じさせるよう誘導させることは会社の健全な運営を害する。また、乙社もまた株式会社であることに変わりない。以上からすれば株主たる会社が自ら総会を招集する場合においても、利益供与の会社運営の健全という趣旨は及ぶというべきであり、乙社は利益供与の主体である「株式会社」に当たる。
イ 乙社が招集手続きに際して送った本件書面において、賛成票を投じた場合1000円相当の商品券を贈呈する旨記載し、実際に乙社は、本件各議題についての乙社提案の各議案のいずれにも賛成した甲社の株主全員に対し、一人当たり1000円相当の商品券を送付している。この行為は1000円相当の商品券という「財産上の利益」を「供与」したといえる。
ウ 上記供与は無償で行われていることから、「株主の権利の行使に関し」てなされたものと推定される(2項)。本件各書面は、乙社提案議案のすべてに賛成した者に1000円分の商品券を与えるというものであって、議決権という株主の権利の行使に影響を与えるものである。よって、上記推定を覆す事情はなく、「株主の権利の行使に関し」なされたといえる。
(2)ア もっとも、あらゆる利益供与行為が許されないわけではなく、株主の積極的な総会への参加を促し、審理を活発化させるために、一定のインセンティブを付与することも許されるべきである。特に、本件のような少数株主による総会開催は、少数株主の権利を保護する側面もあり、より積極的な株主の参加が期待されているといえる。よって、形式的には利益供与に当たっても、違法とならない場合もあり得ると解すべきである。
イ では、いかなる場合に利益供与が許されるのか。
 この点、会社が総会を開催するに際し、500円のQUOカードを提供した上で、議決権行使を当該会社に委任するよう依頼した事件において、判例は、①株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的に基づき供与され、②供与額が社会通念上許容される相当な範囲のものであり、③その総額も会社の財産的基礎の影響を及ぼさないものであるときは、許容されるとしている。
 本件は1000円の商品券を提供した上で賛成票を投じるよう誘導するものであり、事案に類似性があるので、判例の射程は基本的に及ぶと考えられる。一方で上記判例は供与の主体が会社であるのに対し、本件は株主であるから、会社の財産的基盤が崩されるのを防ぐことを目的とした要件③は本件の場合には妥当しないというべきである。
 よって、上記要件のうち①と②を満たす場合には、利益供与も適法になると解する。
ウ まず、乙社が他の株主に供与したのは1000円の商品券である。1000円という額はそれほど高額ではないし、また現金という直接的な方法ではなく、商品券を郵送で贈呈するという間接的な方法を用いている。このことからすれば、供与額は相当といえる範囲にとどまっているといえる(②)。
 次に①について。本件書面は、本件臨時総会1の招集通知とともに送付され、「議決権の行使のお願い」と書かれていた。そして、乙社提案の各議案のいずれにも賛成した者に1000円の商品を贈呈すること、全ての議案について同封の議決権行使書面の『賛』欄に○を付けて返送することが書かれている。一つでも反対すれば商品券がもらえなくなってしまうのであって、すべての議案に賛成するよう誘導する効果を持つ。甲社のような公開会社では、株主数も多く、総会決議に参加する意欲の少ない株主も多数いることが想定されるところ、本行為によってそれらの者も商品券ほしさから賛成票を投じてしまう恐れが生じる。
そして、実際に本件臨時総会1では例年の定時総会より出席者が30%も大幅上昇し、乙社提案の各議案は75%という高い賛成率で可決された。行使された議決権のうち議案に賛成したものの割合も、例年の定時総会で甲社が提案した議案よりも高いものであった。また、本件臨時総会1において、甲社の株主が返送した議決権行使書面には、賛否の欄に記入をしていない白票は存在しなかった。これらのことから、上述の通り1000円の商品券によって浮動票が賛成票へ導かれたといえ、商品券の誘導効果が大きいものであったとわかる。これらの票は議案を合理的に判断したのでなく商品券ほしさに賛成したことがうかがわれる。
これらのことからすれば、乙社は当初から他の株主に合理的な判断をさせず、賛成票へ利益誘導するために本件書面を送ったものといえ、株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的に基づき供与されとといえない(①不充足)。
(3)以上より、乙社の行為は利益供与に当たり、手続きの法令違反がある。利益供与違反は会社運営の健全を害するのだから、違反の事実が重大でないとはいえないので、裁量棄却もされない(831条2項)。
2 Eによる上記主張は認められる。
設問2
1.弊社が本件株式へ号の効力を争う方法としては、株式併合の無効の訴え(828条1項2号参照)または一般民事訴訟内でその無効を主張する方法が考えられる。
 株式併合の無効の訴え自体は828条各号には規定されていないので、同条によることはできないとも思える。しかし、本件株式併合は、併合を通して丙社の持株を端数化し、それを甲社が買い取ったうえで本件株式分割で株式を増やし、そして増えた株式をB,Cに第三者割当の方法で分割する、という一連の本件計画の一環として行われたものである。すなわち、本件計画は丙から株式を回収した上で最終的にはB、Cへ第三者割り当ての方法で株式を発行することを目的としているのであって、本件併合はその準備行為にすぎない。そうであれば、本件併合派新株発行の実質を持つものとして検討するべきである。
丙は甲社の発行済株式600株のうち200株を有する「株主」(2項2号)であるから、本件株式併合の登記日から1年以内に(2条5号、1項1号)、甲社を被告として(834条2号)、甲社本店所在の地方裁判所に(835条1項)無効の訴えを提起することができる。一般民事訴訟によることも可能だが、828条が法定特別訴訟類型であることから、こちらの方がよいと解する。
2 丙は、無効事由として①本件併合は経営支配権維持を目的とする不公正なものである(247条2号類推)、②本件決議2は特別利害関係株主による不当な決議であって取消事由がある(831条1項3号)以上、無効であると主張することが考えられる。
3.①について
(1)株式併合は新株発行ではないから、247条を直接適用することはできない。しかし、上記のように本件併合は最終的には第三者割当を目指す一連の流れの一つであって実質的に新株発行と類似すること、本件併合により持ち株比率が大きく変わる等の地位変動が生じることから、247条を類推する基礎があるというべきである。
(2)ア 新株発行は本来的には資金調達を目的とするものであること、被選任者たる取締役が選任者たる株主の構成を変えることは会社法の権限配分規定の趣旨に反し許されないことから、経営支配権の維持を主要な目的とする株式併合は「不公正な方法」に当たると解する。もっとも、会社の存続なくして株主の利益はあり得ないから、企業価値が毀損され株主の共同利益が害される場合において、それを防ぐために必要かつ相当な手段といえる場合には正当な理由があるとして、許されると解する。
イ 丙の代表取締役Gは甲を丙の完全子会社化しようと考えていた。AはFから完全子会社化案を聞いて驚愕し、B・Cと対応策を協議し、丙を締め出して甲社の独立を維持するために出された対応策が本件計画であった。このような経緯から、丙を締め出し、Aらの経営支配権を維持することを主要な目的として本件併合がなされたといえる。
では、「正当な理由」はあるか。丙は甲に対し協業会社である丁社に対し技術やノウハウを提供するよう求めている。丁は甲の競合相手だから、このような行為は利敵行為であって甲のメリットは乏しい。また、丙は丁社の株主であって丁の債権により利益を受ける。よって丙は甲を犠牲に自身の利益を図っているものといえ、丙を締め出すために本件併合をすることには、甲の価値毀損防止のため必要とも思える。
しかし、G完全子会社化案も、Aの独立維持案も、甲社の企業価値との関係でどちらが妥当か見解の分かれる問題であった。またB自身は、当初はGの案も悪くない考えていたが、Aの独立維持への強硬な姿勢とCのそれへの賛成によって独立維持に転じたにすぎず、甲内も一枚岩ではなかった。丙は悪化していた甲の事業再建に協力し、事実再建を成功させていることから、丙の経営能力は高いものであって、丙の完全子会社となってその支援を受けながら経営していくことは合理的なものであったといえる。そうであれば、完全子会社化を阻止することが合理的であるとは明確にはいえず「正当な理由」は認められない。
ウ 以上より、不公正な株式併合に当たる。
(3)では、これは無効事由となるか。無効事由は明文はないが、取引の安全や多数当事者の法律関係の安定の観点から、重要な法令・定款違反に限り無効事由になると解する。
 不公正な株式併合であれば、反対株主の株式買取請求等の保護手続きがある以上(182条の4)、法的関係の安定を優先すべきであって、無効事由とはならない。
(4)よって、主張①は認められない。
4 ②について
(1)本件併合の前提となった本件決議2は、B,C含む丙以外の株主全員の賛成により可決されている。B,Cは本件併合の後になされる予定の第三者割当によって株式割当られることが予定されているから、B,Cは他の株主と共通しない利益を得るといえ、「特別の利害関係を有する者」に当たる。
そして、B,Cが賛成の議決権を行使したことで本件決議2は可決された。本件決議2は上記のとおり丙を締め出しAらの経営支配権を維持するため人された不公正なものであるから、「著しく不当な決議がされた」といえる。
(2)よって、本件決議2には831条1項3号の取消事由がある。
(3)では、これは無効事由となるか。本件併合は総会決議の存在を前提とし、それが取消されるべきものであれば本来効力が生じるはずのなかったものであるから、取消事由があるものは無効とするのが素直である。もっとも、取消の訴えの出訴期間を3か月とし(831条柱書)、法律関係の早期安定を図っていることから、当該自由は決議から3か月以内に主張しなければならない。
(4)以上から、本件決議2から3か月以内であれば主張②は認められる。
以上


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