👘家族の記憶を紡ぎながら、色褪せない伝統衣装。着物ショーで躍動する半世紀前の和装
バンガロールにおけるファッション界の第一人者であるPrasad Bidapa。テキスタイルのプロモーターとして、またキュレーターとしても、各方面で活躍されている人物だ。彼と初めてお会いしたのは、パンデミック時代の3年前。マハラーシュトラ州に息づく古来インドのChandrakalaサリーに関する催しだった。
以来、何度かお会いしたが、中でも今年2月のA HUNDRED HANDS のバザールにて、彼が主催するファッションショーに、「モデルで」参加させてもらったのは、とても楽しい経験だった。アッサムのサリーのうえに日本の絞りの羽織を着るという、日本とインドの伝統ファッションの融合。いずれも、以下、記録を残している。
今回、Prasadから連絡があったのは、10日ほど前。JWマリオットホテルにて、サントリー・ウイスキー季(Toki)のプロモーションをするので、25日金曜日に着物でファッションショーをできないかという打診だった。日本への一時帰国が間近なこともあり、先週はホスピス訪問以外の大きな予定を入れていなかった。とはいえ、準備期間は短い。その上、何度も記しているが、わたしが着物に目覚めたのはわずか1年前で、まだ自分で着物の帯を結べない。浴衣の半幅帯はなんとか結べているが。
とはいうものの、この1年間に着物に関するイヴェントを何度も開催し、バンガロールにおいては、和装スペシャリストな状況となっている。本気な方々からのツッコミが入りそうだが、それはそれ。伝統衣装を文化交流に昇華していると思えば、有意義だ。スケジュール表を見つめる。スケジュール表をぐいっと見つめる。
なんとかなる。それに、どう考えても楽しそうだし、未来にも繋がる。お受けすることにした。
月曜日にPrasadを新居に招き、手持ちの和服を見てもらい、当日の流れをざっと決める。女性モデル5名。男性モデル2名。マネキンガールズ4名。着物と帯を、それぞれに、ひとりで着付けることは、どう考えても無理。マネキンガールズには着物を着せ、女性4人には、派手な羽織をモダンに着こなしてもらう。そして、女性1人には、わたしの有松絞りの浴衣を、男性2人には、亡父の浴衣を着てもらうことにした。
浴衣を着た3人には、裾がはだけないように、歩き方や所作を指導。自分はうまくできなくても、指導はできるのだ。結果、彼らは丁寧に、雰囲気よく、歩いてくれた。
蓋を開けるまで、何がどうなるかわからないのがインドのイヴェント。常にフレキシブルに対応できるように、諸々、多めの準備を心がけている。着物や帯、帯締めや帯紐などの小物類も、ありったけ車に詰め込んで午後2時ごろにホテルへ。ホテルだけあり、準備のための部屋を用意していただけたのはありがたい。しかし、くつろぐ余裕はない。
まずは会場へ赴き、マネキンを組み立て着物を着せる。ポールに帯を飾る。今回は、Prasadのスタッフが力仕事を手伝ってくれたので助かった。
その後、モデル着用の羽織などを選ぶ。着物ファッションショーに続いて、和風テイストのデニムブランドUNのショーがあるのだが、このモデル男性ら数名も、羽織を着て出たいと言い出す。女性用なんだけど……。
ここはインド。楽しく日本の伝統服に親しんでもらうのがいいだろうと、予備を取り出す。男性モデルの一人が素肌に羽織りたいと言い出したときは流石に迷ったが、「肉体美」アピールをしたい模様。OK, OK。集合写真で、わたしの右隣に立っている男性だ。結果、わたしの着物とナイスなコーディネーションだ。
多めに持参していた帯締めは、ストールとしてUNのデニムに合わせることになった。これもなかなかにCoolだ。
わたしの着物は、前回の一時帰国の際に購入した単衣(ひとえ)の新品中古。わたしが所有する着物はすべて袷(あわせ)なので暑い。今後は、単衣の着物か良質の浴衣を探そうと思う。
準備やリハーサルやモデルらの着付けを手伝ったあと、ほぼ休むまもなく自分の着付け。半幅帯でお茶を濁す。丈が短すぎる、お端折りが歪んでいる、裾が広がっている……など、写真で見るとツッコミどころ多々あるが、ようやった。
ファッションショーの前に、10分ほど、着物トーク。これらの着物や帯の多くが、半世紀以上、実家のクローゼットに眠っていた母のものだということや、浴衣もまた父のものだということなど。古い写真は、1972年8月31日。我が7歳の誕生日のときの1枚だ。父がこのとき着ている浴衣を、今、インドの若者が着ている。写真は色褪せても、着物は色褪せない。父がよく着ていたので、ところどころがすり減ってはいるが、それはそれで風情がある。
書きたいことが募るが……。今夜、日本へ出発につき、この辺にしておく。
🥻途轍もなく深いインドの衣文化。時空を超えて、伝説や神話から紡がれるサリー(2021/08/25)
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🥻遂にはファッションモデル・デビュー?! テキスタイルに滲む家族の系譜を思う。(2024/02/07)
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