
仏壇に思う 善き随想(3)
仏壇は、私たちの暮らしの中に静かに佇む、魂のよりどころです。
その扉を開けば、そこには先祖や亡き人々が見守る世界が広がり、ろうそくの灯や線香の煙がゆらめきながら、時間の流れを穏やかに包み込んでくれます。仏壇はただの家具ではなく、過去と現在、そして未来をつなぐ橋渡しの役割を果たしているのです。
私は子どもの頃、家の仏壇が好きでした。小さな手を合わせながら、祖母が唱えるお経の響きを聴いていると、心の奥に柔らかい安心感が広がりました。
その頃は、仏壇が何のためにあるのか深く理解していなかったものの、不思議と落ち着く空間であったことを覚えています。
時は流れ、祖母が亡くなったとき、私は初めて本当の意味で仏壇と向き合いました。あの温かい声も、優しい笑顔ももう目の前にはありません。
しかし、仏壇の前に座り手を合わせると、まるで祖母がそこにいるかのような感覚に包まれました。「元気でいる?」と心の中で問いかけると、不思議と自分の心が澄み渡り、祖母の存在をそばに感じることができるのです。
仏壇には、形には見えないけれど確かに存在する「つながり」が宿っています。日々の忙しさの中で、私たちは目の前のことに気を取られ、大切な人たちとの心のつながりを忘れがちです。
しかし、仏壇の前に座る時間は、それを思い出させてくれます。そこに供えられた花やお茶、お菓子は、亡き人との会話のようなもの。供えるたびに、「こんなものが好きだったな」と思い出し、心の中で会話が生まれます。
現代では、仏壇のある家庭が減りつつあります。生活様式の変化や、スペースの問題など、さまざまな理由があるでしょう。しかし、形は変わっても、亡き人を偲び、つながりを大切にする心は変わらないはずです。伝統的な仏壇でなくとも、写真を飾ったり、心の中で語りかけたりするだけでも十分に意味があるのではないでしょうか。
仏壇の灯りは、ただ物理的に部屋を照らすものではなく、私たちの心を照らすものでもあります。そこに込められた祈りや想いは、時を超え、世代を超えて受け継がれていくのです。仏壇の前に座り、静かに手を合わせるひとときは、自分自身を見つめ直し、大切な人とのつながりを再確認する大事な時間。
忙しない日常の中で、時にはその灯りを頼りに、心の風景を見つめてみるのもいいかもしれません。
いいなと思ったら応援しよう!
