◆DAY56 忘れがたき抱擁
*2019年8月24日*
以前からタンゴに興味を示していたお友達がレッスンに初参加。
西麻布のシャンパンバーの片隅でアブラッソを組んだプーさんである(→◆DAY13 タンゴが似合うとは)。仕事関連で出会った彼とは波長が合い、もう7年ほど付き合いが続いている。
紳士的で細やかな気遣いをする人だが、オープンマインドでどこか”悪さがある”ところがタンゴに向いていると思った。ちなみにこの”悪さがある”というのはプーさんの言葉である(DAY13参照)。
踊るのは全く初めてのプーさんと一緒に、体重移動やバルドッサなどの基本的な動きを復習。あらためて組んでみると、ちょっと照れ臭い。
後半は別メニューで、私はメディアヒーロからのヒーロカミナンドの練習。これができなくて……音楽と全然あわないし、肩の力は入ってるし、
「私、ぜんぜん上達してないなー」と落ち込んだ。原因は、家でやっているヒーロのエクササイズのリズムと、実際に踊る時の音の取り方があってないこと。だからリードのタイミングともずれる。
一方プーさんは、さすがセンスを発揮していて、初レッスンにしてすでにオーチョまで進んでいた。これまで男性の初レッスンの場に何度も立ち会ったことがあるけれど、プーさんほど飲み込みの早い人はそうそういない。センスあるなーと感心。やっぱり先の夜のアブラッソでの直感は間違っていなかった、と妙に誇らしくなった。
その後、久しぶりに土曜ミロンガに参加。プーさんは習ったバルドッサをフル活用してさっそく女性をエスコートしていた。さすがすごい度胸!
それからたまにレッスンでご一緒するバレエダンサーの美女がこの日はジョイン。その場にいるだけで空気が一変するくらいオーラがある彼女だが、普段あまりミロンガに参加しないので、一気に場が華やいだ。
私のこの日の事件は、路子先生にリードしてもらったこと。
女性が多かったのであぶれていた私を、「あやちゃん踊ろう!バルドッサしかできないけど」と路子先生が誘ってくれたのだ。
これが……衝撃体験だった。
今まで何度も路子先生の踊っている姿を見ていて、滲み出る独特の雰囲気、表現力に感じるところは多かった。指先まで神経が行き通った繊細な足の運び、間の取り方……艶やかな、女性としての表現力。
だけど……この日路子先生のリードには、猛々しさ、燃えるような火の強さがあった。それに名前をつけるなら、欲望、だろうか。
曲は「Quejas de Bandoneon(バンドネオンの嘆き)」。
アブラッソには明確な意思があり、曲調とともに優しくなったり、強くなったりする。路子先生の音楽の表現を感じる。
そもそも、柔らかくていい匂いがするぅ……。
路子先生と踊っている男の人は、いつもこんないい思いをしていたのか!という感じである。
うーん、性別を超えて恋をするって、こんな感覚なのかもしれない。
踊り終えた後も、柔らかい抱擁の感覚と、フエギアの香りの余韻がしばらく続いていてうっとり。あのアブラッソの感覚は、きっと忘れないだろう。
私もあんなふうに、余韻を残せる踊り手になりたい。
まだ到底、修行が足りない……(涙)。
ちなみにプーさんに感想を聞くと「面白かった!」といっていたけど、どうだろう。もし続ければ、いい踊り手になるのは間違いないと思うけど、男性がタンゴを始めるハードルはやっぱり女性に比べて数段高いだろうから。