小説『玩具修理者』小林泰三
小説『玩具修理者』小林泰三
初小林泰三作品。
2篇収録。
「玩具修理者」は弟を世話しなければならない女の子がかわいそうに感じた。最後ツッコミたくなった。
「酔歩する男」は読みながら私が乗り物酔いした。きっとそれが作者の狙いに違いない。酔読する読者。
読み切った後何かオロオロした。
ネタバレします
「玩具修理者」
叙述トリックもののホラー。
最後の
「道雄こそ何者なの?」
ちょっと笑った。
個人的に、
歯医者にいくたびに感じてた。
どんどん自分が改造されていく感覚。
このように改造しなければ生きていけない私とは一体何者なのだろうかと。
「酔歩する男」
ある意味では、
過去のことも未来のことも
気にせず今を生きれば良いのかも知れないと思わせてくれるお話し。
自分は一体何もので、
周りからどう思われてるのか、
一体どこへ向かっているのか、
など、
よく考えていたけども、
あまり気にしないで良いのかも知れないと思った。
失ったものを取り戻そう取り戻そうとすればするほどに
ひとはもっと大切な何かを失ってしまう。
そのようなお話にも感じた。
はじめは、
友人に逆らえずに
亡くなった彼女を復活させるため
脳に影響を与えることで、
タイムトラベルを繰り返した。
(作品内ではタイムトラベラと表記されてる)
他人を満足させるためだけに行動を起こす、
自分の意思を貫くことが出来ない。
今度は自分の講演の成功こそが、タイムトラベルの目的になっていく。
自分の意思ではあるとは思うけれども、
これもまた他者目線からの成功であるように私は思う。
子どもや奥さんの心配はしない。
今度は大学受験。
両親から「今年こそ合格するように」と言われる。
権威や人から見た自分の成功のみを追い求める。
物語の大オチは、
謎の人間からこの話しを聞かされて、
自分を失ったのか主人公がおかしくなる。
私が気になったことは、
表題作の短さだった。
なぜ「酔歩する男」を題名にしなかったのかなということ。
玩具修理者は、
大人が子ども時代を振り返るお話し。
親の言いつけを守らなければと必死になる子どもにはとてもかわいそうに感じた。
酔歩する男は、
何も同情出来なかった。
玩具修理者には、
「好きな人を心配かけたくない」という気持ちが垣間見えるが、
酔歩する男からは、
ただ周囲に流されるだけの人生、そして自分を見失なう…
また
玩具修理者は「肉体の喪失」であり、
酔歩する男は「精神の喪失」であるようにも感じる。
その対比のためにこの並びにしたのかなと思えた。
理解しきれないところはたくさんある話ではあるが、
作者が言いたかったことは、
自分の当たり前や普通は、
ある日突然崩れてしまうということなのかも。
「今まで自分が信じてきたことは、違うかった」
これほど怖いことがあるだろうか。
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