被害者が「逃げられない」理由
精神・身体ともに苦しい思いをしているのに、なぜ被害者は逃げないのでしょうか。
1. 抵抗する力さえ奪われる
当時私は、逃げたくても「逃げられない」と思っていました。
逃げられないなんて言い訳じゃないか、と思われる方もいると思います。
こんな実験を聞いたことがあるでしょうか。
犬を檻に入れ、ランダムなタイミングで電気ショックを与えます。
最初は抵抗したり電気ショックが起きる間隔を探っていた犬も、次第に無抵抗になりただ檻の中で丸まります。
そこで檻の入り口を開けるのですが、犬は檻から出てきません。
このように、あまりのショックを予測できない間隔で受け続けると、脳が混乱し思考力・抵抗力が次第に奪われていきます。
もちろん物理的に逃げられることは私もわかっていました。
しかし、足が動かないのです。ただボーッと部屋に座り込んでいました。
逃げたところできっと彼は追ってくる、そしてさらに酷い仕打ちを受けるのだろう。
そう思うと逃げずに我慢しているほうがよっぽどマシだと考えてしまうのです。
2. 「私に問題がある」と思い込んでしまう
あるとき男の先輩にレポート課題を教えてもらったことがありました。
教室の隅に2人で座り教えてもらっていたのですが、彼はそれをたまたま見かけたようでその様子を写真に撮っていました。
そしてその夜私の家へやってきて、「これはどういうつもりだ。」とその写真を見せつけてきました。
事実を伝えるものの、「男の先輩と2人でやることではない。やはりお前は不貞な女だ。」と怒りました。そして「その先輩に一言ガツンと言いに行ってやる」と言いました。「人の彼女とわかっているくせに。」というのが彼の言い分です。
彼の束縛が少し過度なことには当時から気づいていましたが、お世話になっている先輩に危害を加えられては困るので「私が悪かった。そんなに気にするとは思わなくて。」と謝りました。
そして価値観が合わないので別れたいと告げましたが、「悪いことをしたのは自分なのに、なぜお前から別れを切り出せるのか。」とさらに怒鳴りました。
男性に怒鳴られるとやはり怖いもので、何も言い返すことができずただただごめんなさいと伝え、なんとか彼の怒りを収めました。
そして次第にどんな理不尽を叩きつけられようと「最初に俺を不快にしたのはお前なんだ。こうやって俺が怒鳴らなければならないのは全てお前に原因があるんだ。」と言われ、「私が悪かったのかもしれない…」と思いがちになっていきました。
しかしそれを理由に何事も自分のせいにされる筋合いはありません。
「私に問題がある」と思ってしまっては、相手の思うツボです。
3. 自分がDV被害者だと認識できない
彼と私の関係を知る友人は、口を揃えて「そんなやつと早く別れなよ。」と言います。
しかしそれは自分自身が1番わかっていることなのです。
暴力を振るわれるたびに「別れてほしい」と伝えるのです。
そして「どの口で別れたいなんて言えるんだ。」とさらに暴力は激しくなります。
しかし散々殴ったあと彼は我に帰り、俺が悪かった、と謝罪の言葉を並べるのです。
これは一般的に「ハネムーン期」と呼ばれるもので、怖い思いや殴られて痛い思いをした被害者は正常な判断ができず (正確には思考力までも支配されており)、「そうだ、この人は本来優しい人なんだ、私が悪いことをしたせいでおかしくなってしまったんだ、愛してくれているからこその行動なのだ。」と一種の洗脳状態に陥ってしまいます。
そしてこの
蓄積期(相手が自分の思い通りに支配できないことによるストレスがたまる時期)
↓
爆発期(蓄積していたストレスを恫喝、殴るなど実際の行動で爆発させる時期)
↓
ハネムーン期(ストレスが発散されたことにより、急に優しくなったり相手を喜ばせるような行動をとる時期)
というサイクルの沼から抜け出せなくなってしまうのです。
一度は好きになった相手です。このハネムーン期があるからこそ、「そうだ、彼はもともと優しいんだ。」とその暴力を許してしまうのです。
4. 警察に行くのは大袈裟だと考えてしまう
彼と私の関係を知る友人のなかには、「警察に行ったほうがいいよ。」と言う人もいます。
しかし、警察に行ったところで「ただの恋人同士のケンカでしょ」と一蹴されてしまうのではないかと思っていました。
そして警察に行ったことが彼に知られたら、「俺を犯罪者にしたいのか。」とまた暴力を振るわれることは容易に予想できます。
これは日本のDV被害への意識の低さにも問題があるかもしれません。
しかし、実際にDV被害者が殺害されるような事件も起きているように立派な犯罪なのです。
警察に行くというのは大変勇気のいる行動です。
しかし、警察は必ず被害者の味方になってくれます。
また、被害者の周りにいる方は言葉だけではなく、無理矢理にでも被害者を引っ張って一緒に警察へ行って欲しいと思います。
その行動が、被害者の命を救う一手になるかもしれません。