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「Cultural Differences in Parental Involvement and Participation in ECEC」       松田こずえ先生      

こんにちは。武蔵野大学武蔵野CLS学生スタッフです。
武蔵野CLSにて研究成果を展示されている先生をご紹介します。
今回は、幼児教育学科松田こずえ先生に伺いました。

松田こずえ
武蔵野大学 教育学部 幼児教育学科 専任講師 博士(社会科学)
専門は、保育学、幼児教育学、国際保育
お茶の水女子大学家政学部児童学科卒業、私立・公立幼稚園勤務経験後、
お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科人間発達科学専攻 
保育・児童学領域博士後期課程修了を経て、現職。
松田先生の研究はこちら:https://researchmap.jp/matsudakozue

ECECとは?
・Early Childhood Education and Careの略語で、直訳すると「人生初期の教育とケア」を意味します。
・ECECの提供と質に関して世界的に関心が高まる中、日本の保育・幼児教育分野においても様々な改革が進みつつあります。
・チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)はECECを「新しい保育・幼児教育」を表すことばと位置付け、ECEC研究を進めています。       
*EC = Early Childhood
*ECD = Early Childhood Development
*ECCE = Early Childhood Care and Education
などの用語で議論されることもあります。

ベネッセ教育総合研究所より

武蔵野クリエイティブ・ラーニングスクエア   通称 : 武蔵野CLS
武蔵野大学 武蔵野キャンパス5号館にあり、学生の授業における到達目標のサポート、自学自習・グループ学習支援を主な目的として設置されています。武蔵野キャンパス8学科所属の学生スタッフが運営。現在20名。
1階中央展示スペースでは先生方の研究成果や学生の学習成果を展示しています。1階は86席 2階に54席。全館Wi-Fi・電源完備。                                              広々としたスペースを、ぜひご利用ください。 

武蔵野CLS X
ノルウェーの子どもたち (写真:松田先生撮影)


ノルウェーの幼児教育におけるジェンダー平等と公平性

CLS :この研究テーマを選ばれた背景や展示資料の概要を教えてください。

松田:ノルウェーは男女平等や公平性が進んだ国といわれています。ノルウェーの幼児教育においてもジェンダー平等と公平性に向けた取り組みは、歴史的に早い時期から行われていた点が興味深いと思い、研究テーマに選びました。
男女平等ランキングでも、ノルウェーは世界でも常に上位に位置しており、労働政策、家族政策に限らず、幼児期から男女平等や公平性につながる教育を行う政策がいろいろあります。そこが興味深く研究を進めています。ノルウェーには子どもの「意見表明権」という、子どもが自分の意見を述べる権利が法律で規定されています。幼い子どもが意見を述べるのは難しい場合もありますが、それをサポートするのが親や保育者の役目と考えられています。自分の意見を少しずつ言えるようになるために、大人が子どもの発言にきちんと耳を傾け、それを実現できるように援助や折り合いをつけていくということです。今回の研究は、子どもも大人も社会に参画する社会を創ることが重視されているノルウェーで、幼稚園で実際に保護者はどのように参加しているのかを研究したものとなっています。

松田先生著書(明石書店)

日本とノルウェーの保護者が参加する場面の違い

CLS:日本とノルウェーの保護者へのインタビューから紹介されているエピソードから、日本では子どもたちの今までの園での取り組みの様子や、成果を発揮する場面(発表会やお遊戯会、運動会など)を保護者が参観するという形で、保護者が保育に参加することが多いイメージを持ちました。
他方ノルウェーでは、日々の幼児教育の場面で保護者が保育に関与することが多いイメージをもちました。この違いの要因としてはどのようなことが考えられるのでしょうか?

松田:この違いの要因としては、大きく2つ挙げられると考えています。
まず1つ目は幼児教育施設の形態の違いです。日本は保育園や幼稚園など様々な形態の幼児教育施設があります。日本では仕事している保護者は保育園、そうでない保護者は幼稚園に子どもを通わせることが多いです。ノルウェーはほとんどの家庭が共働きであり、幼稚園と保育園の区別はなく、夕方の時間まで子どもが園にいます。今回インタビューをした日本の保護者は、保育園ではなく幼稚園に子どもを通わせている家庭だったので、このような違いが顕著に現れたとも考えられます。
2つ目はノルウェーでは、保護者が保育に対して意見を述べることが、法律で規定されているということです。どこの園でも親協議会といって保護者だけの会を設置することや、保護者の代表者と幼稚園側の代表者がどうしたら幼稚園がよいものになるか協議する場を作らなければならないと、「幼稚園法」により定められています。協議会で出された意見を園の中だけで終わらせるのではなく、自治体や国の親委員会が意見を吸い上げます。ノルウェーの幼稚園に子どもを通わせている保護者の方に対するインタビューの中でも、遠足時のバスの乗り降りの際、子どもたちの安全が不十分だったのではないかという意見が保護者から出て、代表者が園に伝え園が回答した、というお話がありました。また、保育者が年度途中で辞めたり、変わってしまったりということがあまりに頻繁だと、子どもにとって良くないということで改善してほしいと園に伝えた、ということもありました。今、それぞれの幼稚園でどういうことが問題になっているかについて、自治体や国に保護者の声を届けるようなネットワークがあるというのが日本との大きな違いです。子どもの様子を知るというだけではなく、保護者が決める権利もいろいろあります。例えばお金のことです。国や自治体に定められた保育料以上に園が徴収しようとする場合は、親協議会や、親と園のスタッフとの調整委員会で議論し、承諾を得なくてはいけません。
こういったところから、保護者の保育参加の状況の違いが表れていると考えられます。
 
また、それ以外にも、ノルウェーと日本の幼児教育における状況の違いとして、保育者の仕事に対する誇りの違いがデータとして表れています。OECD(経済協力開発機構)という国際調査機関の2018年の調査で、ノルウェーの保育者にアンケートをしたところ、自分は保護者から認められている、自分たちの保育の仕事に対して保護者からよくやってくれていると思われている、リスペクトされていると感じている保育者が多いことがわかりました。この数値は、日本よりもかなり高いものでした。

ノルウェーの子どもたちと保育者 (写真:松田先生知人提供)

また、日本でも男性保育者の数は増えてきていますが、ノルウェーは男性保育者の数が多く、10パーセント程度を占めます。これはまれなケースではありますが、インタビューをした人の中には、園の3分の1が男性保育者であるという園もありました。男性保育者の存在が幼児教育にもたらす効果としては、子どもたちのお世話をするのは女性のほうが得意なのだという固定観念が生まれるのを防ぐことができるという点、性別で仕事が決まるのではなく、自分のなりたい職業に就けるというメッセージを子どもに伝えることができるという点や、父親が保育に参加しやすくなるという点が挙げられます。男性保育者が園にいることで父親が園に足を運びやすくなり、男性保育者と子どもたちの関わり方を見ていく中で子どもたちとの遊び方を学ぶことができるということです。
これらの要因により日本とノルウェーの幼児教育における違いが生じていると考えられます。

CLS:ノルウェーの保育者の社会的地位や給与は高いのでしょうか?

松田:給与や社会的地位は他職種に比べて、高くはないですね。ただ子どもの権利を重視するノルウェーにおいて、非常に必要とされている職業です。

時々ノルウェー語も交えて、楽しくお話してくださいます

諸外国の幼児教育への親の関わり方

CLS:他の外国では幼児教育への親の関わり方はノルウェーのような国が多いのでしょうか?

松田:関わり方は、国によってさまざまですが、どの国でも子どもたちのより良い成長のために、親の保育参加や参画は不可欠と考えられるようになってきています。例えば、ニュージーランドも、幼稚園と保護者が一緒に保育をするという考え方が広がっている点で、進んでいる国になります。中でもプレイセンターといって、保護者が主体となって運営している園があります。プレイセンターでは保護者の方たちがお金を出し合って保育士を雇用し、なおかつ保護者自身もシフト制で決められた曜日に、子どもたちを保育するという形で運営されているところもあるようです。一方、幼児教育や保育をサービスと捉え、保護者がいかに良いサービスを受けられるかを重視して保育を選ぶといった観点が強い国もあります。保育における安全面など、こういった観点が必要なこともありますが、やはり保護者も保育者も共に子どもたちのために力を合わせて、より良い保育環境を作り、子どもたちの成長を見守るという視点は重要だと考えています。

CLS展示に期待すること

CLS:令和5年度から学習成果をアウトプットする場として、CLSでは展示スペースを設けています。掲示に期待することやCLSへのご意見・ご要望などございますか?

武蔵野CLS【 2024秋の展示_後期 】の様子

松田:キャンパス内の学生が気軽に来られる場所に多くの学会発表やポスターが展示されていていることは非常に良い取り組みだと思います。他の学科の人がどういう研究をしているのか、どういう学部があるのかを知る機会になります。また、CLSが開いているときにはいつでも見ることができ、知見を得られる場があるというのは、総合大学ならではの利点であり、大学にとっても大きな意味を持つことだと思います。掲示物は学会ポスターだけでなく、子ども向けに製作されたおもちゃだったり、造形作品や建築の模型、書道作品であったりと多岐にわたるところや、いつ来ても同じものが展示されているわけではなく、定期的に変わっているところも良いと思います。これからも、CLSの展示を楽しみにしています。


いかがでしたか。
日本とノルウェーでは文化的な違いから、幼児教育に対する関与の仕方が異なるということがよくわかりました。幼いころからジェンダー平等や公平性を学ぶ機会を取り入れている、ノルウェーの幼児教育はとても素晴らしいと感じました。               
               武蔵野CLS学生スタッフ 薬学部 4年生 吉本 


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