令和5年度予備試験 口述試験1日目 刑事再現

私)刑事○室○番です。よろしくお願いします。
主査)おすわりください。
私)はい、失礼します。
主査)今から私がパネルを読み上げます。よく聞いてください。

パネル事例①
甲は乙と共謀して、V(79歳男性)に対してVの孫を名乗って、仕事の関係で100万円が必要になったと虚偽の事実を告げた上で、「上司を向かわせるから100万円を封筒に入れて用意してくれ」と伝えた。Vは100万円を封筒に入れて、やってきた甲に渡した。

主) 甲の罪責はなんですか?
私) 詐欺罪が成立します。(これはいけるな)

主) 詐欺罪の構成要件を教えてください。
私)欺罔行為、それによる錯誤、財物交付(別のことを言ったかもしれません)、故意、不法領得の意思です。

主) 財物の交付..?
私) あ、財物の移転です。(そこ突っかかる...?まぁいいや。)

事例②
事例①の事例で、Vは100万円入りの封筒(以下「本件封筒」)を用意して甲の到着を待った。甲が到着したあと、Vは「孫に確認したいから電話をかけてくる。ちょっと待ってて」と言って、本件封筒を玄関先の靴置きの上に置いて奥に行ってしまった。甲はその隙に本件封筒を持ち去った。

主) 甲の罪責はなんですか?
私)窃盗罪です。

主) 窃盗罪の構成要件を教えて下さい。
私) 他人の財物を窃取したこと。故意、不法領得の意思。

主) 他人の財物って...?
私)他人が占有するものです。
(他人の所有物が正しいと思いますが、何故かこれで解放されました。突っ込みの意図も謎です)

主)窃取って何ですか?
私) 占有者の意思に反して、自己または第三者に占有を移転させることです。

主) なぜ事例①は詐欺なのに今回窃盗なのですか?
私) 今回は、Vは本件封筒を靴箱の上に置いて、一度孫に電話をかけて、それが終わってから渡そうと思っていたので、靴箱に置いただけでは、財物の交付があったとは言えないからです。

主)Vが孫に電話をかけた後に渡そうと思ってたのが大事ってことですね。
私)はい、そうです。


事例③
事例①の事例で、乙はVに、現金手渡しではなく、甲・乙が共同で管理する口座に振込むよう指示した。Vはこれに従って同口座に100万円を振り込んだ。

主) 甲の罪責はなんですか?
私)1項詐欺です。

主)なぜ1項なのですか?手渡しと振込で違うんじゃないんですか?
私) 今回は、甲乙共同の口座に振り込ませたとのことですが、振込後、甲はキャッシュカードなり何なりを使って自由に100万円を引き出せるようになるのであり、現金の手渡しと同視できるからです。
(ここまでいい感じ!!)

(パネル裏面へ)事例④
事例①と違い、乙1人で同内容の計画をしてVに電話をかけた後、乙は知人の甲に計画を話した上でVから本件封筒を受け取るよう伝えた。甲はV宅へ赴き、本件封筒を受け取った。

主) 甲の罪責は?
私) うーん、えーと、、、(5秒思考)詐欺が成立しうると思います。
(甲が積極的に乙の先行行為を利用した事情があるのか??この事情からは分からなくない?一旦濁しておこう)

主) 成立しうる...?成立するかしないか、で答えて下さい。
私)はい、成立します。スミマセン。

主) 甲が関与したのは欺罔行為の後なのに、なぜ詐欺成立するのですか?
私) 甲は欺罔行為の後から関与しているので、本件ではいわゆる承継的共同正犯が問題となります。承継的共同正犯は、先行行為の行為と結果を積極的に自己の犯罪の実現に利用した場合に成立します。
本件では、甲は乙がVを騙して錯誤に陥らせた状態を利用して、封筒を受け取っているので、承継的共同正犯となり、詐欺が成立します。

主) 封筒を受け取るという行為に着目して、説明すると...?
私) 封筒を受け取る行為は、詐欺を完成させる重要な行為なので、共同正犯となります。
(幇助と共同正犯の区別も聞きたかったのかな?)


事例⑤
事例④で、Vは乙から電話を受けた後、騙されたことに気づき、警察と相談の上「騙されたフリ作戦」を実行することにした。そのことを知らない甲は、V宅へ行って中に封筒を受け取ったところを、逮捕された。

主) 甲に何罪が成立しますか。
私) 詐欺未遂罪が成立します。
(よし!当てはめ大魔神召喚したる!!)

主) 何故ですか。
私) 本件では未遂か不能犯かが問題となります。その区別は、一般人が認識しえた事情と行為者が特に認識していた事情を判断基底として、一般人の感性を基準に、法益侵害の具体的危険が生じたか否かで判断します。
「騙されたフリ作戦」を実行していたか否かは、Vの内部事情なので一般人は知り得ないですし、甲は作戦に気づかず封筒を受け取っているので当然認識していません。とすれば、「騙されたフリ作戦」は判断基底に入らないことになります。すると、犯人がVという79歳の御年寄にオレオレ詐欺をしているという行為の外形から判断すると、一般人としてはVが騙されて100万円を渡す危険が存在しているといえ、未遂となります。


刑事手続へ。(女性主査へ交代)

主) 3日後、甲に逮捕状が発布された。警察官は、甲がアジトとしている雑居ビルから出てきたのを目撃したので、逮捕しようと思ったが、逮捕状を所持していなかった。甲を逮捕できますか。
私) できます。

主) なぜですか。
私) 逮捕状の緊急執行です。

主) 緊急執行の要件を教えて下さい。
私) 被疑事実の告知、逮捕状の請求、、、
主) ん、逮捕状の請求?
私) 言い間違えました。逮捕状が発布されていることを伝える必要があります。
主) 主査 頷きながらニッコリ→こんな感じ(  *´꒳`*)
私) 他には、逮捕状を逮捕後速やかに示すことです。

主) 甲を逮捕したのが雑居ビルの近くの公道だったとします。その場で甲の所持品を逮捕に伴って捜索できますか。
私) できます。

主)その根拠は。
私)逮捕に伴う搜索における、「逮捕の現場」に当たるからです。

主)それを講学上なんといいますか?
私)えーっっと、無令状捜索です。
Q逮捕に伴う捜索って言います笑
主) あ、はい。
(さっき言うたやん?)

主)では、雑居ビルのうち甲のアジトが501号室だったとします。501号室を捜索できますか。
私) できません。公道と501号室では、管理権者が違うので、「逮捕の現場」に当たらないからです。

主) では、本件で捜索するには何をすればいいですか。
私) 改めて捜索差押許可状を請求する必要があります。

主) どこに?
私) 裁判所...
主) 所(しょ)?笑
私) あ、官です。裁判官です。
(ここで室内一同に笑顔が溢れる)

主) 捜査に当たっていた警察官は、捜索場所を「雑居ビル501号室」、捜索差押を受けるべき者を「甲」、被疑事実を「特殊詐欺」、差押えるべき物を「名簿、USBメモリ、その他一切の本件に関係する物」と記載された捜索差押許可状を得たとします。501号室の捜索中に、「○○名簿(顧客名簿かもしれませんが、私は別の物だと認識していました)」と書かれた書類を発見し、その中にはVの名前が含まれていた。これを差押られますか。
私) できます。

主) それはなぜですか。
私)「名簿」に当たるし、被疑事実との関連性もあるからです。

主) では、「○○名簿」と書かれていたが、Vの名前は含まれていなかったとします。この場合はどうですか。
私) この場合も差押えられます。Vの名前がなくとも、今回は特殊詐欺で他にも被害者がいると考えられるので、特殊詐欺との関連性が認められると思います。

主) それは許可状のどれにあたります?
私) 「名簿」、いやえーと、、、、その他本件に関係する物だと思います。
主) まぁどちらでも良いんですけどね(再び室内一同に笑顔が溢れる)

主) では、外側に「名簿データ」と書かれたUSBを見つけた場合、これは差押えられるか。
私) 差押えられます。

主) 中身が分からないのに、差し押さえてもいんですか?
私) 外側に「名簿データ」と書かれている以上、本件被疑事実と関連した名簿データなのではないかと考えるのが合理的だからです。

主) そう考えるのが合理的ってことなの?
私) 書類での名簿が既に室内あった以上、そのデータがそこに入っているのではと考えられるのが、そのように考えるのが合理的だと思いました。

主) では、封筒があり、その中に20個のUSBが入っていたとする。うち4個には「顧客名簿」と書かれていたが、他は何も書かれていなかった。この封筒を差し押さえられるか。
私) うーん、、ダメだと思います。

主) ...?なんで?
私) 顧客名簿だと何の顧客のことか分からないからです。。本件に関係することか分からないからです。
(さっきの事例だと顧客名簿って言ってなかったよね?覚えてないけど。てか、刑事手続もパネル用意してよ〜)

主) でもさっきあなたは、名簿書類で認めてたじゃん。
私) 確かにそうですね。。。顧客名簿と書かれた4つのUSBは、本件被疑事実との関連性があると思います。そして、それと同じ封筒にあるということは、それ以外の無記名のUSBも、本件被疑事実と何らかの関係があると考えるのが合理的です。よって、封筒全体に関連性が認められます。

主) 撤回するってことですか?
私)はい撤回します。

主) 最後の質問です。捜査官は、捜索差押の現場でUSBメモリの写真をとっても良いのでしょうか。
私)いいと思います。

主) 根拠は?
私) 刑訴111条1項の必要な処分に当たるからです。

主) 必要な処分として認められるのってどんな時?
私) 手続の適正の担保するためと、証拠価値の保全をする必要がある時です。
(ん〜、こっちでいいかな?一般的な方答えた方が良かったか?)

主) うん。一般的には、捜索差押と関連する処分で、かつ捜索差押の目的達成に不可欠な場合に「必要な処分」が認められるんだよね。本件は、この基準に照らせばどうかな。
私) (そっち言えば良かったのね…)写真は、USBの位置関係を証明するのに重要であると思います。例えば、書類の「名簿」の近く、または上にUSBが置かれていたら、本件被疑事実と何か関係するものだと示すことができます。そうであれば、捜索差押の目的に必要不可欠な処分と言えると思います。

主) 分かりました。まぁ実務上は付随する処分として許されるってことになってるんですけどね。
以上です。お疲れ様でした。パネルは表に戻しといてください。

A ありがとうございました!
(こては勝ったでしょ!61か、最低でも60はあるはず!!)

(参考情報)
・一日目午後に受験
・試験時間は20分弱(一瞬に感じた)
・試験官は男性と女性で、男性が実体法の主査を、女性が手続法の主査をしていた。
・両面パネルがあって、そこに実体法の事例が①〜⑤まで記載されていた
・倫理は出題されなかった

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