◆上海タンゴマラソン④ラストダンスは彼と
そしてタンゴマラソン2日目、もっといえば全2日間を通して1番印象に残った踊り手は……
タンゴを始めてまもないタイワニーズだった。
まだあどけなさが残る20代の男子で、タンゴ歴わずか5ヶ月だという。
「よく参加したね、すごい勇気!」と思わず言うと、
「僕の先生が薦めてくれたんだ。別に踊らなくても空気感を感じてくるべきだって」と彼。
難しいことはできないけど、と言い合いながら、私たちは踊り始めた。
確かにリードには、ちょっとわかりにくい部分があった。
でもそれ以上に感じたのは、私をエスコートしようとする気概。
大切な宝物を扱うかのように、一歩一歩慎重に優しく運んでくれるのが、ひしひしと伝わってきた。
踊り終わった後、それを彼に伝えると、
「シンプルなことしかできないけど、ただひたすらcomfortableに感じてもらえるように踊ってた」
そう言って、ちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。
(初心者同士気が合い、近場のローカルなお店で夕食をご馳走になってしまった。「日本に行ったらご馳走してね」と言いながら)
お互い健闘を祈る、と彼と別れた後は、途中デモタイムなど挟みながらも、またしてもよく踊った。
フロアもいよいよ熱を増し、深夜2時終了予定のミロンガは、2時半になっても一向に終わる気配がない。
もう足が……骨から痛いよー。崩壊寸前。
さすがに限界が来た。
戦線離脱、と立ち上がろうとしたところに、「最後に踊ろう」と再びタイワニーズ君。
少し、いやかなり無理して、応じることに。
そして、曲の数小節目で、「わぁ、疲れてるのわかる〜」と言われてしまう。
「やっぱりわかるんだね」という私に、彼はこう言った。
「You can sleep, just follow me」。
(ズッキューーーーン)
うわあ、タンゴ歴5ヶ月の子がいうセリフ??
すごいよ。。。じーんと感動。
難しいステップはおろか、ほとんどアブラッソ(抱擁)しているだけのスローなタンダ。ほんとうにゆりかごの中に包まれているかのよう……。
確かに彼はジェントルマンで、生粋のミロンゲーロだった。
「上手なステップやリズムの取り方は『タンゴを踊る』という感覚とは別物」……あらためてその言葉が身にしみる。
私が感じた心地よさが、それを証明していた。
ラストタンダを彼と踊れてよかった。
満足し、今度こそ本当に部屋に戻ることにする。
仲良くなった韓国人のVIP席の人たちに、
「WOW, Are you leaving? You lose!」
負け犬〜、と囃されるが、もう1曲たりとも踊れない。ここまで意識が朦朧とする寸前まで踊ったのははじめてだ。
数時間後には空港に向かわないといけない。
なんとか自分に鞭打って荷造りを終えると、文字どおり泥のように眠りに落ちた。
*次回、「タンゴDAYS」最終回となります。